厚沢部町でICT教育セミナー 先の未来イメージして 文科省・武藤氏が講演
(市町村 2023-09-22付)

厚沢部町ICT教育講演会・武藤氏講演
武藤氏は10年先を見据えた教育に取り組んでいく必要性を語った

 【函館発】厚沢部町ICT教育推進委員会と厚沢部町教委は10日、町民交流センターでICT教育セミナーを開いた。檜山・渡島管内の教育関係者ら約80人が参加。文部科学省初等中等教育局修学支援・教材課長で学校デジタル化プロジェクトチームリーダーの武藤久慶氏が「改めて、なぜ、今、GIGAが大切なのか これからの教育に求められるもの」と題し、教育改革の背景にある6つのトレンドをもとに、ICTの利活用や働き方改革を進める必要性について言及した。

武藤氏は平成12年文科省に入省。教育課程課に勤務後、道教委へ4年間出向。外務省在ブラジル日本大使館広報文化班長1等書記官、大臣官房総務課副長などを経て、4年6月から現職。

 講演概要はつぎのとおり。

▼教育改革の背景にある6つのトレンド

 1つ目は人口減少・少子高齢化である。学校が小規模化する中で多様性を意図的に補充していく必要がある。そこにデジタル教材や動画等、GIGAスクール構想の関係が効いてくる。

 2つ目はグローバル化。M&Aや外国人による日本への投資、企業買収等が進み、2060年に人口の1割が外国人になると言われている。生産年齢人口に限ると、2040年には1割を占める可能性がある。

 3つ目は多様性について。近い将来、上司や部下、同僚、地域住民などが様々な国籍を持つ状況になる。多様な他者と協働したり、時には議論したり、問題を解決する力が大切。自分たちと違う価値観や知識・技能を持った人同士が組み合わさり、新しい価値やサービスを生み出していく世界になりつつあるため、デジタル技術・社会の良き使い手を育てていく必要がある。

 4つ目はSociety5・0について。日本はデジタル化が非常に遅れていると言われている。特に人材、スキルのスコアが足を引っ張っているとするデータもある。Society5・0の時代に生きる子どもにとって、PC端末はマストアイテム。ICT活用が日常になる中で、学校は社会を生き抜く力を育み、個の可能性を広げる場所であることが求められる。

 5つ目は変化の激しい不確実性の時代ということ。自分が身に付けた知識を常にアップデートし、教師がいなくても学ぶ方法を学校教育の中でしっかり育成していくことも今まで以上に大事になってくる。

 6つ目の人生100年時代は若者の意識も転職やキャリアアッブが既に当たり前の時代。新たな適応と学習に対応する資質が求められる。

▼データで見るわが国の教育

 日本の教育はOECD諸国の中でもトップクラスである一方、PISA調査で明らかになった課題もある。テキストから情報を探し出す問題、テキストの質と信ぴょう性を評価する問題、自分の考えを他者に伝わるよう根拠を示して説明する問題が苦手傾向にあることが分かった。

 また、日本の子どもはデジタルを学びに使わず、遊びに使う傾向が強い。フェイクニュース等があふれる中、インターネットの使用方法をはじめとした「賢い付き合い方」を意識的に子どもたちに育成する必要がある。

 日本は理系人材が非常に少ない。このままではSociety5・0を進められない。現在、文系に偏っている大学の定員を理系や文理融合、デジタル関係に転換する動きが進んでいる。つまり、理科や算数・数学から離脱する子どもを減らして行く必要があると思う。

 民主主義にとって必要な当事者意識が不十分というデータもある。自分で自ら問いを立て、議論し、提案する学びの割合をカリキュラム全体の中で増やしていく必要がある。

 ある企業の調査では「上手な勉強の仕方が分からない」子は小中高に上がるほど増えている。理解度や学力は子どもによって様々であるにもかかわらず、一斉指導を進めてきた中「やり方が分からない」という子どもが増えていった。

 働き方改革がとても重要なのは、教職を志す若者が減っていることが背景にある。「自前主義」からデジタルへ脱却することが子どもたちの学びや働き方改革につながる。

 スピード感が求められる時間の中で、少し先の未来でどのようなことが想定されているかをイメージし、目の前の子どもたちの教育に尽力いただきたい。様々な課題は私たちも解決に力を注ぐ。

◆デジタル化に伴う現場の課題で討論 効率良く働ける未来を 働き方改革や保護者配慮等

 ICT教育セミナーでは、デジタル化に伴う教育現場の課題についてパネルディスカッションを行った。デジタルを活用した授業改善や働き方改革、保護者への配慮などについて、今後の学校教育の在り方を話し合った。

 パネルディスカッションの概要はつぎのとおり。

▼コーディネーター

▽ほっかいどう学推進フォーラム理事長、文科省学校DX戦略アドバイザーの新保元康氏

▼パネリスト

▽文科省初等中等教育局修学支援・教材課長、学校デジタル化PTリーダーの武藤久慶氏

▽厚沢部町教委指導主事の加藤一義氏

▽厚沢部町立厚沢部中英語教諭の越前智美氏 

=敬称略=

越前 ICTの利活用をうまく進められているかが不安。簡単に学びたいが、業務過多で困っている。

武藤 ICTが校務や研修で無理なく使えるようになると、授業改善にもつながる。大人がデジタルを理解していなければ子どもに教えられない。大分県玖珠町では、教育委員会と学校がチャットで相談に応じる体制が整備されている。このような取組も必要になる。

加藤 過去に勤務していた奥尻中では研修受講後、独自にICTライセンスを渡し教員も学んでいく体制を図っていた。協働的な学びができれば、より良いと思う。

新保 ICTが得意ではなくても、困っていたら助け合えば良い。それがGIGAスクール構想において重要となる。

武藤 働き方改革について。業務量を減らす「引き算」は大事。ただ、内容によっては管理職、教職員、教育委員会、国のどの段階でやるべきことなのか線引きを考える必要がある。

加藤 例えば学級・学校内でできることは、こだわりを減らすこと。学級通信の回数や運動会、卒業式など学校行事の形式を考えるだけでも変わる。

越前 確かに、学級通信を出していなくとも、学級経営は悪くなっていないと思う。ホームページを充実させたり、言葉で子どもたちに語りかけたりすることで子どもたちと十分向き合う時間が確保できている。

新保 働き方改革で確保された時間は体を休めたり、授業研究に時間をかけたりする方が価値につながると思う。

武藤 学校と行政で仕分けし、業務量を削る必要がある。文科省は今後、学校と行政にデジタルを活用した業務の効率化に関する取組を調査し、学校版と教育委員会版のチェックリストを作る予定。文科省のホームページには働き方改革の事例集も掲載されているため、ぜひ確認してみてほしい。

新保 働き方改革の一番の目的は教員の魅力化。改革の推進手段としてデジタルを使うことが鍵になる。保護者への合意形成についてはどう考えるか。

越前 共働き世帯の増加など保護者もより一層忙しい状況になっているため、母親同士で、各種便りの多数通知は「紙爆弾」だと話していた。

加藤 コロナ禍はまさに「紙爆弾」だった。保護者との連絡手段をICT化するのも良いかもしれない。保護者にも便利さを理解してもらうため、ICTの実践機会を体験してもらう場が必要だ。

武藤 保護者はある程度一定の世代であるため、現代ではスマホで処理できるようにしてあげると良いかもしれない。ファクスや紙からの脱却は早急に進める必要がある。

新保 デジタルで効率良く働ける未来を行政、学校、地域、家庭で連携してつくっていくことが大事。

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厚沢部町ICT教育セミナー(パネルディスカッション)
(左から)新保氏、武藤氏、加藤氏、越前氏

(市町村 2023-09-22付)

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