【特別連載】かかわりが難しい児童生徒への対応№14 状況把握と必要な対応を 問題行動には4つの目的(かかわりが難しい児童生徒への対応 2019-08-22付)
かかわりの難しい児童生徒への対応の(10)で説明しましたが、問題行動には一般に4つの目的(要求、拒否・逃避、注目、感覚刺激)があるととらえます。
事例により分類と対応を説明します。高校生になると、自分の置かれている状況を自覚できるようになりますが、「授業中、突然震え、たびたび過呼吸になる女子生徒がいるがどのように対応したらよいか」との相談がありました。医師からは疲れていたら休ませるようにとの指示があったそうです。
かかわりの難しい生徒にはコミュニケーションが苦手で、その日の体調により集団の中にいることに圧迫や不安を感じ、言い知れぬ不安に陥る生徒もいます。未然防止として、震え過呼吸になる前に必要な対処を図ることですが、授業中教師がそれを発見し対応するのは大変難しいと思います。この場合、生徒より過呼吸になる前に教師に小さく手を挙げて合図をさせる。さらに保健室で休むことを認めるようにしてくださいと説明しました。
この生徒は、上記の問題行動の要求、拒否・逃避に該当し「もし今、自分が過呼吸になってしまったら、友達も離れ、他の生徒からもきっと陰口を言われるのではないか」との不安から過呼吸を発症していると見立て対応しましたが、数週間後、授業中不安になると教師に合図し自らの判断で保健室へ行くことで不安が解消し、過呼吸を起こすことも次第に少なくなり、通常に授業を受けることができるようになりましたと連絡をいただきました。
先ほどまで何ごともなく過ごしていても、突然感情をあらわにし、暴言、暴力に及ぶ生徒もいます。その生徒はコミュニケーションを図ることが苦手で、自分の言いたいことをうまく表現できなく、思い込みが強いため相手の意図をくみ取ることができず、勝手に非難されていると感じ自分を守るため暴言や暴力行為に及んでしまうのです。その結果、学級で孤立しますますその状況が悪化してしまいます。
さらに特徴的なのは暴言、暴力行為は本人の中で習慣化してしまい、嫌なことがあると、暴言、暴力に訴える行為がパターン化してしまうことです。高校生になると自分の感情の状況を自覚できるようになりますのでアンガーマネジメントの呼吸法などを用いて衝動性のコントロールを学習する必要がありますが、感情のマックスが10とすると、今はレベル○○の段階と心で唱えさせ(自分の感情を把握し、一息入れさせることが目的)、「ごめん、ちょっと時間ちょうだい」と言わせ、その場を立ち去るなど状況に即した指導が必要です。
学校生活や家庭生活でどのようなときに感情的になりやすいのか、そのとき、どう感じてどう行動していたのかなどアセスメント(支援を求めている対象が、これからどうしたいと思っているのかを様々な情報をもとに総合的・多面的に判断し見立てることを言います)するとともに、どのような理由でその生徒は暴言、暴力を働くのか目的論に当てはめ考え対応することが適切な理解と支援につながります(詳しくは、「かかわりが難しい児童生徒への対応(10)」に記載)。
また、一般的に暴言、暴力を目的論でとらえると、相手に対する要求や拒否・逃避が多く目につきます。かかわりが難しい生徒の問題行動には、学校の罰則が適応され反省文などを書かせることがありますが、書くことが目的となり反省につながることなく再び問題を起こしてしまう場合があります。
そのような対応よりも必要なことは、叱りつける、説諭する、正論を語るのではなく、生徒の側に立って話を聴き感情のコントロールができないでいる生徒に寄り添い、未然防止や解決のために協力する姿勢が望まれます。そのような教師の姿勢は「先生に迷惑をかけたくないから」と考え、衝動を押さえる力ともなります。
(北海道医療大学非常勤講師・石垣則昭)
(かかわりが難しい児童生徒への対応 2019-08-22付)
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