【特別連載】No.7 かかわりが難しい児童生徒への対応 自己肯定感を高める 認め自信もたせる言葉を
(かかわりが難しい児童生徒への対応 2019-05-09付)

かかわりが難しい児童生徒図
図1(上)・図2(下)(クリックすると拡大表示されます)

 発達障がいやその傾向が見られる児童生徒は生活の中で叱られることが多く、自信をなくし自己肯定感が低くなり、暴力などで自分のつらさを周りの人に訴えようとします。自己肯定感を高め、自信をもたせるためには繰り返し「認めること」「自信をもたせること」が必要です。図1をご覧ください。

 子どもの心配な行動で、指摘や注意、叱責することが多く見かけられます。

 しかし、これでは、自己肯定感や自信をもたせることになりません。そればかりか同じような失敗を繰り返してしまいます。また、心配な行動でなくても、ついつい失敗をしないように先回りし、「○○するんじゃないよ」「○○したら駄目だからね」と言ってしまいがちです。結果、子どもが失敗をすると、「ほら、さっき言ったばかりでしょう」と言ってしまい、先生の言われたようにできないことを責める結果となります。図2をご覧ください。

 子どもの心配な行動(重大なコンプライアンスを伴う問題行動は、周りの子を遠ざけ別室に移動させる)を見かけても、指摘や注意、叱責ではなく肯定的な言葉がけをします。そのことによって自己肯定感を損なうことなく、望ましい行動様式が強化されやすくなります。

 肯定的な言葉がけの具体例を説明すると、授業中なかなか集中して参加できない子に対して、「○○君、きょうはノートも取っているし先生の話を聞いているね。君だったもう少し、前に見える時計の○○分まで集中できるよね」と話します。また、時計の○○分まで何も言葉をかけないのではなく、教師との約束を強化するため途中で「○○君、立派だね。先生のお話をよく聞いているね」と話すようにします。そうすると教師の言われたことを守ろうと努力します。

 個人差がありますが、結果的にできなくても「きょうは○○分頑張ったね。立派だよ」と述べ、「あしたは何分頑張ることを目標にしようか」と聴いてください。図工などのあと片付けは「片付けは、どうするといいかな」と質問し、子どもに片付けの順番や仕方を答えさせます。答えさせる中で、「○○はどう洗うといいんだろうね」「ガラスを割らないためには、どこを持って水洗い場に行けばいいと思う」と質問し、不十分な答えが返ってきたら「○○するといいんだよ」と教えて下さい。

 さらに、教えてできていることを、正しい片付けの定着のため、「ほうきはそう持ったら安全だよね」「きれいにできているね」「掃除上手だね」などと声をかけるようにします。

 このように用具の移動、洗い、水切り、収納、清掃など一連の活動を安全でスムーズに進めさせることは、子どもにとって生活の仕方を学ぶ機会となります。また、それを繰り返すことによって定着し、発展的に他の場面でもできるようになります。発達障がいやその傾向を抱える子にとって、学習の場は知識を得る授業ばかりではありません。準備もあと片付けも含め教師が育てる視点をもてば、すべての活動が子どもにとって大切な学びの場になります。

 次回は、物事の定着と子どもに届く言葉がけの原則について記載します。

(北海道医療大学非常勤講師・石垣則昭)

(かかわりが難しい児童生徒への対応 2019-05-09付)

その他の記事( かかわりが難しい児童生徒への対応)

【特別連載】かかわりが難しい児童生徒への対応№12 生徒への理解と支援を 高校生を中心とした対応

 「かかわりが難しい児童生徒への対応」シリーズの中で、高校における対応の依頼がありました。そこで、高校生を中心に「かかわりが難しい生徒への対応」について、掲載します。  一般に高校生になる...

(2019-07-24)  全て読む

【特別連載】№11 かかわりが難しい児童生徒への対応 積極的に認め褒める バランスの取れた接し方

5面、表  かかわりが難しい児童生徒への対応についてシリーズで掲載してきましたが、今回は教師の側に立って説明します。  かかわりの難しい児童生徒は他の子に比べうまくいかないことが目立ち、ついつい失敗...

(2019-07-11)  全て読む

【特別連載】 かかわりが難しい児童生徒への対応 №10 子どもの訴え理解し対応 問題行動の見立ては目的論で

 子どもの問題行動は誤った自己表現であり、何を訴えたいのかを理解しなければ適切な対応を図ることはできません。  問題行動を理解するためには何が問題なのか、それによって誰が困るのか、さらに、...

(2019-06-27)  全て読む

【特別連載】NO.9かかわりが難しい児童生徒への対応 肯定的なかかわり必要 子の特性の見立てと対応例

特別連載No.9  シリーズで前述したように、医者から発達障がいと診断を受けた子やその傾向がみられる児童生徒は、年齢にかかわらず人との関係で生きづらさをかかえていると説明しました。その生きづらさを軽減すること...

(2019-06-19)  全て読む

【特別連載】NO.8かかわりが難しい児童生徒への対応 短い間隔で繰り返し定着 子どもに届く言葉がけ

 言葉がけをして、そのときはできても定着されず、同じような失敗を繰り返してしまうことがあります。確かに何度も何度も繰り返して説明することが大切であると理解をしていても、教師のイライラにつなが...

(2019-05-30)  全て読む

【特別連載】No.6 かかわりが難しい児童生徒への対応 感情をモニタリング 保護者の悩みに寄り添う  

 今回は、発達障がいやその傾向がみられる児童生徒と教師のかかわりについて説明します。  児童や生徒の対応でイライラすると、ネガティブな感情がループ化(感情のループの説明は第3回に記載)しま...

(2019-04-24)  全て読む

【特別連載】No.5 かかわりが難しい児童生徒への対応 子どもの側に立つ姿勢を 相手が満足する話の聴き方

 前回はまず子どもの話を聴くことが大切であると説明しましたが、今回はどう聴くことが、子どもが満足するのかを説明します。子どもが満足する聴き方とは、「僕のことを分かってくれた」さらに「先生は僕...

(2019-04-16)  全て読む

【特別連載】No.4 かかわりが難しい児童生徒への対応 まずは話を聴くこと 一方的叱責は問題傾向高める

 発達障がいやその傾向がみられる児童生徒を一方的に叱責することは、問題傾向をより高めてしまいます。  発達障がいやその傾向がみられる児童生徒の特性は、こだわりが強くコミュニケーションを図る...

(2019-03-26)  全て読む

【特別連載】No.3 かかわりが難しい児童生徒への対応 環境により改善が可能 余裕ある対応を

 誰でもそうでしょうが、何かにつけ叱られ続けるとどのような感情がもたげてくるでしょうか。「僕は駄目な人間だ」と同時に「なぜ僕だけ叱られるのだろう」と怒りが込み上げ、自暴自棄に陥りやすくなりま...

(2019-03-14)  全て読む

【特別連載】No.2 かかわりが難しい児童生徒への対応 感情受け止め共感的に 怒りをあらあわにする子への対応

 発達障がいや発達障がいの傾向が強い児童生徒は生まれつきもった特徴のため、他の子がイライラしないところでも、いらだちをつのらせ爆発させてしまいます。怒りをあらわにする児童生徒は、そうしたくて...

(2019-02-22)  全て読む