【特別連載】NO.8かかわりが難しい児童生徒への対応 短い間隔で繰り返し定着 子どもに届く言葉がけ(かかわりが難しい児童生徒への対応 2019-05-30付)
言葉がけをして、そのときはできても定着されず、同じような失敗を繰り返してしまうことがあります。確かに何度も何度も繰り返して説明することが大切であると理解をしていても、教師のイライラにつながる場合があります。
シリーズ8回目は、物事の定着と、子どもに届く言葉がけの原則について説明します。
ドイツの心理学者であるヘルマン・エビングハウスの忘却曲線(再び完全に記憶するまでの時間や回数の心理実験)によると、100%の記憶が、学習後1時間では44%、24時間では26%まで低下するとの結果が出ています。当然、記憶や行動の定着が苦手な子どもはさらに低い数値となります。
記憶や行動を定着させるためには、できるだけ短い間隔で繰り返し覚えさせるようにすることが効果的です。
例えば、1時間目の授業が終わったら、使った教科書やノートはカバンにしまう。カバンへのしまい方は○○のようにする(乱暴にしまわないと言っても、どうすることがよいのか理解できなく、教師と一緒にどのようにカバンの中に入れるのかやってみる)。
つぎの時間の学習用具を机の上に置く(同様に机の上にどう置くのか一緒にやってみる)。これを繰り返します。
当然、できたならば、「よくできたね」などと評価し定着を強化します。また、一度に多くのことを要求(多くすると、パニックに陥ることがあります)するのではなく、教師が子どもに身に付けさせたい物事を明確にし、ゴールを決め、できるところから進めるスモールステップ式を活用します。
つぎに、言葉がけの原則を説明します。
①褒め言葉には、余計な一言を加えない
「○○の計算問題よくできたね」と褒めても、つぎに「いつも、こうできるといいね」を付け加えると、褒め言葉の効果は半減します。また、この一言によって、認められていない気持ちが広がりかえって自信をなくします。
②命令形の言葉がけはしない
命令形の言葉を連発するとネガティブな感情が広がり、先生に言われなければ動くことができなくなります。「早く片付けなさい」ではなく「~ね」などを添えて、「早く片付けしようね」と言い換えると嫌な気分にならず行動に移しやすくなります。
③必ず「できた」達成感や喜びをもたせ活動を終了する
頑張ったけれどできなかったという形で活動を終了させると、自信をなくし、つぎの機会は積極的に活動できなくなります。授業や活動の最後にできた達成感や喜びをもたせるようにします。
④事前に言葉がけをする
校外学習などから学校に戻るとき、「学校に入ったらまず何をするの」などと事前に言葉がけすることが大切です。教師の指示が後回しになると失敗したことを注意や指摘することになります。事前に声をかければそのようなこともなく適切な行動を取るようになります。
⑤指示は具体的にする
エビングハウスの忘却曲線で説明しましたが、子どもへの指示は「しっかりしなさい」「ちゃんとしなさい」では声かけにはなりません。順を追って具体的に(何をどうするのか)説明することが大切です。
⑥子どもが対処できそうな失敗には、「つぎはどうするの」と聴く
水や給食をこぼしたときなど、子どもが失敗すると叱ることがよくありますが、「○○しちゃったね、つぎはどうしたらいいと思う」と聴いて、つぎの行動を取らせます。この対応を繰り返すと、自分から対処できるようになります。
(北海道医療大学非常勤講師・石垣則昭)
(かかわりが難しい児童生徒への対応 2019-05-30付)
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