【新春インタビュー 4種校長会に聞く④】共助の土台となる共生社会形成へ 道特別支援学校長会長 宮崎真彰氏(関係団体 2019-01-18付)
道特別支援学校長会会長・宮崎真彰氏
―校長会として新年の展望をお聞かせください。
本年度は台風や北海道胆振東部地震など、多くの自然災害に遭遇しました。被災された皆様に衷心より哀悼の意を表します。特別支援学校に通う幼児児童生徒が無事であったこと、校舎も授業に支障を来すまでの被害がなかったことは幸いでしたが、多くの課題が浮き彫りになりました。
まずは、多くの特別支援学校が寄宿舎を併設しているということです。震災時には、一千三百七十人余りの児童生徒の大半が在舎していました。公共交通機関の運休やライフラインが寸断される中で、遠隔地に居住する生徒の中には帰宅が困難となるケースもありました。
停電による影響は、情報通信機器の停止による幼児児童生徒の安否の確認ばかりでなく、断水や発報機器の停止など、施設設備の保守に影響を及ぼしました。
また、児童生徒の自宅においても、エレベーターの停止によって移動が困難となったり、呼吸器などの生命維持にかかる機器が停止するなど、電気が命と暮らしを支えていることをあらためて知らされました。
特別支援学校長会では、各校で遭遇した困難状況を集約し情報共有を図るとともに、道教委に対して校長会との密接な連携を緊急要望したところです。このような中で、近隣の方たちが、寄宿舎や自宅で過ごす子どもたちや家族のことを心に留めていただき、手助けをしていただくなど、各地で様々な支え合いがありました。災害対応は、自助、公助、共助と言われますが、共助は共生社会の一つの姿でもあると思います。
特別支援学校では、交流および共同学習やスポーツ、文化・芸術などによる生徒同士のつながり、現場実習や環境整備等による地域の皆様とのつながりなど、多くの方たちとのつながりを広げていますが、今後とも、関係機関との連携のもと共助の土台となる共生社会の形成に向けて、特別支援教育の発展・充実に努力してまいります。
―校長会の抱える課題と対策を伺います。
本年度の本道の国公私立を合わせた特別支援学校は七十二校です。今春も道南に高等支援学校が開校する予定です。
就学者が増え続ける中にあって、特別支援学校の教職員は定年退職に伴う大幅な交代期にあります。校長会としては、ミドルリーダー、管理職等の育成が大きな課題と認識しており、冬季研究協議会では、全校長が学校経営案を持参して還流するほか、①新学習指導要領を視野に入れた教育課程改善に向けた取組②教職員の専門性の向上に向けた取組③教職員のコンプライアンスに関する取組④学校の組織改革に関する取組―など、十二のテーマを設定して課題解決に向けた方向性を協議したところです。
―新年度の重点的取組をお聞かせください。
障がい種別に共通して、専門性の継承・向上が課題であり、新年度の重点としています。
視覚障がい教育では、全道の盲学校、視覚支援学校の四校が道央、道南、道北、道東の各圏域における視覚障がい教育のセンターとして、弱視特別支援学級、通級指導教室、眼科医など、関係機関と連携して役割を担っています。学習指導では、幼児児童生徒一人ひとりの見え方や発達段階に応じた拡大や触察等の教材教具の作成や工夫など、教職員の専門性の向上が求められています。
本年度は、特にICTの活用に力を入れています。寄宿舎の舎友会活動を札幌と函館を結んで行っていますが、今後は、四校を結んだ活動や授業交流も検討しています。夏の専門性向上研修会では、札幌視覚と函館盲との遠隔授業システムを使った講義配信や北海道視覚障害教育研究大会(旭川大会)では、道内盲学校と道立特別支援教育センターを結んで、研究発表や講演などを配信しました。
今後は日常的にICTを活用することで、少人数化している視覚障がい教育の教育内容・方法を改善・充実するとともに、経費や移動にかかる負担軽減にも努め、効果的・効率的な取組を展開していきたいと考えています。
聴覚障がい教育では、七校がそれぞれの地区において聴覚障がい教育のセンター的な役割を担っています。北海道は今まで聾学校の乳幼児相談室がゼロ歳児からの療育を担ってきましたが、本年度から保健福祉部の新事業として「難聴児等支援派遣研修事業」が始まり全国的に注目されています。これによって早期療育についてネットワークがさらに広がっています。
幼児児童生徒の言語力・学力の向上については、多様なコミュニケーション手段を基盤に据えて幼稚園、小学校、中学校で行われている教育実践をできる限り取り入れ、子ども一人ひとりの力を効果的・効率的に育てています。教職員の専門性については、本年度実施された第五十二回全日本聾教育研究大会(北海道大会)の成果をもとに、さらなる専門性向上に努めます。
知的障がい教育では、各校が新学習指導要領への移行措置や全面実施に向けて教育課程の改善・充実に取り組んでいるところです。高等部の新学習指導要領の公示も控えていますが、まずは、学習指導要領を深く理解し、その上で「カリキュラム・マネジメント」や知的障がい教育における「主体的・対話的で深い学び」の在り方、知的障がいの状態や経験等に応じた具体的な指導内容の設定、道徳の教科化の対応など、教育課程の編成が求められています。義務併設校、高等部単置校それぞれの実践について情報交換、交流を深めていきたいと考えています。
また、今春には、新設高等支援学校一校(普通科・職業学科)とともに職業学科を設置する高等部一校に普通科設置、さらには、従来の高等部職業学科設置校に小・中学部が併設されるという新しい形の知的障がい教育校の設置が進められていきます。道教委が進める入学者選考検査を含めた再来年度からの「新しい形の知的障がい特別支援学校高等部」への移行に向けた取組に対して連携・協力を図るとともに、「社会に開かれた教育課程」の実現に向けた創意工夫に努めてまいります。
肢体不自由教育では、二つの研修会を核に学校力と教員個々の実践力の向上に努めています。北海道肢体不自由教育研究大会(「北肢研」)では、各校の校内研究の成果や課題等についてポスター発表や分科会協議を通じて学び合い、講演会では新学習指導要領に基づく教育課程改善・充実の視点や留意点について理解を深めています。肢体不自由教育専門性向上セミナーでは、障がいの重い子どもの実態把握と目標設定の仕方など、授業づくりや授業改善をテーマに講演と演習を行い、「教科指導」や「摂食指導」「教材・教具」など、六分科会で実践的授業力の向上を目指しています。
また、校長・副校長・教頭による合同研究では、「本道の肢体不自由教育・病弱教育ビジョン」の策定に取り組むとともに、各校からの大会参加が難しくなっている肢体不自由養護学校体育大会について、民間の力も借りてICTによる遠隔システムを活用した開催の可能性を追求しています。
さらに、障がいの重度・重複化に対応して、本年度は自立活動教諭を中心とした摂食研修会を開催するとともに、高度な医療的ケアなどに対応した取組も一校で行っており、来年度からは医療的ケアを担う学校看護師の裾野を広げるために、道央圏の学校を中心に看護師養成機関の看護実習の受け入れも開始します。
病弱教育では、全国病弱虚弱教育研究連盟が隔年で実施している「病類調査(平成二十九年度)」によると、小学(部)校二百四十七人、中学(部)校百三十一人、高等部三十五人の病気のある児童生徒が学んでいます。小・中学校で増加傾向にありますが、高等部では大幅に減少しております。
八雲養護学校の機能移転に伴う病弱教育校の再編による本道の研究組織体制の見直しも喫緊の課題となっており、東北地区病連との連携を模索しているところです。新学習指導要領では、間接体験、疑似体験などを取り入れた指導方法の工夫が求められており、ICTを活用した授業の推進に努めているところです。
―最後に一言お願いします。
東京オリンピック・パラリンピックの大会コンセプトの一つに「多様性と調和」があります。そこには、人種、性別、言語、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩する。東京二〇二〇大会を世界中の人々が多様性と調和の重要性をあらためて認識し、共生社会を育む契機となるような大会とする、とあります。改訂された学習指導要領の前文には、「あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え…」とあり、あらためて特殊教育から特別支援教育に転換した際の通知にある「特別支援教育は、障がいのある幼児児童生徒への教育にとどまらないこと、共生社会の形成の基礎となるものであること、わが国の社会にとって重要な意味をもっている」の意味の深さを感じています。
(みやざき・まさあき)
昭和57年宮城教育大特殊教育特別専攻科修了。平成22年標津高校長、25年千歳高等支援学校長を経て、27年真駒内養護学校長。
昭和33年11月8日生まれ、60歳。網走市出身。
(シリーズ終わり)
(関係団体 2019-01-18付)
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