【特別連載】かかわりが難しい児童生徒への対応№16 生徒と同様 丁寧に 心情理解し保護者へ対応(かかわりが難しい児童生徒への対応 2019-09-26付)
保護者は高校生とは言え、わが子の日常生活にみる困り感や将来の展望に大きな不安を抱えながら生活をしています。この不安感は、高校に入学してからのことではなく、幼保、小・中学校のころから続いています。
教職員の皆さんは保護者対応の大前提として、かかわりが難しい生徒をもつ保護者の心情を理解してほしいと思います。だからと言って、できることと、できないことは当然あります。
私が求めたいのは、生徒への対応と同様の丁寧さです。対応が不適切であるとわが子に対する不安といら立ち、学校に対する不平、不満を増大させ厳しい意見を投げかけることがあります。
そのため、話の内容を否定することなく、まずは共感的に聴くことです。特に、保護者の苦労やわが子の症状のために奔走したことなどを聴くことで、「先生は理解してくれようとしている」と好意的になります。
学校や担任に聴いてほしいことが一定の満足になると、語調が和らぎ学校や教師に対する気遣いの言葉が出るようになります。
その後、学校としてできることを説明しますが、本人の学校での問題と学校でできることとは切り離して説明することが必要です。学校での問題は説明する教師の感想や個人的な見解を入れず、「○月○日○時○分ころ、○○があり、学校として○○の対応を図りました」と事実を告げるようにします。その後、どのように学校として対応するのかを根拠をもって説明します。
説明は「ほかの生徒に迷惑をかけました」など否定的な説明ではなく、「このようなことがありましたが、○○することを期待しています」、さらに「学校としても○○君のため、○○のように援助を続けていきたいと思います」など、肯定的・具体的に説明するようにします。
後々一番問題になるのは「しっかり見守ります」「ちゃんとできるようにします」など具体性に欠ける説明は、「しっかり見守ると言ったのに、見守っていないからこうなったのではないですか」と問われることになります。
また、学校も保護者も問題行動の原因を解明しようとしますが、原因追求は時間がかかり、必ずしも問題行動の未然防止や改善につながりません。
かかわりの難しい生徒ばかりではありませんが、原因ではなく問題解決のため要因でとらえることです。この場合の要因とは、その生徒のもつ具体的な特性をつかむことです。問題行動はその生徒のもつ特性ゆえの行動であり、その理解が問題行動の未然防止や改善のための根拠となります。
生徒の心配な様子や進学・就職のため、病院での診断を勧める場合があります。しかし、保護者の中には、わが子の様子に違和感をもちながらも、幼保、小・中学校時代の担任から、一度、病院で診ていただいたほうがいいとの勧めを拒否した方もいます。わが子に問題を感じながらも、それを認めたくないのが保護者の心情です。
この場合の伝え方は「心配なので病院で診てもらって下さい」ではなく、「保護者の方もご心配のことと思いますので、一度専門の先生に診ていただき、そのお話をもとに○○君が不安のない生活を送ることができるよう一緒に考えませんか」としてはどうでしょうか。保護者が心強いのは学校や教師の「一緒に」という言葉がけであり、結果としてそれが保護者の安心感や信頼感を増すことになります。
「かかわりの難しい児童生徒への対応」に続き、「かかわりの難しい生徒への対応」をコミュニケーション論などカウンセリングの折衷理論によって説明いたしました。かかわりの難しい児童生徒への対応シリーズが、読者の皆様の円滑な教育活動を進める上での一助となれば幸いです。
(北海道医療大学非常勤講師・石垣則昭)
(シリーズ終わり)
(かかわりが難しい児童生徒への対応 2019-09-26付)
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