「公共の扉」の扉を開く 高教研研究大会でシンポジウム 学力観・授業観の転換を(関係団体 2022-01-20付)
道高校教育研究会(=高教研、林恵子会長)が12・13日にオンラインで開いた第59回教育研究大会(17日付1面既報)では、2日目に教科別集会で14の部会を開催した。このうち地歴・公民科部会(公民科合同)では、「新科目『公共』“第1章 公共の扉”の扉を開く」をテーマにシンポジウムを実施。3人のシンポジストが発表し、「公共の授業づくりのポイントは、“覚える”から“考える”への転換」「能力が発揮されるには、能力を発揮する場の設定を」などの意見が出された。
シンポジストは、市立札幌新川高校の川瀬雅之教諭、有朋高校の元紺谷尊広校長、道立教育研究所研修部の井上結香子主査の3人。それぞれの立場から研究発表を行い、その後協議等を行った。
研究発表の概要はつぎのとおり。
▼川瀬教諭
「現代社会」の授業実践の成果と課題を踏まえて、新教科「公共」を考えてみる。
昭和57年から年次進行で現代社会がスタートした。現代社会は暗記中心ではなく、思考力・表現力の育成を目指していた。また、消費者教育や租税教育、国際理解教育など様々なものが持ち込まれた。
しかし、現代社会は時代が早すぎたのか、徐々に存在感を失っていった。それが、令和4年4月からの18歳成人に伴う主権者教育という新たな黒船を得た。現代社会からすれば、「公共」は、今度こそというリベンジ、仕切り直しに近い。
当時の環境と今は違う。「探究」という概念が普及しているというだけで大きな差がある。現代社会が目指していた思考力を伸ばすという考えは、新学習指導要領の求める主体的・対話的で深い学びなどに移行している。
今回の新学習指導要領は、これまでと異なり、授業改善を求める強いメッセージが込められている。個別最適で協働的な学びや、3つの学力要素、指導と評価の一体化などは、現場教師の授業設計力向上への期待を込めたメッセージである。
▼元紺谷校長
公共の授業づくりのポイントは、「覚える」から「考える」への転換である。
社会科は暗記科目で、授業は教師によるトーク&チョークという記憶がある。行政にいたとき、たくさんの学校を訪問したが、ほとんどの先生が「私の授業は考えさせる授業を目指しています」と言うが、どこがそうなのだろうと思うことがよくあった。
確かに生徒に質問はしているのだが、生徒が考えるような発問ができていない。どうして「考える授業」ができないのかと思っていた。
新学習指導要領の前の「論点整理」に、これまでの教育とこれからの教育の違いが詳しく述べられているが、キーワードは「転換」である。
学力観、授業観を転換しなければ、公共の授業はうまくいかないと思う。
▼井上主査
私は東京で大学入試センターの業務や国研で学習指導要領の参考資料の執筆などを行っていた。そうした点からお話しする。
川瀬先生の出された「現代社会を引き継ぐ」という考えも、元紺谷先生の出された「転換」という考えもそのとおりだと思う。
学習指導要領は、病院の処方箋のような役割で、大きな変化のある社会に対し、必要な資質・能力をどう育てるかを踏まえている。
コンピテンシーベースの授業が世界では進んでいる。野球のルールブックは分厚いが、それを正確に覚えるのがテスト。早く走れるようになる、強く打てるようになる、がコンピテンシー。スカウトは当然、後者を選ぶと思う。
平成8年に「生きる力」が打ち出され、知識・能力を使いこなす力が求められるようになったが、これがさらに強く求められるのがコンピテンシー。
海外の教科書では、難しい知識や概念が出てきたら、これを使ったらこう役立つ、と書かれている。何に使えるかという視点が重要。
アクティブ・ラーニングの失敗は、能力が発揮される場でこそ、能力は初めて育成されるということ。発揮する場が求められているのである。
地方議員の成り手がいなかったり、18歳成人が始まったりと、予測困難な時代を踏まえ、公共では問題の場面を設定し、能力の発揮される場を目指してほしい。
(関係団体 2022-01-20付)
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