“親友”との交流が大切 高相研第50回研究大会記念講演 臨床医が思春期の心解説(関係団体 2022-01-24付)
道高校教育相談研究会(=高相研、上田智史会長)が14日にオンラインで開いた第50回記念研究大会では、こころとそだちのクリニックむすびめの田中康雄院長が「臨床から診える高校生の〝こころ〟と〝そだち〟について~思春期とアタッチメント」と題し記念講演を行った。医師として多くの若者と接してきた経験から、不安定で課題が多い思春期の特徴や、問題行動の要因と対処法などについて説明。「つながりの乏しい世界で思春期の子どもたちは呻吟している」「孤独を癒し支える同性の仲間との密接な交流が、思春期を乗り越える最大の要因」などと述べた。
概要はつぎのとおり。
思春期は、子ども時代から大人時代に移行する過渡期。その特徴は大きく分けて3つある。
1つは身体の変化。第2次性徴による身体の変化は子どもにとって予想もつかなかったもので、多くが戸惑い不安を抱く。
2つ目は親子関係。思春期においても最も大きなものが親子関係の切り替え。親からの精神的な離脱を図るが失敗は許されない。親との精神的な別れがなければ、大人として自立できない。
3つ目は、他者関係の深まり。親との精神的別れによって孤独を経験し、心理的な危機に陥るため、孤独を癒し支える同性の仲間との密接な交流が大切となる。これが思春期を乗り越える最大の要因。親友との親密さは共同関係を生み、自己を客観的に見直し、社会化を育む。
孤独を癒し支える仲間がいないと、精神的自立は失敗する。場合によっては、SNSによるバーチャルな仲間や、学校の先生がそうした役割を果たすこともある。
思春期は、自分の姿形が他人に認められているか戸惑う。また、身体の変化に伴い異性への思いも出てくるのでコミュニケーション能力が問われる。
また、親子関係では基本的信頼感、アタッチメント(愛着、心の深い結びつき)が形成されていないと、親からの精神的離脱ができず、暴力で抵抗したり引きこもったりする。
孤独を癒し支える対象が不在だったときは、バーチャルなネットの友人にのめりこんだりする。大人からすれば「見たこともない他人をどうして信じられるのか」と思うが、目の前で会っている人が信じられないとき、これは当然の心理。
親以外のアタッチメントの対象探しのため、ネット上の友人やゲームにはまってしまう子が多い。これは、アタッチメントの対象がいない中で子どもが何とかひねり出した対策なので、単純に批判したり、いけないとは言えない。それより、親以外の対象を一緒に探すことが大事である。
子どもがゲームをしていたら、先生が一緒にゲームをやって、そのことを通じて子どもとリアルな関係をつくっていくのも手である。
病院は症状から人をみる。症状には必然性がある。だから病名を告げてあげると「怠けている訳ではなかったんだ」と親も子も安心する。
しかし、症状に無関心でいるとエスカレートしていく。リストカットを放っておくと、無意識に「もっと何かしないと解決に導いてもらえない」と考える。そうすると、深夜徘徊などにエスカレートしていく。その子が何を求めているかを親や先生が感じ取ってあげなければいけない。
今の子どもは、実生活体験の貧困さから、実感性のなさを感じている。インターネットでの顔を見ない交流は、本当の意味での悩み苦しみながら成長することはせず、都合が悪くなったらアカウントをリセットする。それでも、SNSで「パンが大量に売れ残ったので助けて」などと流れると、あっという間に客が押し寄せたりする。それは、一体感こそ彼らが求めているものだから。赤の他人でさえつながりたいのである。
学校は、生き方を伝えるところ。授業で教えてもらったどんなことより、先生からひと声かけてもらったことがうれしくて覚えていたりする。学習が優先され、生き方を伝える試みが磨滅している。
今の子どもは“ただ遊ぶ”という子ども本来の時間も空間も失っている。子どもから“子ども時間”を奪い、勉強ばかりさせていては子どももキツい。
また、教員のメンタルヘルスも「なぜ?」と思うくらい悪い。これは、子どもとの関わり方が見えなくなってきているのではないか。
つながりの乏しい世界で思春期の子どもたちは呻吟している。
本来、子どもは親とつながっており、そのつながりから別のつながりに健康的に移行するためには、親といつでもつながることができるという安心と保証が必要。
不健康に別のつながりをつくらざるを得ないときは、親とのつながりに何かしらの問題がある。親から裏切られた、軽んじられた、そんな不健康な出会いから始まっても、ここが勝負である。「確かに不幸な出会いから始まったけれど、今は僕との関係を健康にしていこうよ」と、親の代替者が真の関係になることが大切。
思春期は、漠然とした身体不調を訴えることが多いが、これは、現状を回避したいのに言語的に表出しにくく、不可抗力として症状が出ている。このため、身体症状を大切にする必要がある。
登校時の電車の中で過呼吸になった子は、軽度の知的障がいをもって普通高校に進学し、学習の負荷を強く感じていた。この子には、そんなに頑張らなくてもよいことを伝えたり、サポートしていくことを話して負荷を落としてあげることが必要。
頭痛が止まらない子は、しつこく誘う同級生にうまく断れず、自分を責めてしまっていた。胸が苦しいと訴える子は、完璧主義で時間までに課題が終わらないと息ができないと話していた。「まぁいいか」と思えない。ならば、課題を出す側が量を抑えるなどの対応が必要。「やれるところまででいい」と言っても頑張りすぎてしまう。
「できるだけ本人の荷を軽くするような方向に変えられるものから変えていって、その結果、患者が浮上する」と言われている。「頑張れ」とか「乗り越えろ」と言っても駄目。子どもを否定せず「一緒に考えていこう」と提案すること。共犯者になれば、一緒に敵に立ち向かうことができる。
思春期の心には、尊大な羞恥心がある。「僕がダメだと思ってるんだからダメなんだ」というような意識である。これを「そんなことないよ」と否定するとうまくいかなくなる。
入院治療を考える場合は、アタッチメントの形成不全で危ない依存対象(自傷行為や摂食障がい、オーバードーズ、ネット世界の見知らぬ他者など)を選択してしまう可能性がある場合。アタッチメントの代理は被支配という関係に陥りやすく、性被害等をもたらしやすい。
また、一時的に混乱した環境から離脱する必要がある場合。不適切な養育や虐待などの簡単には解決できない家庭環境で一年365日は生活しにくい。何度か離脱した中で向き合う時を得ることになる。
また、状態の把握に戸惑ったとき。外来の時間だけでは分からない場合に入院してもらい、じっくり見ながら判断することもある。
入院したことで初めて安全が確保され、実際の生活内容を知ることができ驚かされる場合もある。虐待や家族の機能不全など、児童相談所経由も避けて通れない場合もある。
まとめになるが、成長・発達を信じ、相手を引き受ける覚悟と居場所の提示が大切。とにかく焦らないこと。高校の間に全て解決しなくてもいい。
つぎに、傾聴と対話。体験の子細を明らかに、聞いていくことが大切。抽象的であいまいな表現を明確に要約したり、言い換える。もやっとしたイメージを言語化していくこと。
つぎに、自己不全感の軽減。その子のできないことの修復よりも、意識的に良い面に注目し続けること。少しでも他者からの良い評価を受けることが大切。
そして、環境調整。「できることなら、できる限りする」という姿勢で、使える機関は使うこと。
一方、親については、子どもの障がいを最大に悩んでいるのも親であるということを常に心にとどめておく必要がある。
教師や医師からの指摘や提案が善意であっても「自分はそんなこともできていなかったのか」と傷つけてしまう場合がある。
家族面接では、指導的にならず相手の意見を聴き、そこからできることを考えること。一段低い姿勢を取ること。関心を共有すること。そうやって関係性を獲得していくことが大切。
また、親が子ども時代にあったことを再現していないか注意する必要がある。さらに、必要な情報を提示していき、相談が役立つことを示すこと。
臨床心理学者の村瀬嘉代子さんは「子どもが期待する大人」として、つぎのような人を挙げている。
馬鹿にしないで真剣に聞いてくれる人、言行一致で子どもを言葉で言いくるめようとしない人、ユーモアのセンスがある人、物事を様々な視点から眺められる人、一緒にいるとふっと緊張が解け、安心できる人、言葉だけの指示・対応ではなく、時に一緒に行動してくれる人、待つことができる人、待ちながら所々子どもの気持ちを汲み取り、すくい上げてくれる人。
これらを念頭に入れて関わり、間違ったら謝ることが大切。最後の砦である高校の先生たちに、サポートしていただけたらと思う。
(関係団体 2022-01-24付)
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