教職員の協力を高める学校づくり No.89 肯定的職員室風土づくり 次世代の教員を育てるチーム職員室2
(教職員の協力を高める学校づくり 2022-04-26付)

 アメリカの社会心理学者ロバート・ザイアンス(1923~2008年)は感情と思考の間の関係について研究を続け、単純接触効果(ザイアンス効果)として研究成果を発表しました。単純接触効果とは、繰り返し接触すると好感や印象が高まる効果をいい①好みは理性的ではなく、好みに優劣はない②定期的に会うと好意を感じやすい③敵意↓好奇心↓親しみといった進化生物的流れ―と提唱しました。

 つまり、日ごろから顔を合わせ言葉を交わすならば、知覚情報処理効率が上昇し親近性が高まるとの意味です。職員室内の親近感が高まれば、若手ばかりではありませんが、互いを包み込む職員室の風土が醸成されます。その風土づくりが職員室内の「つながり」を実感し、協働的に教育を進めることができる職員室となります。

 従って職員室などでは学年が違ったと言えども、あいさつや談笑ができるようにしていきたいものです。このような意味で単純接触効果は、若手を育てるチーム職員室となるための大原則と言えます。

 さらに児童生徒や保護者、職員間での想定外の出来事など、メンタルが不安定になってしまう要素は、その日の精神状態やその人の受け取り方によって大きく変化します。その変化を受け止め、互いの心を安定させる第一が職員室のチーム力ではないでしょうか。

 しかし、この単純接触効果を誤解してはなりません。次世代の教員イコール指導の対象ではありまん。次世代の教員を指導し育てるとの前提で接することは、若手の教員にとっては緊張の連続となり、指導内容そのものよりストレスを高めふさぎ込むことにもつながりかねません。

 一例を挙げます。新採用として張り切って着任した教員が月を重ねるごとに次第に元気をなくし、学級経営もままならなくなりました。回りの教員は「指導不足」と決め付け、先輩教員は盛んに学級づくりを説きます。しかし説けば説くほど、笑顔と言葉が減少し孤立してしまい、他の教員はその様子を遠巻きに見るしかありませんでした。

 話を聞くと、先輩の話はありがたいが「自分が進めようとすることを先回りして否定される」「経験を中心に一方的に指導される」など次第に強い自己否定の感情が芽生えたとのことでした。

 教育実践者としての成長は、教育経験を通しての学びです。若手の教師には教育経験の場を可能な範囲で保障したいものです。

 傍観者効果の研究者である社会心理学者ビブ・ラタネは、その社会的インパクト理論で「自分に対して強い影響力を持っている人から説得を受けると、それを拒否するのはなかなか難しく、説得される内容によって、心から受け入れる場合と嫌々受け入れる場合とがある」としています。

 人間関係の中で受ける衝撃の強さを①発言力があり勢力が強い人②日常のコミュニケーションが十分ではなく、距離がある人③相手の数が多いこと―とし、社会的インパクト理論の3要素としています。

 つまり権威的、一方的ではなく日常からコミュニケーションを図り、次世代の教員の側に立った関わりが求められています。

(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)

(教職員の協力を高める学校づくり 2022-04-26付)

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