新春インタビュー―札幌市教委・長谷川雅英教育長に聞く 全ての子どもが、安全・安心に学びに向かえる取組を
(市町村 2019-01-01付)

日付不明写真_1インタビュー・長谷川教育長
様々な教育施策について語る長谷川教育長

 新年を迎え、札幌市教委の長谷川雅英教育長に、就任して半年間の所感や防災教育、教員の働き方改革についての取組などを聞いた。

―教育長に就任した半年間の所感をお願いします。

 就任後の半年で、積極的に多くの学校を訪れ、教職員や子どもたちと直接対話することに努めるとともに、他都市の教育委員会をはじめ、教育関係団体、生涯学習や文化・スポーツ振興に携わる関係者など、多くの方々と意見交換を行ってきました。特に、教職員の方々が子どもたちの目線に立ち、一人ひとりに寄り添いながら大変熱心に指導されている姿、そして、それに応える子どもたちの笑顔が忘れられません。

 このような機会を通して、教育にかかわる方々の熱意や真摯な姿勢に接することができ、教育というものの奥深さをより一層認識すると同時に、教育長としての重責をあらためて痛感しているところです。

 学校をはじめとする様々な教育施設に足を運び、子どもたちや教育にかかわる人々の声を聞くことで、一人ひとりの子どもがじっくりと学びに向かい、思い切り遊び、しっかりと食べ、伸び伸びと成長していくことができる環境を整え、質の高い学校教育を提供したいという思いがさらに強いものとなっています。

 そのような中、昨年九月に発生した北海道胆振東部地震は、教育委員会にとっても学校現場にとっても、非常に衝撃的な出来事でした。児童生徒が在校していない早朝に発生したものの、長時間にわたる大規模停電によって、家庭への臨時休校の連絡などの対応に苦慮する中、各学校においては、児童生徒の安否確認や避難所運営への協力、学校再開等、教職員の皆さんが昼夜を分かたず対応してくださったことに敬意を表するとともに、保護者や地域の皆さんのご協力に大変感謝しています。

 一方で、浮き彫りとなった様々な課題については、学校現場からの意見をいただきながら、登下校時や課業時、あるいは校外の行事の際など、震災発生時の様々な事態を想定し、児童生徒の置かれた場面に応じた適切な対応ができるよう、学校震災対応マニュアルの見直しなど、取組を進めてまいります。

 また、社会情勢の変化等を踏まえ、来年度から五年間で取り組む教育施策を示す「札幌市教育振興基本計画改定版」の策定を進めてきました。すべての子どもが安心して学びに向かい、自らの可能性を伸ばしていくことができるよう、子どもや保護者に一層寄り添い、一人ひとりを大切にした教育を進めてまいりたいと考えています。その実現に向けては、子どもたちにかかわる様々な組織や人が、子どもの状況や支援の方向性などについて互いに共通理解を図り、それぞれの専門性を生かして支えていくことが重要であると認識しており、今後も、関係機関等と情報共有を密にし、連携を深めることで、多様な教育施策を展開してまいります。

 施策の展開に当たりましては、教育の特性である「継続性・安定性の確保」という観点も勘案しながら、教育を取り巻く状況の変化等を適時適切に捉え、見直しや改善を行い、教育施策のより一層の充実、発展に力を尽くしてまいりたいと考えております。

―九月には地震に見舞われました。大型台風もありました。防災教育について今後どう取り組んでいくのか教育長の考えをお聞かせ下さい。

 昨年は、その世相を表す漢字が「災」となったとおり、全国的にみても、島根県や大阪府での地震、西日本豪雨など、多くの自然災害に見舞われた年となりました。

 本市においても、九月の台風21号の影響によって、学校プールの屋根部分のビニールが破損したり、学校敷地内の樹木が倒れてフェンスや電線を破損したりするなどして、臨時休校とせざるを得ない学校が生じるなど、様々な被害が発生しました。

 そして、その直後に発生した北海道胆振東部地震によって、一部の学校においては、校舎の床や壁に亀裂が生じ、グラウンドが陥没して使用できなくなるなど大きな被害を受けました。また、避難所が開設された学校には、地域から多くの方々が避難され、余震が続いたこともあり、子どもたちも大変不安な日々を過ごしました。一方で、SNSを通じた呼び掛けに応じた札幌市内の中高生が、給水袋をマンションなどの高層階に住まわれている方々に運び、お年寄りなど住民から感謝されたという心温まるニュースもありました。

 このような台風や地震による被害を目の当たりにして、私自身、あらためて日ごろから災害に対する備えと防災教育の重要性を認識したところです。

 本市では、これまで、各学校において地域等の実態に即して学校安全計画を作成し、その計画の中に避難訓練等を位置付け、地震など様々な災害の発生時には落ち着いて行動をすることなど、集団で取るべき行動を具体的に指導してまいりました。

 また、札幌市危機管理対策室とともに小・中学生用の防災リーフレットを作成し、地震発生時の子どもの状況に合わせて、一人ひとりの子どもが取るべき行動を考えさせるなどしてきました。例えば、部屋で地震が起きたときには、布団をかぶって、まずは自分自身を守り、揺れがおさまったら火元の安全を確認して火事の防止に努めることなどが示されております。このような防災教育を、今回の地震を踏まえあらためて指導していくことで、多くの子どもたちが学校でも家庭においても落ち着いた行動を取ることができるようになっていくものと捉えております。

 昨年のこうした災害の経験によって、学校における防災教育の重要性があらためて認識され、子どもたちと教職員の防災への意識も一層高まってきていると感じております。

 防災教育においては、火災や地震等が発生した際に、子ども自身が的確な状況判断に基づき、適切な意志決定や行動選択ができるようになることや、危険を理解したり予測したりして日常的な備えができるようになることが重要です。子どもたちにこのような力を育むためには、様々な教科をはじめ、総合的な学習の時間や特別活動など、学校の教育活動全体を通じて防災教育に取り組むことが必要となります。

 そのため、本年一月に、札幌市危機管理対策室と札幌市教委の共催によって、教職員等を対象とした「防災教育セミナー」を行い、教職員の防災教育に対する意識や資質を高めてまいります。

 また、来年度からは、札幌市の研究開発事業において防災教育カリキュラムの作成に向け研究を進めるとともに、防災教育の授業公開を行うなど、各校における防災教育の充実を図っていく予定です。

―本年度で十年目を迎えた札幌らしい特色ある学校教育について、今後の展望などをお聞かせください。

 札幌らしい特色ある学校教育は、平成二十一年度から、「雪」「環境」「読書」の三つをテーマとした学びを各園・学校において共通に取り組むものとして、学校教育の重点に位置付けて実施してきました。

 子どもたちが学習に親しみをもって取り組めるよう、二十二年度から市立高校生がデザインし小学生が名付けた三つのキャラクター「ゆっぽろ」「ちっきゅん」「おっほん」が生まれ、広報物等にイラストとして登場するほか、各種学校行事やイベント等に着ぐるみが出演するなど、学習活動の普及促進に向けて、幅広く活躍してきました。

 本年度は、取組開始から十年目を迎え、新しい学習指導要領が示された時期でもありますので、新たに検討プロジェクト会議を開催し、これまでの取組成果と課題について整理することにしました。検討委員には、保護者を含む学校関係者および有識者に入っていただき、札幌で育つ子どもが、そのよさや可能性を一層伸ばすことができるよう、今後の札幌らしい特色ある学校教育の在り方について協議を進めてきたところです。

 検討プロジェクト会議の最終報告では、「雪」としてはスキー学習ばかりではなく、「異学年交流を生かしたスノーフェスティバル」の実施、「環境」としては「地域の方を講師とした環境についての学習」の実施、「読書」としては「一斉読書」に加えて「保護者による読み聞かせ」など、外部人材の活用や地域との連携などを通して、活動を教育課程に位置付けるほか、身に付ける資質・能力を明確にした取組を進めるなど、大きな成果もみられました。

 今後に向けては、これまでの成果と課題を受けて、「雪」「環境」「読書」の三つをテーマとした学びを継続するということや、社会情勢の変化、教育界の動向、これまで各学校で工夫した取組をもとに、幼稚園から小・中学校、高校までのこの三つをテーマとした学びを、子どもにとって連続性や系統性のあるものにすることや、それぞれの取組や各校種、地域のつながりなどをより一層意識した取組にしたいと考えております。

 今後も「札幌らしい特色ある学校教育」が各学校の創造性が発揮される取組によって、子どもたち一人ひとりの「ふるさと札幌」への思いが強まるなど、「自立した札幌人」の育成に一層効果的な取組となることを期待しています。そして、将来、札幌で学んだ子どもたちが「雪」「環境」「読書」をテーマとして学んだことを共通の話題として語り合えることを願っています。

―教員の働き方改革について重点的に取り組むべきと考えることがあれば教えて下さい。

 現在、子どもや学校を取り巻く環境の変化に伴い、学校に求められる役割が拡大し、抱える課題も複雑化・多様化していることから、教員にも様々な対応が求められています。

 教員の長時間労働は看過できない状況にありますが、一昨年、文部科学省から公表された「教員勤務実態調査」を受けて、文科省の諮問機関である中央教育審議会等からも、長時間労働を解消するための様々な対策が示されました。

 こうした状況の中、本市においては、教員の勤務実態把握、休暇取得促進および長時間労働是正を重点事項と捉え、各種取組を実施してまいりました。

 まず、教員の勤務実態把握についてですが、昨年八月からパソコンを活用した「在校時間把握」の取組を試行実施しているところです。教員一人ひとりが自身の働き方を見直す契機となることが期待されるほか、この取組によって得られる情報を活用しながら、さらなる長時間労働是正に向けた実効性ある取組を推進してまいりたいと考えております。

 また、休暇取得促進について、本市では一昨年から市立学校を対象とし、「夏季休校日」の取組を試行実施しております。「夏季休校日」は、昨今の教職員の勤務実態等を踏まえ、教職員が心身の健康維持および増進を一層図ることができるよう、休暇を取得しやすくするための取組であり、昨年は八月十三日から十五日の三日間で実施しました。

 この取組は試行二年目となり、各学校現場において定着が図られ、結果として多くの教職員が休暇を取得し、疲労回復やリフレッシュにつなげることができているものと考えております。

 休暇取得が促進されることによって、心身の回復が図られるだけでなく、教員としての資質を向上させるための自己研鑽の時間をもつこともできるものと考えており、学校現場は、日々多忙な実態にあるとは思いますが、休暇取得促進に向けた取組を着実に進めてまいります。

 つぎに、長時間労働是正のための取組に関しては、先行して多忙化対策に取り組む学校にヒアリングを実施した上で、校務支援システムやICT機器等を活用した業務の効率化や有効な取組事例についてまとめた冊子を作成し、各学校にお知らせしました。

 また、一昨年の十一月には、札幌市立学校における部活動の活動基準について、通知したところです。

部活動は、生徒の知力・体力の向上のみならず、自主性や協調性、社会性を伸長するなど、大変有意義な活動でありますが、一部の部活動では、休養日の未設定や活動の長時間化等の傾向がみられ、生徒の安全面・健康面や、指導に当たる教職員の心身の健康等への影響が懸念されたため、持続可能な部活動の実現に向け、一定の基準を示しました。

 この活動基準では、週に二日の休養日を設定することとしており、各学校においては、昨年四月から、これに基づいた部活動を実施いただいているところです。生徒・教職員双方にとって過度な負担が生じない持続可能な部活動の実現に向け、今後も活動基準の浸透・定着を図ってまいります。

 こうした取組に加え、昨年八月から、長時間労働是正のための取組の一環として、勤務時間外の学校への電話を自動応答により対応する「転送電話」の取組を実施しています。この取組につきましては、地域、保護者の皆様のご理解、ご協力も賜りながら、円滑に運用することができています。現場の教職員の方々からも「授業準備等に集中して取り組めるようになった」等の好意的な声をいただいているところです。長時間労働は、こういった取組だけで解決するものとは考えておりませんが、一つの手段として活用していただき、少しでも長時間労働是正に資する取組となることを期待しています。

 私は、子どもたちの笑顔があふれ、自ら学ぶ喜びを実感できる学校づくりを実現するためには、教員一人ひとりが元気な姿で、子どもたちとしっかりと向き合う時間を確保していくことが重要と考えており、そのためには、教員の業務負担をさらに軽減していかなければなりません。

 教職員がやりがいをもって働くことができる良好な職場環境を整備していくためにも、教育委員会と学校が一丸となって、働き方改革にかかわる取組を進めてまいります。

―新年を迎え、学校や関係機関、保護者、子どもたちに向けたメッセージをお願いします。

 ことしは「平成」という年号が終わり、新たな年号が始まる年となります。昨年の様々な経験を通して、子どもたちには、感じたことや考えたこと、学んだことを大切にし、この新しい時代が始まる節目の年に、ぜひとも自分なりの目標や夢について、あらためて考えてみてもらいたいと思っています。そして、その目標や夢に向かって、臆せず挑戦し、取り組んでいく力を身に付けていってほしいと思います。

 また、保護者の皆様には、学校や地域と一体となって、子どもに寄り添い、共に子どもたちの成長を促していただければと思います。そのためにも、子どもたちの日々の成長を深い愛情で温かく見守り、そして、子どもたちをしっかり抱きしめてあげてください。

 学校においては、家庭や地域にもご協力いただきながら、子どもの学習習慣・運動習慣・生活習慣づくりを支えることによって、子どもが元気で健やかに、自ら目標をもち、粘り強く取り組めるようになることを目指してもらいたいです。

 子どもたちが笑顔で伸び伸びと成長できるよう、これからも教育の充実、発展に取り組んでまいりますので、本年も変わらぬご理解とご協力をお願いします。

―ありがとうございました。

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札幌らしい特色ある学校教育のキャラクター ゆっぽろ
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札幌らしい特色ある学校教育のキャラクター ちっきゅん
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札幌らしい特色ある学校教育のキャラクター おっほん

(市町村 2019-01-01付)

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