道教委・小玉俊宏教育長インタビュー 学びの保障へ取組推進 心の教育充実 ICT活用(道・道教委 2020-08-26付)
小玉俊宏教育長
道教委は、新型コロナウイルス感染症の影響による学びの保障など山積する諸課題に対し、各種施策を展開している。本紙では、ことし4月に就任した小玉俊宏教育長に課題への対応、今後の展望を聞いた。小玉教育長は、AI時代の産業社会における心の教育の重要性を強調。オンライン学習導入モデルの構築、人的支援の充実、ICT環境の整備など、学びの保障に向けた取組を推進する考えを示した。
―就任に当たっての抱負
20代のころから、どの職場に行っても一貫して大切にしている考え方があります。それは「金を残すのは三流、名を残すのは二流、人を残すのは一流」という人事課の教えです。
どのような職場においても、そこにいる人々の中にある能力、可能性を外に引き出すことが求められています。教育(education)の語源をひもとくと、ラテン語で「外に引き出す」という意味になるそうです。
クラーク博士の名言「少年よ 大志を抱け」には続きがあり、「金銭や名声のためでなく、人間として成すべきことを遂げるために大志を抱け」とあります。私も、教育は人々の多様な個性、能力を外に引き出し、開花させ、社会全体の発展を実現する基盤と認識しています。このような姿勢で、北海道の未来を創造する人材の育成に臨んでいきたいと考えています。
AI時代の産業社会において重要なものは、心の教育だと思っています。価格競争の激しい仕事の多くが機械や新興国に置き換えられる一方、人間本来の感性に訴える質の高さや多様性に強みをもつ商品、サービス、コンテンツが価値を高めます。
心を動かす知識は定着しやすい。学びの喜び、好奇心をもち続けることが大切です。
新型コロナウイルス感染症の影響で部活動の集大成の場を失った生徒に活躍の機会を卒業するアスリートたちに贈る「もうひとつのクライマクス」プロジェクトでは、代替大会の運営や感染症予防対策の支援のほか、活動記録のパネル展、トップアスリートとの交流イベントなどを計画しています。
豊かな人生とは、夢を描き、追い続け、達成したり、ときには挫折したりすることの繰り返しです。コロナ禍の逆境を乗り越えた経験と絆を糧に、若者たちの夢を追い続ける意欲を醸成・継承し、地域の誰もがいつまでもスポーツに挑み、親しみ、支える共生社会の実現に取り組みたいと思っています。
―学校再開後の子どもの学びの保障
新型コロナウイルス感染症対策に伴う児童生徒の学びを保障するため、地域協働型オンライン学習導入プロジェクトを開始しました。これは、ハード・ソフト両面の整備を進めつつ、各地域にある多様な教育・社会・民間資源を活用し、地域特性に応じたオンライン学習導入モデルの構築を目指すものです。
2定補正予算では、遠隔・オンライン授業用のカメラ、マイク、デジタル教材のリース料など、各学校の備品整備に関する予算が計上されました。各学校では、これらの予算を有効に活用し、学校の新しい生活様式の実践を促していきたいと思っています。
人的支援として、スクール・サポート・スタッフの追加配置、学習指導員の新規配置に向けた準備を進めています。地域によっては人材の確保に苦労することも予想されますが、地元の商工業者など、ICT機器の扱いに手慣れた人にもスタッフとして活躍してほしいと考えています。
また、公民館や図書館など社会教育施設など、Wi―Fi環境が整ったスペースを放課後や長期休業中のオンライン学習拠点として活用する仮称・デジタル寺子屋事業や、各校種8校を研究実践指定校とし、地域の人的・物的支援を縦横に組み合わせ、オンラインを活用した効果的な家庭学習の指導方法を研究するオンライン学習導入モデル事業を開始します。
道立教育研究所などでは、すでに学校を対象にオンライン学習の研修などを行っており、今後、事業と連携しながら、各学校でオンライン学習に取り組みやすい環境整備を支援していく予定です。
ICT環境は地域によって人材、通信環境、地域創生のニーズも多様であるため、全道一律には扱えませんが、導入効果や負担などを検証し、オンライン・オフラインのベスト・ミックスを構築していきたいと思っています。
―GIGAスクール構想の今後の取組
小・中学校における1人1台端末の整備が進みつつある一方、国では高校における整備の支援が行われていない状況にあります。
道立高校では、高校生の端末の保有状況や活用ニーズを把握した上で、秋ごろに取組計画案をまとめ、年度内に方向性を示す予定です。ネットワーク環境に関しては、本年度中に普通教室、職員室、特別教室などでWi―Fi環境を整備します。
通常の授業におけるICTの効果的な活用に向けては、ICTを活用した授業指針を近く作成します。ICTの活用を通じ、多様な子どもたち一人ひとりにフィットし、それぞれの学びの質を高める教育環境の実現に取り組んでいきたいと思います。
―学校における働き方改革に向けた方策
令和元年度時間外勤務等にかかる実態調査結果では、主幹教諭・教諭の1週間当たりの学内勤務時間は平成28年度の前回調査と比べ、平均2時間以上の縮減となりました。一方、約6割が1ヵ月で45時間を超える時間外勤務を行っているなどの実態が明らかになりました。
今後は出退勤管理システムによる客観的な計測・記録や、調査結果も踏まえ、働き方改革の手引を活用した業務の見直しや、モデル校による成果の普及など、各般の取組を一層推進しながら、アクション・プランの目標達成に取り組んでいきたいと思っています。
勤務時間の縮減はもちろんですが、何よりも教員がやりがいを感じ、心身にゆとりをもち、子どもたちに寄り添う時間をもつことが働き方改革の本質だと思っています。
「子どもたちのため」という視点に立ち、一人ひとりの学力・才能を伸ばすことができるよう、働き方改革を進めていきます。
―北海道教育の将来展望
北海道には、自然・体験・文化の資源や可能性に満ちています。今の子どもたちが輝くことのできる未来が確実に訪れることができるよう、教育が子ども一人ひとりの多様性や才能を引き出すサイクルを構築することが大切です。
コロナ禍への対応の中、地域のどこにいても児童生徒が世界とつながり、関心や可能性を伸ばすオンライン学習の有効性が広く認知されました。このことは、広域分散な本道におけるハンディを埋める強力な武器になります。
一方、いかにデジタル環境が整っていたとしても、先生や地域、家庭による対面教育の大切さが損なわれるわけではありません。むしろ、一人ひとりと寄り添う形での学びの支援が重要になると考えています。
本道の子どもたちには、持続可能な社会の創り手としての力を身に付け、それぞれが幸せな人生を歩んでいってもらいたいと考えています。その実現のため、私自身が多くの声に耳を傾け、地域・家庭の状況にかかわらず質の高い教育を受けられる取組や、北海道の発展を支える人を育む取組など、前例にとらわれることなく実践していきたいと思います。
学校・家庭・地域はもちろん、ときには、民間企業や道内外など、多くの人々の力添えをいただきながら、北海道の教育のために力を尽くしたいと思っています。道民の皆さんの理解と支援をお願いします。
こだま・としひろ
昭和57年明治大商学部卒。平成27年胆振総合振興局長、28年環境生活部長、30年出納局会計管理者兼出納局長、令和元年公営企業管理者を務め、ことし4月28日付で現職。
昭和34年7月1日生まれ、61歳。帯広市出身。
(道・道教委 2020-08-26付)
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