教職員の協力を高める学校づくり〈№84〉 互いに疲れる関係に陥る危険性 児童生徒のグループ問題1(教職員の協力を高める学校づくり 2022-02-10付)
84号と85号の2回は児童生徒のグループ問題を記載します。
生徒指導を進める中で、必ず課題となるのが児童生徒のグループ問題です。グループ自体には問題はありませんが、その機能が時としていじめや不登校、暴力行為や非行などに及ぶことがあります。特にいじめ問題では、いじめの被害者と加害者は同じグループに属し、仲よしグループと呼ばれるインフォーマル・グループ内がいじめの温床であり、孤立への恐れから被害者は加害者との関係を保ってしまうことが指摘されています。
小学校3・4年生の時期はギャングエイジとも言われ、自我が強くなり、人の意見をそのまま受け止めたくない、自分の意見を言いたいなど、仲間と認め合う関係性を築くためのトラブルがみられます。
思春期は子どもが大人になる上で身体的・精神的に発達していく時期であり、思春期を迎える時期の平均は、個人差があるものの女子が11歳、男子が12歳と一般に言われています。また身体の成長とともに、感情の発達的変化によって感情の起伏が大きく、情緒が安定せず自分を否定しがちになる傾向があります。環境と個人の性格によって個人差がみられますが、この時期の児童生徒は心の安定を求め、情緒的よりどころとしての仲間を欲し、気持ちが合う合わないではなく一人でいることがつらく感じる時期とも言えます。
そのためグループのメンバーとなったとしても、気を使い調子を合わせるがあまり「互いに疲れる関係」に陥ることがあります。学校生活への適応の影響はグループの有無によるところが大きく、自分を取りあえず受け入れてくれる仲間がいることは何よりも心強い存在ですが、グループ内の関係性には光と影があると言えます。
小学生の今節の研究資料はありませんが、平成29年内閣府による学校で出会った友人とのつながりを尋ねた質問の「若者にとっての人のつながり」(高校生、大学生、専門学校生、予備校生、大学院生対象)の調査の図表7では、現在学校に在籍している者のうち、学校が居場所となっていると思うかを尋ねた質問に対し、そう思うは15・51%、どちらかといえばそう思う45・5%、どちらかといえばそう思わないが23・4%、そう思わないと回答した者の割合は12・7%であり、36・1%が友人関係とのつながりに懸念を残していると考えられます。
学級内のグループが問題になるのは、グループ間の境界が高く、内部の結束力や密着性、閉鎖性、排他性が強くなるときです。グループ間の移動を許さない、他のグループの構成員と親しくさせない、常に一緒にいるなどの縛りがあると、居場所ではなく、一緒にいなければならない窮屈な場となります。
一見、仲が良さそうでも、互いに気を使い孤立することを恐れ、一見、何事もなく見える仲良しグループですが、一緒にいることへの葛藤を抱えるなど、問題が内在している実態がうかがえます。
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
引用・参考文献
『学校におけるいじめの心理』鈴木康平著、ナカニシヤ出版、2000
『新版いじめ教室の病い』森田洋司・清水賢二著、金子書房、1994
『教育心理学研究』柴橋祐子著作、2004
(教職員の協力を高める学校づくり 2022-02-10付)
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