教職員の協力を高める学校づくり No.90 「聴く」に徹する 傾聴の大切さ 次世代の教員を育てるチーム職員室3(教職員の協力を高める学校づくり 2022-05-24付)
前号では次世代の教員を育てるため社会的インパクト理論によって、関わりの原理を説明しました。今号では、次世代の教員の教育力を高めるコミュニケーションについて記述します。
アメリカの臨床心理学者で来談者中心療法の創始者カール・ロジャーズ(1902~1987)は、アクティブリスニング(積極的傾聴)を奨励しました。アクティブリスニングとは、受容(先入観を持たず相手を受け入れること)、共感的理解(話し手の立場に立ち、話し手と同じ視点を持って物事を理解しようとする姿勢)が前提となります。
残念なことに、経験豊かな先生の中には「次世代の教員の教育力を高めるためにここぞとばかりに役立ちたい」との望みや思いが強く、相手の状況を適切に把握しないまま、良かれと思う持論を含め現状を変えようと力説される人がいます。これは「自分が必要」と思われたい願望によるものであり、相手の理解にかなうのではなく自身の満足で終わることになります。
また教師としてのあるべき理想の姿を倫理観や道徳観によって描き、理想像をひたすら説くことは、相手にとって得るものが少ないこととなります。
このような聞く姿勢の根底には「自分が経験してきたことが正しく、相手に理解させる」という感情が強く働いていると言えます。確かに若手を育てたいという願いは理解できますが、相手の存在を第一に考えなければなりません。相手の存在を第一に置くためには聴くことです。
マネジメントの発案者ピーター・ドラッカー(1909~2005)は「多くの人が、話し上手だから人との関係は得意だと思っている。対人関係のポイントが聴く力にあることを知らない」と述べています。
アクティブリスニングに重要なのは、言葉以外の表情や姿勢、視線、声のトーンに留意し、単に相手が話していることを聞くのではなく、相手が話したことの意味や相手が気づいていないことも聴き遂げるようにすることです。
聴き方は、相手の話を十分聴く前に早合点し、持論を述べるのではなく、一通り話してもらったあとリフレイン(オウム返し)や要約、言い換えを行い、相談内容を確認したあと①どのようなことに、どう感じているのか(何に行き詰まっているのか)を把握し②どのようにして課題や問題を解決しようとしているのかを受け入れるようにし③最後に求めに応じ―どの対応をすべきかアドバイスを行います。
次世代の教員といってもプライドがあります。「それさえもできないのか」と周囲の教師に思われたくないため、相談しない場合もあります。また経験年数の少なさや認識の弱さによって「大したことがない」と考え、保護者対応など問題を生じる場合もあります。さらに話す意味は情報の伝達ですが、その背景には「自分を分かってほしい」「共感してほしい」という思いがあります。
相手に精神的ゆとりを持たせ、安定を図るために、まず聴くことに徹する先輩教師であってほしいと思います。背後にある思いを感じることによって、相手の気持ちは大きく変わり信頼づくりにも影響します。
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
引用・参考文献
『マネジメント―基本と原則』ダイヤモンド社(2000年)
(教職員の協力を高める学校づくり 2022-05-24付)
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