教職員の協力を高める学校づくり No.87 児童生徒側に立ち位置を置く 今日的生徒指導の要諦2(教職員の協力を高める学校づくり 2022-03-29付)
ジェローム・シーモア・ブルーナー(1915~2016年)は、アメリカの教育心理学者であり、認知心理学の生みの親として著名な学者。1959年に『教育の過程』の著作の中で「発見学習」(教師が結論を与えるのではなく、児童生徒が自分で発見し、その発見によって進められる学習方法をいい、学習の基本的な構造をつかませ、観察、仮説の設定と検証を通して、探究する態度、予測の力、自ら問題を発見して解決しようとする態度などを育てることを目的)として著し、学習指導要領などわが国の教育の根幹を担っています。
特にブルーナーの理論は新学習指導要領の「主体的・対話的で深い学び」に影響を与えています。日本協同教育学会の杉江修治(中京大学名誉教授、2021バズ学習理論講演)は、児童生徒個々の学習への気づきを重視するより教師の説明が多く、学習の結論まで教師が説明している状況に「学校は教え過ぎないようにすべき」と明快に述べています。
学習内容を自分のものとして獲得するためには、学習内容への認知(何かを認識・理解する心の働き)が重要でありその時間の確保が必要です。これは学習内容の獲得ばかりではありません。
生徒指導の場面で捉えると、生徒指導の指導の名のごとく教師から児童生徒へ一方的に伝えるのではなく、心の機微に捉えさせるためには、児童生徒に考えさせる生徒指導の基本的な転換が必要ではないでしょうか。
教師の指導例を挙げるならば、校外学習の行事があるとき、教師は事前に注意事項を児童生徒へ当然のように指導しますが、これを認知により良くヒットするために「あす校外学習に出向きますが、個人として、また集団としてどのようなルールが必要でしょうか。個人で考えグループで交流してください。その後、全体で交流し先生からお話をします」(教師の補説)とします。この指導例のような方法を用い繰り返すことによって「先生の指導だから守る」ではなく、わがこととして捉え自己指導力を高める一助になると理解しています。
生徒指導は教師が児童生徒をどのように指導するのが効果が高いのか、教師側の立場に立った研究と実践が重ねられてきました。学校と社会のズレが大きくなってきている今日、学校が変わらなければ時代に対応する生徒指導にはなりません。認知力を高め自己指導の力を育成するためには、児童生徒の側に立った生徒指導法が必要な時に来ています。
教育学者の汐見稔幸は、ここにきて教育自体が「教える」ことから「学び」への転換が教育を時代の変化に適応させる方法であると述べています。教えるから学びに変換するためには、従来の教えるスタイルのままでは学びへ変換することはできません。
児童生徒の側に立った生徒指導の充実のためには、「自ら考え理解する」という教師の生徒指導観が今まさに求められています。
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
引用・参考文献
『教えから学びへ』河出新書(2021)
(教職員の協力を高める学校づくり 2022-03-29付)
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