札幌市中学校長会 各部の3年度 研究成果 第6回 進路指導部② 学びと将来のつながり考え ICT活用とリアルな体験両立を
(札幌市 2022-04-06付)

【視点2】「社会に開かれた教育課程の趣旨を踏まえたキャリア教育の変化」

▼子どもの意識から見えるキャリア教育の現状

▽子どもの意識と現状

 元年度のアンケートは、それぞれの質問に対し当てはまると思うものを3つ選択する形だったが、3年度は2つ選択する形に変更した。結果は大きく変わらず「高い収入よりも、自分の能力や適性、興味や好みにあった職業や仕事を選択したい」「コミュニケーション能力が、将来最も必要だ」と考えている生徒が多かった。しかし「将来必要とされると思う能力」の質問と3つの資質・能力との関係を分析すると、将来「コミュニケーション能力」が必要だと考えている生徒のうち16%が「相手が理解しやすいように工夫しながら、自分の考えや気持ちを伝えよう」としていない。同様に17%の生徒が「周囲と力を合わせて行動しよう」としていないことが分かった。これらの分析から、コミュニケーション能力は必要だと思っているが、学校生活の中では上手にコミュニケーションを取れていない生徒が、10人に1人以上の割合でいることが分かった。

▽自己肯定感・自己有用感

 質問項目「自分には、良いところがあると思う」「将来の夢や目標を持っている」「難しいことでも、失敗を恐れないで挑戦している」「人の役に立つ人間になりたいと思う」を分析することで生徒の意識について考察する。

 「自分には良いところがある」と肯定的な回答をした生徒は「将来の夢や目標を持ち、難しいことでも、失敗を恐れないで挑戦」し、「人の役に立つ人間になりたいと思う」傾向がある。「自分には良いところがない」と否定的な回答をした生徒はその反対の傾向がある。

 しかし「人の役に立つ人間になりたいと思う」だけは異なり、約9割の生徒が「人の役に立つ人間になりたい」と肯定的な回答をしている。つまり「今は自分に良いところがあるとは思えない」という生徒も「将来は人の役に立つ人間になりたい」と考えているということになる。

 少数ではあるが「人の役に立つ人間になりたい」に対し否定的回答をした生徒は「学ぶことや働くことの意義について考えたり、今学校で学んでいることと自分の将来とのつながりを考えたりしていない」傾向がある。また「将来の目標に向かって努力したり、生活や勉強の仕方を工夫したりしていない」傾向があることも分かった。

 これらはキャリアプランニング能力に関わる内容であり、進路に関する授業だけでなく、各教科の学びと学校生活や家庭・地域社会での学びを横につないだり、将来とつないだりしながら、自己の生き方について考えを深めることができるよう、学校教育全体で計画的に指導を行う必要があると考える。

▼社会に開かれた教育課程の趣旨を踏まえたキャリア教育

 平成28年の中央教育審議会答申には、子どもたちが変化の激しい社会を生きるために、教科等横断的な視点も持って育成を目指すこと、社会とのつながりを重視しながら学校の特色づくりを図ること、現実の社会との関わりの中で、豊かな学びを実現していくことを課題として挙げている。これらの課題を克服するためには、社会や世界と接点を持ちつつ、多様な人々とつながりを保ちながら学ぶことのできる環境を、学校が整えていく必要がある。

 独立行政法人教職員支援機構の校内研修シリーズ「キャリア教育の実践」の中で、筑波大学の藤田教授は「学校での学びの意義を子どもが実感できるのは未来なので、現時点での体験が重要となる」と説明している。

 このような観点で考えると、学校以外の場で「自分の能力や適性が生かせる仕事を選びたい」「社会に出たときにコミュニケーションは大切なのだ」と生徒たちが再認識できる場面は、学校での学習と大人の世界(=未来の私の世界)との接点を発見する場でもあり、生徒たちの成長には欠かせない要素となる。地域や社会とつながる職業体験、職場訪問、講演会や出前授業など、地域との連携や外部人材を活用したキャリア教育の意義を再認識するとともに、これからの時代を生きていくために必要な力とは何かを学校と地域や社会が共有し、共に育んでいくことが必要と考える。

【視点3校種間連携を踏まえた系統的なキャリア教育の深化】

▼キャリア教育における校種間連携の現状

 市学校教育の重点では、包括的重点項目の一つに「小中一貫した教育」の推進(校種間連携)が掲げられている。

 また、4年度から各中学校区で小中一貫した教育が全面実施され、現在それに向けて準備が行われている。その中で「キャリア教育」を明確に位置づけた取組が期待されている。特にキャリア・パスポートの有効活用については、小中だけではなく中高の連携も必要になる。

【まとめと展望】

▽研究のまとめ

 生徒たちが成人して社会で活躍するころには、グローバル化の進展や技術革新等によって社会構造や雇用環境が大きく変化していると予想されている。また、多様性を受け止め調和していきながら、一人ひとりが持続可能な社会の担い手として、新たな価値を生み出していくことが期待される。未来の社会に向かって創造的に考え、主体的に行動できる「自立した札幌人」を育むために、キャリア教育を充実させることは学校経営上、極めて重要な要素である。

▽今後に向けて

 ICTを利用すれば、空間的・時間的制約を緩和することもでき、遠隔地の専門家とつないだ授業や講演会、他の学校・地域や海外との交流など、今までできなかった活動も可能となり学習の幅が広がっていく。生徒一人ひとりが自分のペースを大事にしながら共同で作成・編集等を行う活動や、多様な意見を共有しつつ合意形成を図る活動など、「協働的な学び」を発展させることもできる。

 しかし、学校教育がこれまでに大切にしてきた同じ空間で時間を共にし、互いの感性や考え方等に触れ刺激し合うことの重要性は変わらない。知・徳・体を一体的に育むためには、教師と生徒や生徒同士の関わり合い、五感を通じ考え理解する実習や実験、地域社会での体験活動、専門家との交流など、様々な場面でリアルな体験を通じて学ぶことは重要であり、生徒の成長には欠かせない。ICTを活用した学習活動とリアルな体験を両立させたキャリア教育を、より一層充実させていかなければならないと考える。

(札幌市 2022-04-06付)

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