【特別連載】NO.9かかわりが難しい児童生徒への対応 肯定的なかかわり必要 子の特性の見立てと対応例(かかわりが難しい児童生徒への対応 2019-06-19付)
シリーズで前述したように、医者から発達障がいと診断を受けた子やその傾向がみられる児童生徒は、年齢にかかわらず人との関係で生きづらさをかかえていると説明しました。その生きづらさを軽減することが、社会的な適応を高め問題行動の減少につながります。そのためには、本人の特性(どのようなことにこだわりがあり、どのような状況にネガティブな反応をするのかなどの傾向)を理解することと肯定的なかかわりをもつことです。
残念ながら、「あの子は心配な子だ」「きょう、またあの子が制止を聞かず立ち歩いた」「また暴力を振るった」などの相談を受けることがありますが、「どのようなときに、どうなりますか?」と傾向を聞くと、ほとんどの教師は答えることができずにいます。風邪を引き、病院に行くと必ず医者は診断をします。その結果、必要な処方箋を出してくれます。診断をしないで薬を出すことはしません。
上記のような例はまさに診断をしないで、押さえつける、否定するなど、その子に合わない処方箋を出しているようなものです。子どもの行動を見て、表のような傾向を理解することが必要です。
具体例を挙げると、小学校5年生のA君は授業中になるとイライラし、「面白くない」「やってられない」と文句を言いながら教室内を立ち歩き、しまいには教室外に出てしまいます。そのたびに授業を中断し、他の教師を呼び制止しますが、一向にその状況は改善しませんでした。いくつかの質問の中でどの授業にその傾向がありますかと質問したところ、国語と算数の時間に多いことが分かりました。
見立ての結果、国語と算数は苦手意識が強く小テストも点数が取ることができません。国語と算数は嫌いだと言うネガティブな意識が、立ち歩きながら言う「面白くない」「やってられない」という文句に現れているのではないかと考えました。
担任の先生には、その子に「先生はA君のために勉強時間、何をしたらよいか教えて」と尋ねるよう話しました。そうするとA君は、「国語と算数が分からないから、教えてほしい」と答えました。担任の先生は「勉強中、分からないと思ったら静かに手を挙げてね。挙げたら先生教えるから。でも立ち歩いたりしたら教えられないよ。約束できる?」と聴いたところ「約束する」と返答してくれました。
何回かイライラし立ち歩きがありましたが、次第に約束を守り分からないところがあると静かに手を挙げるようになり、立ち歩きや教室外へ飛び出すこともなくなったそうです。その後、様子を見た他の児童もA君に勉強を教えるようになり、学級の仲間と昼休み一緒に体育館で遊んでいる様子を目にするようになったそうです。
かかわりの難しい子どもは、欲求不満耐性や葛藤処理能力(欲求不満耐性や葛藤処理能力とは欲求不満に耐え、言語、非言語,身体などで適切な表現ができる力を言う)が不足しているため、決まった表現(怒鳴る、暴力、器物破損など)を繰り返します。
このように出来事に対して決まった表現や思考をすることを「オートマチック思考」(アーロン・ベック「Beck、1976」)と言いますが、基本に置くべきは、子どもの取った現象面だけをとらえ威圧し不安にさせるのではなく、冷静に子どもの傾向を見立てながらその子に合う対応を図ることです。
(北海道医療大学非常勤講師・石垣則昭)
(かかわりが難しい児童生徒への対応 2019-06-19付)
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