“日本一の公教育を目指すまち”へ 全国に先進的実践紹介 安平町が教育フォーラム(市町村 2023-08-31付)
2日間で延べ360人と多数の参加者が駆け付けた
【苫小牧発】安平町は8月上旬の2日間、町立早来学園等で「あびら教育フォーラム」を開催した。同町が推進する「日本一の公教育のまち」への実践を、多彩なメニューで紹介。このうち町長、教育長、早来学園校長らによるシンポジウムでは、子どもや教育を中心としたまちづくりについての考え方や実践例を交えながら、組織を越えた町のエリア価値向上について意見を交わし、最先端の実践を続ける同町の「教育まちづくり」を紹介した。
同町は「日本一の公教育を目指すまち」をキャッチコピーに掲げ、教育を軸としたまちづくりを実践している。
フォーラムは、義務教育学校早来学園の開校や、質の高さと先進的な取組で日本中から注目を集める幼保連携型認定こども園、様々な学びを挑戦につなげる町独自の教育手法「あびら教育プラン」など、町全体で創り上げている実践事例を全国の自治体関係者に発信し、教育まちづくりの在り方について議論を深めようと初めて開催したもの。
主催は町、町教委と「教育魅力化推進事業」を請け負い、社会教育事業「あびら教育プラン」の推進、学校内における地域開放スペースの利用促進、小・中学校の総合的な学習の時間のカリキュラム作成等を行ってきた㈱FoundingBase(東京)。
フォーラムでは①「大人主体」から「子ども主体」の教育へ②「学校主体」から「地域主体」の教育へ③「教育の魅力化」から「エリア価値向上」へ―の3つの切り口から、パネルディスカッションや事例紹介、公開保育など様々なメニューを展開。2日間で延べ約360人が参加した。
このうち「エリア価値向上を目指す安平町の未来とは?~組織を超えた共創」をテーマとしたパネルディスカッションでは、及川秀一郎町長、種田直章教育長、山田誠一早来学園校長、井内聖町教委子育て・教育総合専門員がパネラーとなり、FoundingBaseの林賢司CCOが司会を務めた。
概要はつぎのとおり。=敬称略=
林 教育まちづくりについて学校現場では。
種田 校長先生方に絶対の信頼感がある。子どもの権利や意見を尊重する、子どもに優しい町の理念をみんな学校経営の重点として盛り込んでくれている。
及川 就任以来、学芸員や指導主事の配置を進めてきた。震災の時、校舎の被災によって追分小学校と追分中学校は同じ校舎で学んだ。その実績や早来学園の実績から、追分にも義務教育学校をとの要望がある。追分中を基本に、追分でも一体型義務教育学校をつくり、隣接する追分高校とも連携していきたい。
山田 生活科や総合的な学習の時間、行事などで町の方々と関わる様々な教育プログラムを行っているが、プログラムの原案は既に町で用意されているので、来たばかりの地域の実態を知らない先生でも積極的に校外学習を行える。
最新鋭の何でもできる校舎で授業を行っているが、教科書を使い普通に学習指導要領に則した学習を行っている。
ただ、やり方が違う。例えば理数室にはホワイトボードが6枚あり、可動式でグループごとに話し合いのツールとして使う。教師が書いて子が書き写すというスタイルは全くない。知識伝達の手段ではなく、子どもが使うツール、子どもたちがその場で新しい知識をつくり上げていくためのもの。
林 地域との関わりは。
山田 セキュリティーが問題になるが顔認証システムによってクリアしている。共用スペースでは自然文脈的に子どもと大人の交流が起こっている。
80~90歳の老人が足腰の教室に来ている隣で、0歳児を連れたお母さんが料理を学んでいる。そこに中休みで子どもが訪れ、自然に交流が生まれている。
子どもが学校の中で日常的に地域の方と触れ合っている学校は珍しい。子どもはミシンの使い方など様々な大人の行動を見ている。こうした環境だけでも様々な可能性がある。もう一歩進むと面白いことが起こっていくと思う。
井内 こども園の園長を務めていた時、保護者説明会で「誰が子どもを育てるのか」という話をした。親や学校だけではなく、町に住む人と文化、社会全体で育てる。学校の中で育つ子と、町の中で育つ子とでは違う。
こども園は当時、乳幼児を安全に預かるだけの施設だった。だが、私は「町を生きる子を預かる」「市民の一人を預かる」という方針とした。
今、文部科学省が進める地域学校協働本部に取り組んでいきたいと思っているが、学校が中心ではない。子どもが真ん中。子どもを中心に全てがつながり、町をつくっていく形を考えている。
子どもの権利条約を実践する自治体、子どもにやさしいまちづくり事業(CFCI)に登録されていることが安平の一番の強みだと思う。子どもが当たり前に意見を表明できる権利が大切にされる。これは、ただ子ども扱いしてかわいがるのではない。子どもを一市民としてその権利を認めるということ。秋に子どもに優しいまちづくりプロジェクトチームを立ち上げ、教育委員会に限らず全ての分野の人を巻き込んでいきたい。
及川 CFCIは全国でも5自治体のみで道内ではニセコ町と本町だけ。
私は公約の中で子どもの教育環境を定めた基本条例を作りたいとうたっているが、条例を作ってから何かやるのではない。作って終わりの絵に描いた餅では意味がない。まず実践する。そして今やっていることを、今後人が代わっても進めていけるよう条例を作りたいと思っている。
先日追分中の3年生が防災公園を造ってはどうかと提案してくれたが、さっそく安平小の跡地を利用できないかなど各部局に働きかけた。CFCIはただの理念ではない。私は子どもの声をできる限り町の計画に織り込んでいく。
林 教育まちづくりにかじを切ったのは。
及川 かつてはどこの町も人口増加だったが、今は全て人口減少の中でどう良い町にするか。震災時から減り続けた本町は、昨年20年ぶりに社会人口増となった。これは教育まちづくりの成果と思う。
北海道ではデジタル、エネルギー、食を3本柱にしているが、安平は有機農業を進め、給食でも活用している。またデジタル化では議会を全て生中継しているほか、運動会や学芸会の一部もテレビで見られる。子どもの取組を家にいながらテレビで見られるのは、他の町にはない圧倒的な強みだと思う。
林 教育委員会としては。
種田 人的背景を大切にしてきた。とにかく意欲的で前向きな先生を教育局の協力も得て集めており、今は課題よりも楽しみの方が大きい。
林 目下の課題について。
山田 早来の教育はごく普通の枠の中でやっているが、保護者からは変わったことをやっていると思われる。私も学校は社会の実情に応じて行っていくものと思っていたが、新学習指導要領では、より良い社会を築くために学校がリーダーシップを持ってやっていくことが記されており、逆転しているのである。
文科省が示している理想の教育が今本学園に詰め込まれ実践されている。新しい景色ばかりなので大丈夫か?とも思われるが、実績をアピールすることに努力している。
及川 小さな町だと学校に司書はなかなか置けないが、公民館には司書がいる。それならと公民館から図書室を早来学園に引っ越し、司書も一緒に来てもらった。これで町民も子どもも使える図書室となった。
早来学園では公民館でやることがたくさん行われている。地域に開かれた学校を目指してきたが、文科省の基準がこちらに追い付いてきた感じだ。
山田 教職員はアドレスフリーで固有の机、いすがないなど、新たな取組に従前の形を求める声もあったが、先生方一人ひとりによく説明した。義務教育学校設立協議会等も30回以上開き、周知徹底・共通理解を図った。そうしていくうちに、先生も住民も「自分も参画しているんだ」という意識が生まれ、不安から期待に変わっていった。
林 民間との連携について不安は。
及川 まずは会社の魅力だけではなく、社員一人ひとりと信頼関係が築けるか。今はいろいろな会社の方にいろいろな町の課題に向き合ってもらっている。
役場職員は基本ベースのことをきっちりこなすが、さらに上のレベルのことをやっていくには民間の力が必要。ただ、行政と民間のバランスが大事。行政が強過ぎると保守的・前例踏襲的になるし、民が出過ぎると何でもありになる。
種田 教員は今まで積み重ねてきたことに固執する傾向にあるので、行政からものを言うよりむしろ民間から意見をいただき擦り合わせた方がいい。その意味ですごく助けられている。
山田 教育プログラムを作っていただいているのは本当に助かるし、教員の働き方改革にもつながっている。ただ、丸投げは絶対にしない。教員はプログラムをその時の子どもや地域の実態に応じて再構成する。それが本分である。
(市町村 2023-08-31付)
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