【新春インタビュー 4種校長会に聞く③】 生徒の個性伸長、学校の特色化推進 道高校長協会会長 川口淳氏
(関係団体 2019-01-17付)

北海道高等学校長協会会長川口会長
道高校長協会会長・川口淳氏

―校長会としての新年の展望をお聞かせください。

 本協会は、本年度創立七十周年の節目を迎えました。昭和二十四年に結成されて以来、本協会の発展にご尽力されました皆様に敬意を表しますとともに、多大なご支援を賜りました多くの関係の皆様に心から感謝を申し上げます。

 平成という時代の教育を顧みて特徴的なことを挙げますと、一つ目は、教育の多様化・弾力化が図られてきたことです。高校への進学率が高くなり、生徒の興味・関心や進路希望等が多様化していることなどから、単位制高校、総合学科校、中高一貫教育校などの新たなタイプの学校を設置したり、各学校が教科・科目の選択幅を広げたりするなど、教育課程において弾力的な編成をしており、生徒が学習ニーズに応じて、学校を選択できるようになりました。

 二つ目は、個性を伸ばす教育が進められてきたことです。「生きる力」という言葉が、平成八年七月の中央教育審議会答申で初めて登場し、確かな学力、豊かな人間性、健やかな身体のバランスの取れた教育が重視されました。「総合的な学習の時間」の設置、インターンシップやボランティア活動などの体験活動の重視、スクールカウンセラーの活用などによって、一人ひとりの生徒の能力を伸ばす教育が推進されてきました。

 三つ目は、学校の自主性が尊重され、特色化が図られてきたことです。新たなタイプの学校の設置や、地域との連携による教育活動が進められました。また、学校評議員会や学校評価の活用によって教育活動の工夫・改善に生かされるなど、各学校が特色を有しながら教育活動を行ってきました。

 こうした中、高校教育は今、大きな変革期を迎えています。教育再生実行会議の第四次提言で、「高等学校教育と大学教育の接続・大学入学者選抜の在り方について」が示され、高大接続改革をはじめとする様々な教育改革が進められています。

 高校学習指導要領については、昨年七月に解説が公表され、八月に移行措置が示されました。特に、総則の解説には、改訂の基本方針や要点、教育課程の意義や基準などのほか、総則の各項目について具体例を挙げて、内容を詳細に記載しています。解説等を活用し、学習指導要領の趣旨や内容について十分に理解を深め、三十四年度入学者教育課程を編成していく必要があります。各学校では、育成すべき資質・能力を明確にしてカリキュラム・マネジメントを構築すること、「主体的・対話的で深い学び」による授業の研究・実践を積み重ねること、「総合的な学習の時間」の内容を見直し「総合的な探究の時間」に生かすことに、早急に取り組んでいく必要があると考えています。社会に一歩踏み出せば、様々な問題に直面することになることから、課題研究をはじめとする探究的な学習を取り入れ、様々な問題に対応できる素養を身に付けることが重要であり、各教科・科目や「総合的な探究の時間」の工夫が必要になってくると考えています。

 また、三十二年度から「大学入学共通テスト」が国語と数学の記述式の導入や英語の民間資格・検定試験の活用などによって実施され、来年度から「高校生のための学びの基礎診断」が基礎学力の確実な習得と学習意欲の喚起を目的として実施されます。

 各学校では、こうした教育の動向を踏まえ、新たな制度や施策がスムーズに実施できるよう、学校全体で組織的・計画的に準備を進めていく必要があります。

 また、先ほど申しました教育の多様化・弾力化、一人ひとりの個性の伸長、学校の自主性による特色化を引き続き推進していくことが望ましいと考えています。

◆自然災害時の危機管理充実を

―校長会の抱える課題と対策を伺います。

 一つ目は、危機管理についてです。昨年九月に発生しました北海道胆振東部地震で本道は大きな被害を受けました。多くの方々が犠牲となり大変痛ましく感じています。ほとんどの学校で臨時休校の措置を取りましたが、ブラックアウトになりましたので、連絡網が十分に機能しない状況になりました。また近年、台風や大雨による災害が多く発生し、交通機関などの復旧が長期化する場合もあり、学校での教育活動にも影響を及ぼしています。あらためて、日ごろのあるいは緊急時の危機管理の重要性を感じているところです。 

 各学校においては、大きな自然災害が発生したときに、生徒および教職員の安全の確認、臨時休校や行事等の中止の判断、停電時における連絡をいつどのように行うかなどのマニュアルを見直し、危機に備えておく必要があります。

 二つ目は、働き方改革についてです。「北海道アクション・プラン」において、部活動の休養日や活動時間などが示されており、施策をスムーズに進めていく必要があると考えています。一方で、部活動が高校生活において重要な役割を果たしており、生徒の能力の伸張が図られること、進路選択にかかわる場合があることを意識しておかなければならないと考えています。

 また、昨年、教職員の出退勤について試行調査が実施されました。勤務時間の把握をはじめ、新たな施策や取組の導入に当たって、課題等を整理し解決を図っていきたいと考えています。

 三つ目は後継者育成についてです。来年度、校長の退職が多くなることが見込まれており、教頭候補の確保が大きな課題となっています。本協会では昨年度から、昇任教頭事前研修会を開催し、様々な立場の方からの講話のほか、グループ協議が熱心に行われたところですが、今後も、後継者育成につながるような取組を推進してまいりたいと考えています。

〝協働〟重点に変化へ対応

―新年度の重点的取組をお聞かせください。

 本協会ではこの二年間、「協働」ということに重点を置いて、様々な活動に取り組んできました。

 一つには、昨今、高校教育を取り巻く環境が大きく変化していることから、校長間の情報共有や意見交換を積極的に行っていく必要があるためです。新しい高校学習指導要領に基づく教育課程の編成、平成三十三年度大学入学者選抜実施要項の見直しによる、新たな入学者選抜に向けた準備を進めることになります。また、働き方改革については、時間外勤務の縮減による教職員の負担軽減に向けて、各学校においても様々な施策を工夫して取り組むことになります。新しい制度や施策、先進的な実践例などの情報を収集することによって、自校の施策にも生かすことができるものと考えています。

 もう一つは、本協会の活動の活性化を図っていく必要があるためです。本年度、道教委主催によるテレビ会議システムを活用した道高校教育改善研究協議会が二回開催されました。その中で、喫緊の教育課題をテーマとして設定し意見交換を行っており、八月の一回目は働き方改革、十二月の二回目は勤務時間の把握について協議しました。参加された方々に、学校における実態と様々な課題について理解していただいたと考えています。

 また、本協会の活動の要である調査研究部では、教育課程、管理運営、生徒指導、進路指導の四つの委員会のほか、高大接続小委員会において、教育の動向や喫緊の教育課題をテーマにして、時間をかけて調査・研究を行い、報告書としてまとめ、一月の後期研究協議会で研究発表を行っており、まさに協働による活動となっています。今後も、これまでの取組の改善を図り、必要に応じて新たな取組を検討するなど、活動の活性化を図ってまいりたいと考えています。

 教育改革が進む中、これから一層、校長のリーダー性が強く求められていくと感じています。校長がどのようにビジョンを示し教職員の意識改革を図っていくか、教職員の能力を生かしどのように組織づくりを進めるか、様々な方策を模索しながら、よりよい教育を目指していくことになります。

 こうした教育の原動力となるのは子どもたちの成長です。近年、若い世代による様々な分野での活躍が多くの人々に夢と希望をもたらしており、あらためて高校教育の重要性を認識しているところです。将来、Sciety5・0という新たな時代が到来しても、子どもたちが自立し明るい未来を創造していくため、子どもたちの心身の成長を支えていく役割を果たしていくことが私たちの使命です。

 私たちが社会の変化をいち早く感じ取り、中長期的かつ多面的な視点に立ち、変化に対応していかなければなりません。本協会の様々な活動の足跡をたどりますと、校長間のネットワークを大切にしてきたことの重みをあらためて感じているところであり、私たちも様々な機会を通じて情報共有と意見交換に努め、調査・研究や研修などによって研鑚を積み、相互の協力によって実効性のある活動に結び付けてまいりたいと考えています。

(かわぐち・じゅん)

 昭和58年筑波大大学院修了。平成19年野幌高教頭、21年新しい高校づくり推進室主幹、22年高校教育課主幹、23年美唄尚栄高校長、25年道立教育研究所研究・相談部長、27年岩見沢緑陵高校長を経て、28年から札幌南高校長。

 昭和34年1月16日生まれ、60歳。旭川市出身。

(関係団体 2019-01-17付)

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