道教委 教育の魅力化で地方創生 学級減は改革の好機! 中教審の岩本委員が対談
(道・道教委 2022-12-08付)

教育魅力化フォーラム
岩本氏(左)と元紺谷氏が対談した

 道教委と道高校遠隔授業配信センターは6日、有朋高校とオンラインで教育の魅力化による地方創生フォーラムを開いた。中教審委員の岩本悠氏と同センター長の元紺谷尊広氏が対談。岩本氏は小規模校の魅力化について「学級減の危機は改革の好機」「小規模校ほど小さい力で大きな変化が早く生まれる」などと説いた。

 文部科学省から委託を受けた「地域社会に根ざした高校の学校間連携・協働ネットワーク構築事業(COREハイスクール・ネットワーク構想)」の一環。

 学校と地域が連携して地域の未来を描くための教育の魅力化について、島根県で魅力ある教育による地方創生に取り組む岩本氏を招き、その成果や課題・展望について理解を深めた。

 中教審「新しい時代の高等学校教育の在り方ワーキンググループ」委員の岩本氏は、島根県の隠岐諸島に建つ「島根県立隠岐島前高校」で、入学生28人という存続の危機を地域と一体となった高校改革で全国から生徒が集まり移住者も増える人気校とし、現在は島根県教育魅力化特命官や、全国の小規模校を支援する財団法人「地域・魅力化プラットフォーム」代表理事を務めている。

 岩本氏は小規模校の魅力化について「ピンチであれば何とかしようとのモチベーションが湧く。学級減の危機は改革の好機」「小規模校ほど小さい力で大きな変化が早く生まれる」「地域の課題は全て探究活動の教材になる。地域の人物や産業、自然などを有効に活用してほしい」などと、小規模校ゆえの利点を示唆した。

 有朋高校長も務める元紺谷氏との対談では「島留学はどうPRしたのか。入学後、こんなはずではとギャップを感じた人は」との問いに岩本氏は「最初は実績がないため、こんな教育をしていきたいという思いと地域の魅力をアピールした。極上の島留学がキャッチフレーズだった」「しかし、徐々にこんなはずじゃなかったと不満が出始めたので手法を変え、いかに何もないかをアピールした。何もないからこそ集中できる、ないからこそ力を身に付けていけると。すると、アグレッシブでチャレンジしたい子が入ってきた」と答えた。

 また、探究について「何か調べてまとめてプレゼンすればいい、という“なんちゃって探究”が増えている気がするがどうか」と投げかけると「SDGsをネットで調べ、教室の中で発表するといった活動ではなく、SDGsに本気で取り組んでいる人たちと実際に話し、提案してみることが大切。教室の中のお勉強ではなく、本物の、本気で取り組んでいる人たちの本気感が伝わったとき生徒は変わる」「キーワードは“本物”と“アクション”。とにかく疑問や課題を持ち実際にやってみること。そこまでしないと探究にならない」と述べた。

 また「島の子はよく自己肯定感が低いと言われるが、主観的ウェルビーイングを育てるにはどうしたら良いか」との質問には「地域の人と直に触れ合える機会があるか、多様な人と関わりロールモデルにできたか、自分が何かをやったときに受け止め、応援してもらったかの3点が大切」「高校生ができることは限られている。つまずいたとき応援してもらった、力を貸してもらった経験がどれだけあるかが重要」「隠岐島前高校では、留学してきた子が地域住民との触れ合いを体験し、みんな泣きながら卒業していく。地域に育ててもらったという思いを持ち、感謝し、いつか恩返しがしたいと話して去っていく。感謝はウェルビーイングの原点」と述べた。

 最後に、元紺谷氏は参加者に対し「きょうの小規模校の魅力化の話を参考に、ぜひ公募校長制度を利用し、小規模校の校長に立候補してほしい」と呼びかけた。

 道教委等が開催した「教育の魅力化による地方創生フォーラム」の概要はつぎのとおり。

▼隠岐島前高校の魅力化について

 高校だけでは改革はできない。地域とともに改革すること。当時の私は教員でもなく教育委員会の人間でもなかったので、地域住民と話し合いのテーブルにつくのに1年、共にスクールミッションやビジョンをつくるのに1年かかった。

 つくりたい地域の未来に向かってどんな若者の力が必要なのかを話し合い、起業家精神やグローカルマインドを持ち『仕事がないから地元に帰れない』ではなく、『仕事をつくりに地元に帰る』気概を持った若者を目指した。今では全国・海外からも留学・移住が進み、Uターン率も上昇している。

 全国的に都道府県立の高校は地域から浮いている感じだが、高校の魅力化がうまくいっているところは都道府県と市町村が協力し、地元が人や予算を出しているところが多い。

▼対談(Qは元紺谷氏、Aは岩本氏)

Q コーディネーターの役割について。

A 探究的な学びを地域と紐づけたり、生徒募集に際し魅力をつくり発信したり、地元市町村と共通ビジョンをつくるなど様々な種類がある。

 予算は8~9割が地元市町村からだが、最近都道府県も増えてきた。文科省では今後、新しい普通科をつくったところに配置できるよう考えている。

Q 少子化の中、生徒を増やすには生徒を他から持ってくるしかない。これはパイを奪い合っていることにならないか。

A 今まで地方は都市部に一方的に人を奪われてきた。逆の流れもあっていい。その分生徒の選択肢が増える。大都会に一極集中ではなく、地域が自立分散型で特色・多様性があれば人の流れは変わっていく。

 質が良くないところには集まらなくなるが、それぞれに良い教育をやっていれば選ばれるはず。世界中から質の高い教育を求め日本に学びに来るようにしたいと考えている。

Q 探究は地域のためか。

A 探究は地域のためにやるのではなく、学びの結果が地域のためになる。

 時々、地域に貢献することを目標に商品開発を行うなどの例を見るが、商品開発は目的ではなく手段でなくてはならない。

 失敗してもいいから取り組み、資質・能力を身に付けたかどうかが大切。活動を通しどれだけ学んだかという視点を絶対に忘れてはいけない。

Q 北海道にエールを。

A 北海道は日本の高校教育の課題の最前線。小規模校がこれだけ多様にあるのは北海道がダントツである。日本はいずれ北海道の状態に近づいていく。北海道の高校の規模が、こんなに小さくてもこんなに魅力ある教育ができると示すことができるか大いに期待している。

(道・道教委 2022-12-08付)

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