事実的知識を概念的知識に 赤間指導担当局長の講話概要(道・道教委 2018-06-20付)
赤間局長は主体的・対話的で深い学びの実現がなぜ必要なのか確認することの重要性を説いた
十五日に道庁別館で開かれた三十年度第二回全道代表高校長研究協議会における赤間幸人学校教育局指導担当局長の講話の概要はつぎのとおり。
▼二十一世紀型の学校(授業)へ
まず、現在の教育改革の世界的な流れについてである。十九世紀から二十世紀に欧米で制度化され、明治期の日本にも導入された近代学校では、子どもたちに効率よく知識を伝える知識伝達型の一斉授業が中心であったが、二十世紀後半から知識基盤社会への移行が進み、知識そのものよりも「新たな知識や情報・技術を身に付けていく資質」が求められるようになる中、欧米諸国の学校では、一斉授業からグループによる協同学習が中心となってきた。
わが国においても、一九八〇年代の臨時教育審議会の「教えることから学ぶことへ」の提言などを受けて、思考力・判断力・表現力等や主体的な学習などを重視する学習指導要領改訂が行われ、現行学習指導要領では、知識基盤社会の中で生きる力を育成することを目指し、思考力・判断力・表現力等を育む観点から言語活動の充実に取り組んできたが、今回の改訂では、さらに、子どもたちが未来社会を切り拓くための資質・能力を確実に育むため、「主体的・対話的で深い学び」を実現することが求められている。
▼育成を目指す資質・能力の明確化とカリキュラム・マネジメント
中教審答申では、資質・能力の三つの柱が生きて働く知識・技能、未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等、学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等と示されていることを、あらためて確認しておきたい。
なお、日本とOECDの政策対話の資料で、思考力等が“スキル”と英訳されていることに着目していただきたい。
思考力などを育むに当たって、思考するスキルや表現するスキルといった、具体的に子どもたちが何ができるようになるかということを、可視化していくことが大切であると考えている。
また、確かな学力については、学校教育法第三〇条に規定された事項に加え、高大接続改革を視野に置いて、多様性・協働性が重視されたことを確認願う。
学校教育目標を設定するに当たって、学校として育成を目指す資質・能力を明確化することが求められていることについては、これまでも伝えてきたが、あらためて確認願うとともに、資料として、中教審高等学校教育部会が示した「コアを構成する資質・能力」の考え方も十分踏まえていただきたい。
▼「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて
本日の中心題であるが、各学校において、生徒の資質・能力を育むために主体的・対話的で深い学びがなぜ必要なのかという本質的な視点を確認していただきたい。
まず、学習指導要領と中教審答申の記載内容を確認願う。
中教審答申に、「教員一人ひとりが、子供たちの発達の段階や発達の特性、子どもの学習スタイルの多様性や教育的ニーズと教科等の学習内容、単元の構成や学習の場面に応じた方法について研究を重ね、ふさわしい方法を選択しながら、工夫して実践できるようにすることが重要」とあることを再確認していただきたい。
また、教科等を超えて授業改善の視点を共有することについては、各学校において、校長のリーダーシップのもと、全教職員で取り組んでいただきたい。
▽学習指導要領の目標・内容の構成の変化
つぎに、各教科・科目の目標・内容の構成が大きく変わったことを確認願う。資料では、現行の世界史Bと新しい世界史探究を比較して掲載している。世界史探究は新しい科目なので単純に比較できないが、目標および内容を、資質・能力の三つの柱で整理している。
ただし、「学びに向かう力・人間性等」については内容の各項目ごとには位置付けず、全項目を通じて育むという構成となっている。
中学校学習指導要領解説社会編の歴史的分野の内容にかかわる記載が参考になる。知識として示された事項と思考力・判断力・表現力等として示された事項は、別々のプロセスで身に付けるのではなく、「知識として身に付ける事項について、多面的・多角的に考察し、表現する学習プロセスを通して、知識を理解する」という構造を取っていることを理解していただきたい。
各教科・科目で育成を目指す知識・技能を学ぶ過程で、「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」、さらに「各学校で育成を目指す資質・能力」を、各教科等の文脈に応じて、内容的に関連が深く、学習対象としやすい内容事項と関連付けながら育むことが求められており、そのためには知識伝達型の授業にとどまることなく、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善が必要とされている。
世界史探究を例に取ると、各項目で示された思考力・判断力・表現力等の学びを通して知識・技能を理解するとともに、目標の「思考力・判断力・表現力等」の柱に示されている「歴史に見られる課題を把握し解決を視野に入れて構想したりする力や、考察、構想したことを効果的に説明したり、それらをもとに議論したりする力」を学習対象としやすい内容事項と関連付けて、対話的な学びなどを通して身に付ける授業を行うことなどが求められているということである。
▽知識の理解の質を高め資質・能力を育む学び
こうした学びの過程を通して、事実的知識を概念的知識に高め、生きて働く知識とすることが求められている。
今回の改訂に向けた中教審での議論においては、資質・能力について、教育学だけでなく、人間の発達や認知に関する科学などの幅広い学術研究の成果を踏まえて議論されており、知識を「知っている」→「分かる」→「使える」と高めることや、自らの思考の過程を認識するメタ認知の重要性などが指摘されている。
こうした検討過程で使われた資料は、中教審答申の補足資料で確認することができるので参考にしていただきたい。
また、知識の積み重ねだけでは、「活用する力」への学習の転移は簡単に起こらないことが実証されてきている。小・中学校で実施している全国学力・学習状況調査の「活用」の問題の正答率の状況などからも、そうしたことが指摘されるようになってきた。
そのため、習得・活用・探究という学びの過程の中で、教える場面と思考・判断・表現させる場面を効果的に設計して、「主体的・対話的で深い学び」を実現する授業を行い、知識を「活用する力」を育む場面を設定することによって、事実的知識を生きて働く知識に高めていくことが求められる。
次世代型教育推進センターでは、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの学習過程の質的改善によって、実現したい子どもの姿を、十九のピクトグラムでイメージ化しており、学習指導案作成に生かすなどして、「何ができるようになる」ことを目指す指導なのかを可視化するために効果的に活用できるものと考えている。
▽生徒の発達の支援
つぎに、生徒の発達の支援にかかわって、一つは、今回の改訂で「学習指導と関連付けながら」生徒指導の充実を図ることが明記されたことである。今回示された資質・能力の三つの柱の一つである「学びに向かう力・人間性等」がすべての教科等において目指すものと位置付けられ、学習指導と生徒指導の目指すところがより明確に共有されたことを踏まえ、生徒指導の機能を生かして、「主体的・対話的で深い学び」の充実を図っていくことが求められる。
もう一つは、障がいのある生徒などへの指導について「学習活動を行う場合に生じる困難さに応じた指導内容や指導方法の工夫」を行うことが、総則およびすべての教科等で示されたことである。
このことについては、小・中学校学習指導要領のすべての教科等の解説において、具体的な配慮の例が挙げられている。これまでも取り組んでいただいているが、今後、一人ひとりの生徒の困難さに応じた、よりきめ細かな配慮を学校全体の取組としていくことが求められる。
▽学習評価の改善
つぎに、学習評価の改善に向けてである。現在、中央教育審議会においては、児童生徒の学習評価に関するワーキンググループにおいて審議を進めているところであり、指導要録等の改善には今しばらく時間がかかると思われるが、文部科学省が公開している配付資料から、学習評価の現状と課題について、どのような審議が進められているかを把握しておくことが重要であると考える。
髙木展郎横浜国立大学教授の配布資料には、高校においては、本質的な観点別学習状況の評価が進められない現状があることが指摘されており、中教審答申で「“子どもたちにどういった力が身に付いたか”という学習の成果を的確にとらえ、教員が指導の改善を図るとともに、子どもたち自身が自らの学びを振り返ってつぎの学びに向かうことができるようにするためには、この学習評価の在り方が極めて重要であり、教育課程や学習・指導方法の改善と一貫性をもった形で改善を進めることが求められる」と提言されていることを踏まえ、評価は何のために行うものかということをあらためて確認する必要があり、知識の概念的な理解をどのように評価するか、思考・判断・表現、主体的に学習に取り組む態度をどのような方法で評価するか、教科等横断的な視点で育成を目指すこととした学習の基盤となる資質・能力の評価はどうするのかなどについてふれた上で「学習評価によって、一人ひとりの子どもたちの資質・能力をいかに伸ばせるかが今、問われようとしている」と提起している。
各学校においては、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた取組を進めるとともに、学習評価の在り方についても検討を進めていくことが大切であると考える。
▼高大接続改革
高大接続改革は、高校教育改革、大学教育改革、大学入学者選抜改革を一体として進める改革であり、新しい制度の対象となる生徒は、現在の高校一年生であることから、各学校において、様々な情報を収集していることと思うが、基本的な考え方や現在の状況などについて、情報を共有しておきたい。
大学入学共通テストについては、次期学習指導要領の方向性を踏まえ、より思考力・判断力・表現力を重視した作問となるよう見直しを図ることとしており、国語、数学への記述式問題の導入などが検討されている。ことしの十一月には、十万人規模の試行調査(プレテスト)の実施が予定されているので、今後、大学入試センターからの情報を的確に収集する必要がある。
各大学の個別入学者選抜の改革も求められており、二十五年十月の教育再生実行会議第四次提言以降、各大学は積極的に入学者選抜改革に取り組んでおり、AO入試の内容の見直しや拡大を図ったり、学力の三要素を評価するためのポートフォリオの導入や調査書の活用方法の開発を検討するなどの大きな改革が進んでいることを十分把握していくことが必要である。
最後に、今回の学習指導要領改訂では、一人ひとりの生徒が様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるよう、自分の良さや可能性を認識でき、あらゆる他者を価値のある存在として尊重することができ、多様な人々と協働することができる資質・能力を、あらゆる場面で育むことを目指しているということを根底に据えて、各学校の教育課程の改善に取り組んでいくことが重要であり、高校のすべての教室において、主体的・対話的で深い学びを実現させることが求められている。
(道・道教委 2018-06-20付)
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