教職員の協力を高める学校づくり No.86 対処、対応のゴールを見据える 今日的生徒指導の要締1(教職員の協力を高める学校づくり 2022-03-04付)
生徒指導は実践学であり、日常の教育活動に機能しなければならないと常々考えています。児童生徒との信頼関係を築くことの大切さは誰でも理解しています。しかし、どうすれば信頼関係を築くことができるのか、多様な児童生徒を前に立ち止まることがあり、生徒指導の原理に基づく方法論が求められています。
生徒指導の原理は要約すると自己指導力の育成を目指すものであり、変わらないものですが、その方法論は時代とともに変わらなければなりません。過去の経験知のみで指導することには無理があります。かつて生徒指導の主流であった厳しさとは、教師や大人から与えられるものではありません。子どもたちが自らに課した課題を乗り越えられるよう援助することが生徒指導であり、これからますます求められることと理解しています。
学校の課題としている状況の相談を受けて感じるのは、児童生徒の臨床的人間関係においては、トラブルが起きないようにするだけにとどまらず、互いの違いを理解し鍛え合い、自分を伸ばし切ることを追求する教育が必要であると感じることです。問題の対処、対応に追われることもあろうと思いますが、対処、対応のゴールをどこに見据えるかによって、本来の生徒指導の意義が発揮されるのではないでしょうか。
今日的生徒指導の問題は複合的であり、いじめ、学級経営、不登校、保護者対応など個々の問題だけではありません。いじめ問題と同時に学級の集団形成への課題も見られます。複合的な問題が不登校を誘発していると見られる場合、生徒指導に関する保護者への適切な説明と対応が求められます。
このように捉えると、いじめ問題はその対応を図るだけではなく、該当の児童生徒を含め、集団の形成への指導、保護者との関わりを見越した対応を準備しなければならないと理解しています。
生徒指導上共通に感じていることを説明します。それは児童生徒、保護者への共感力(他人の意見や気持ちをくみ取る力)です。教師や保護者からの不登校相談の事例として、教師の共感力が不足しているため、保護者との関係が不調となり、対立を抱え不登校が長引く事例、さらに、いじめ問題の解決が急がれるはずが、子ども不在となり教師と保護者の対立が長期化する事例もあります。
また、勇気を持って相談にきた児童生徒をあしらうような対応(児童生徒にとって重大な問題を、教師の思い込みで軽く対応するなど)によって、「様子を見よう」と先延ばしするなど、不登校やいじめ問題と同様に教師や学校の対応の不備が非難される事例が目に付きます。
カウンセリングの基礎を築いたカールロジャース(アメリカ臨床心理学者、1902~1987)は、人の心を大事にして人と関わろうとするときにするべき態度であるカウンセリングマインドの3条件として、「自己一致」「共感的理解」「無条件の受容」を挙げています。あらためてその精神と意義を振り返っていただければと思います。
つぎに学校や教師が非難される場面は圧倒的に初期対応です。感情的で敏感になっている児童生徒や保護者に対して、あいまいであったり、逃避的であったり、被害を受けたと訴えても、聞き入れない、そればかりか当の本人にも問題があるなどの初期の発言は不信感を募らせるだけです。
児童生徒を含め、保護者の対応は最初が肝心です。
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
(教職員の協力を高める学校づくり 2022-03-04付)
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