少年の主張日高地区大会 「伝えたい言葉」 日高町門別中2年・神谷さん(道・道教委 2018-07-25付)
【浦河発】日高振興局主催、日高教育局共催の三十年度少年の主張日高地区大会が七月上旬、日高合同庁舎で開かれた。管内七町から代表となった中学生七人が参加。社会へ向けての意見や未来への希望や提案など、日ごろの自分の思いや考えを発表した。審査の結果、日高町立門別中学校二年生の神谷美希さんが発表した「伝えたい言葉」が最優秀賞に輝いた。
神谷さんは、京都に住んでいた認知症の祖母と北海道で同居した際、祖父は亡くなったのに「おじいちゃんはどこに行ったの?」と何度も聞かれ、だんだんうっとうしくなってきた。家族との生活が二年続いたあと、離れて暮らすようになり、せいせいして、ほっとした気持ちを口にしたときに、母親から「美希は子どものころおばあちゃんが好きでたくさんの愛情をもらった」ことを聞いた。
祖母に「ごめんね、大好きだよ。今までありがとう」の言葉を伝えたいと、自分の気持ちを素直に述べた。
神谷さんの発表内容はつぎのとおり。
◇ ◇ ◇
(おばあちゃんは、どうなるんだろう)
大阪の叔母から、祖父が亡くなったと連絡が入った。その時、私は、大好きな祖父を亡くした悲しさよりも、遺された祖母のことを考えていた。
祖母は、記憶力や判断力が低下する認知症という病気だ。それまで家事の多くを祖父がサポートしていて、とても京都でひとり暮らしができる状態ではなかった。
翌日、私たちは京都に向かった。葬儀を終えた母と叔母が時間をかけて話し合った結果、祖母を北海道に連れてきて、私たちと一緒に住むことになった。
祖母と共に暮らすのは、想像以上に大変なことだった。石鹸や消しゴムなど食べられないものを口に入れ、同じ話を何度も繰り返し、勝手に家を飛び出したりとそんなことが毎日のように続いた。
最初の頃は、まだ優しく対応できていた。不安そうな顔の祖母が「おじいちゃんはどこ行かはったんや?」と聞いてきても、悲しませないように「散歩に行ったんとちゃう?」とごまかして納得させたり、弟の消しゴムを食べようとしていた時も、「それ食べられへんから、このパン食べたらええよ」と笑顔で優しく言ったりすることができた。家族からは「どうやったらそんな対応できるの?すごい」と言われるほどだった。
でも、そんな日々が続くとストレスがたまってくるようになった。毎日同じ質問を繰り返し、意味不明な行動をする祖母。だんだん祖母の存在がうっとうしくなり、以前のような対応ができなくなっていった。それは、私の家族も同じで、父は祖母を避けて、自分の部屋に閉じこもり、弟もすごくイライラしていて、母は常に疲れた顔をしていた。皆、祖母の言うことを聞き流し、無視したりするようになってきた。そんな暮らしが二年近く続いた。皆、限界だった。
そんなある日、母が少し悲しそうな声で「ばあなぁ。京都のグループホームに入れるかもしれへん」と言い、私は(やった!やっといなくなるんだ!)と思った。
もうその頃は、何回聞いたかわからない「おじいちゃんはどこに行かはったんや?」という言葉に「死んだんや。何度も言ったやろう?なんで覚えてくれへんの?」ときつく言い、祖母の目を見ないようにして自分の部屋に逃げ込んでいた。離れて暮らせると聞いて、正直ほっとした。(いなくなってせいせいする)そんな風にも思った。その後、祖母は京都のグループホームへ入ることになった。
祖母と離れてしばらくした頃、私がふと「ばあがいないと家が静かでいいなあ」と笑って言うと、母がまた悲しそうな声で「小さい時は、美希はばあのこと大好きやったのに。いっぱいお世話になったのに。美希を初めて抱っこしてくれたのも、ばあやったんよ」。
私は、(はっ)とした。なぜ私は、あんな酷いことをしたんだろう。祖母に対する感情や行動には感謝のかけらもなく、恩を仇で返すって、こういうことなんだろうなと思った。
祖母は、もう私が誰なのか忘れてしまっている。けれど、かすかに覚えている小さい頃の私を好きでいてくれたのだと思うと、今までの自分の行動が悔やまれてならない。いや、後悔するだけでなく、今までのお詫びと感謝の気持ちを伝えなければいけない。
次、京都に行く時は、祖母と会う。きっと、祖母はすぐに忘れてしまうだろう。それでもいい。一瞬でもいいから私の気持ちを受け止めてほしい。
「ばあ、酷い態度になってしまって、本当にごめんね。でも、大好きだよ。今までありがとう」。
(道・道教委 2018-07-25付)
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