【PICK UP2018】十勝管内 両輪の取組で地方元気に 「ふるさと教育」と「起業家教育」
(市町村 2018-12-26付)

◆地域活性化へ「教育」を核に

 北海道では全国を上回るスピードで人口減少、高齢化が進んでいる。道の二〇三〇年の総人口の推計によると、二〇〇五年に比べて約一七%の減となる。また、高齢化率は三五・六%まで高まることが見込まれている。大きな人口変動によって、存続が危ぶまれる自治体の出現も危惧されている。

 過疎地域がコミュニティを維持していくには、若者が都市部に流出する構造を変えていかなければならないが、そのために必要なことは多岐にわたる。生活インフラの維持、地場産業の振興、医療の充実―。十勝管内でも自治体を中心に様々な取組が進められているが、「教育」を地域活性化の核に据えたまちがある。

 浦幌高校が閉校になったことがきっかけで、二十二年度から小中一貫コミュニティ・スクールを推進している浦幌町。町内に一校ずつある小・中学校で九年間を系統立てたカリキュラムの中に「将来の地域づくりの担い手の育成」を目標とした「ふるさとキャリア教育」を位置付けた。

 中でも総合的な学習の時間で、地域を深く知る学習などを通じて、子どもの地域への愛着を醸成。浦幌中学校では三年時に、これまでの学習の集大成を披露する場として「うらほろ活性化案発表会」を開いている。生徒は、まちを活性化するアイデアを立案し、調査を行って検証。発表会で地域住民にプレゼンテーションしている。

 この取組のねらいは、生徒の「ふるさとをより良いまちにしたい」という思いを主体的な行動に結び付けることにある。実際、生徒は活性化案の企画に当たって、修学旅行先で通行人にアンケートしたり、行政職員にインタビューしたりするなど、様々な活動を行っている。浦幌中の教諭は「自主性は、実践的な活動の中で意欲と責任をもって課題解決に取り組むことで育まれる」と説明する。

 本年度、九年間の小中一貫教育を受けた生徒が初めて高校を卒業する。現時点では、ほとんどの生徒が町外に就職・進学する予定となっている。しかし、その中には「資格や技術を得て、町内で仕事をしたい」と将来の夢を語る生徒もいる。浦幌町の「ふるさとキャリア教育」が実を結ぶかどうかを知るには、時計の針が進むのをもう少し待つ必要がある。

◆地域ぐるみの取組で若手起業家育てる

 地域の活性化に関して、別の観点から教育の重要性を指摘する声もある。「まち特有の資源を生かした産業をつくるため、“起業家教育”は都市部だけでなく、地方部にこそ必要」(商業高校教員)。

 起業家教育とは、チャレンジ精神や積極性、自己肯定感を高めることなどを目指す教育手法のこと。ただ、起業家教育は、学習指導要領の中に明確に位置付けられているものではない。文部科学省もモデル事業による試行を行っている段階で、様々な主体が各地でそれぞれに取り組んでいるのが現状だ。

 十勝管内を見渡すと、帯広信用金庫を中心とする金融界と管内十九市町村が合同で実施している「とかち・イノベーション・プログラム」(TIP)が起業家教育の一端を担うものとなっている。TIPは、管内の起業を志す人たちが集まり学び合う中で、新規事業の立ち上げを目指すもの。これまで、移住コンシェルジュや農家アルバイトマッチングサービスなど数々の事業を実現してきた。帯広柏葉高校の山本愛優美さん(三年)もTIPのサポートを受ける起業家の一人だ。

 山本さんはフランス料理店を営む叔父の影響で自営業に興味をもち、起業を志した。高校二年生のときに起業し、学習支援やキャリア形成支援などの事業を展開。ことし八月には、TIPのサポートを受けながら商店街を舞台に仲間たちと学校の垣根を越えた「超学校祭」を開催した。

 イベントでは、高校生の特技やできることを生かして、歌唱発表や商店の看板製作、ソーシャルネットワークサービスの写真撮影などを企画。商店街の盛り上げに一役買った。

 山本さんは「何も分からずに起業したので、経験のある大人とのつながりに助けられた」と話す。超学校祭を企画する際にも「様々なことを教えてもらった」と、周囲の大人のサポートに感謝する。

 地域の子どもへのかかわり方について、浦幌町のふるさとキャリア教育を支援する、うらほろスタイルサポートの門真孝敬理事長は「子どもたちの“まちのために貢献したい”という思いを、大人が真摯に受け止めることが重要」と力を込める。

 生まれ育った土地の魅力を伝える「ふるさとキャリア教育」と、生まれ育ったまちで働き続ける力を育む「起業家教育」は、地方部のまちにとって両輪で進めることが期待される。

 今後も一年一年、人口変動の波がまちに押し寄せる。教育が地方のまちづくりに果たす役割は、これまでになく重要なものになっているのかもしれない。

(市町村 2018-12-26付)

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