子主体の問題解決実現へ 北理研 第70回研究札幌大会(関係団体 2023-10-25付)
北海道小学校理科研究会(北理研、松田諭知会長)は13日、札幌市立本通小学校(香西尉男校長)で第70回道小学校理科教育研究大会札幌大会を開催した。同校の開校60周年教育実践発表会を兼ねて開催。札幌、旭川、函館、釧路、オホーツクの5支部から170人を超える会員が一堂に会し、3~6年生の授業公開や各支部の実践発表、文部科学省初等中等教育局教育課程課の有本淳教科調査官による講演を通じて、授業力向上と理科教育のさらなる深化を目指して研鑚を積んだ。
開会に当たり、松田会長があいさつ。4年ぶりに直接対面で開催できたことに触れ「コロナ禍の3年間は大変な日々だったが、研究の歩みを止めず会員が一丸となって困難を乗り越えてきた」と敬意を表した。「これまでオンラインで培ってきた人とのつながりを実感し、瞳を輝かせる児童たちや教師の熱い指導を共有する場を設定できた。自身の授業力向上やこれからの理科教育の在り方について交流する機会にして」と話した。
続いて、香西校長があいさつ。開校60周年を迎えたことに謝辞を述べたあと「今回の研究大会は、間違いなく北海道の教育をけん引する。会場校として誇り」と述べた。
有本教科調査官、札幌市教委教育課程担当課の髙畠護指導主事が祝辞の言葉を贈ったあと、北理研の冨田雄介研究部長と本通小の吉田千宙研究部長が研究提言を行った。
北理研の全道研究テーマは「一人ひとりの問題解決を実現する」。ことし70周年を迎えた同会は、子どもを取り巻く状況や技術が変化する中で、発足当時から「子ども主体の問題解決」を最重要視している。これからの時代においては、個性豊かな子どもたちがそれぞれの違いを受け止めて生かす授業づくりを目指すこととした。
また、各支部の研究主題を確認。札幌支部「自然に浸り、自分らしさを発揮して追求する問題解決」、旭川支部「自らかかわり、科学的に追求し、知識を紡ぐ子どもの育成」、函館支部「仲間と共に理科の学びをつくりあげる子の育成」、釧路支部「学びを生活や未来につなげる子どもの育成」、オホーツク支部「学びを実感し、問題解決し続ける児童生徒の育成」のもと、それぞれ積み上げてきた研究を背景に独自の切り口で研究を進めていることを報告した。
一方、本通小の研究主題は「“わかった!”“できた!”を実感する子ども」、研究副主題は「“全員参加”の授業づくり~“やってみたい!楽しい!なぜだろう?”が生まれる授業」。研究の視点は、子どもの心を動かす教材化と“学びを深める”教師・児童同士の関わりの2点。子どもの知的好奇心を刺激し、多様な考え方・捉え方の中で主体的に学ぶ姿を目指した授業づくりを展開している。
このあと、4本の授業公開および各支部による8本の実践発表、有本教科調査官による講演を行った。
◆札幌本通小 理科4授業を公開
第70回道小学校理科教育研究大会札幌大会の会場校となった札幌市立本通小学校(香西尉男校長)は13日、3~6年生理科の4授業を公開した。同校の開校60周年教育実践発表会を兼ねて開催したもの。
4年1組「水のすがたと温度」(及川彩教諭、児童数27人)では、水を温めると水量が減る原因を探るため、児童たちが自ら考えた方法で実験活動を行った。
単元を通して、水の状態変化と温度の関係を理解させ、液体を熱したり冷やしたりして学んだことを生活に生かそうとする姿を目指している。
単元構成をみると、全12時間を3分割。第1次では6時間を充て、生活での事象を基盤に水の様子と温度を関連付ける学習を展開。4時間を確保した第2次では、水が減った要因を追求する科学的な深まり、3時間を充てる第3次では、これまでの学習成果を生活に返す「応用と発展」を位置付けている。
前時までに、水の沸騰実験を通じて、水量が減ることに着目した児童たちは、原因を探るための実験方法を自分たちで考えた。
12時間扱いの10時間目となった本時は「温めると水の量が減ることは湯気や泡、水蒸気が関係しているのかな」をめあてに、班ごとに実験を展開した。
及川教諭は、考えが近い児童同士でグループを編成。実験方法ごとに、水面と湯気の間にガラス棒を当てるA群、袋に泡を集めて膨らむか確かめるB群、湯気や泡をビーカーに移して冷やすC群に分類し、実験を促した。
B群の班では、熱している水面からロートで袋に水蒸気を集めた。ある児童が「袋が曇った」「水が出てきた」という結果を受けて「袋を冷やすとたくさんの水が出てくるかもしれない」と仮説を立てたところ、及川教諭は「とても良い予想!ぜひやってみよう」と袋を氷で満たしたボウルに入れ、実験を発展させた。
班は、袋内により多くの水を回収できたことから「湯気や泡、水蒸気が関係している」とまとめた。
各班の実験結果は、黒板横の画用紙にイラスト付きで全体に共有。どの班も、水の付着する部分を冷やした方が水が回収できたため、及川教諭は「身の回りにある液体も姿が変わる?」と次回の展望を示した。
研究協議では、グループ編成や他班の実験結果を見に行く児童の姿から、主体性・他者との関わりが引き出せた一方で、泡や湯気の正体を探ろうとする班があり、実験の目的が不明瞭だった可能性について検討した。
第25代会長の永田明宏氏は「考えが違う人がいる場合は方法を統一することで、確かめたいことが集約されているときは方法は多様に設定することで、児童同士の絡みが生まれる」と示唆を与えた。
授業助言者の道教育大学附属札幌小学校の佐野恭敏副校長は、班内の気付きを迅速に全体に共有する重要性を説いたほか、可燃性の低い素材でできた軍手の使用を徹底するよう伝えた。
◆文科省・有本教科調査官が講演
第70回道小学校理科教育研究大会札幌大会では、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官で国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官・学力調査官の有本淳氏が講演「一人ひとりの問題解決と学習評価」を行った。問題解決能力の育成には、年間を通して一貫した授業構成が必要になることを強調。目指す姿を見定めた教育活動の展開を求めた。
はじめに、文科省が4年度に実施した教育課程実施状況調査結果を引用。全国の小学5年生理科授業のうち62・1%が、6年生では65・4%が理科専科教員によって行われていることを示し「理科専科は教科担任制の中で最も高い割合を占めている」と報告した。
専門性の高い授業を展開するためには「理科がどのような教科であるか(本質)」「理科授業を通して学習したことが日常生活でどのように役立つか(有用性)」「理科で育成を目指す資質・能力とは何か(意義)」という3つの視点が欠かせないことを前置きした。
個に応じた指導の在り方に関わっては、学習指導要領に「指導方法や指導体制の工夫改善によって、個に応じた指導の充実を図る」よう明記されていることを踏まえ、具体例としてインターネットや新聞などの情報手段、視聴覚教材の活用を挙げた。
教師は子どもが一人だけで課題をやり切れるかどうかを見極めることが必要とし、重点的に支援に当たったり(指導の個別化)、子どもの学習の進み具合を調整したり(学習の個性化)、必要な手だてを講じるよう訴えた。
指導と評価の一体化については、児童の学習状況を確認する際の観点にフォーカス。実際に使用された指導計画を参考資料に「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」のどれもがバランス良く働くよう計画を立てているか、評価規準は妥当なものであるか、教師自身が今一度見直すことの重要性を説いた。
また、授業で扱う内容は単元依存である一方で「問題解決能力の育成を目指す授業構成は1年間を通じて一貫していなければならない」と強調。さらには、小学校の6年間を通して「育成を目指す姿を見定めた教育活動を展開してほしい」と伝えた。
講演後は、質疑応答。
北理研札幌支部の研究の重点「個の選択と個の判断」に関連して「自己選択・自己決定には自己責任が必ず自己責任が伴う。児童たち自身に具体的な根拠を持って判断できているかが大切」と話した。
他者の価値については「友達はこうしているけれど、あなたはどうしたい?」と場面を設定することで、子どものつぶやきを拾い上げることが必要とし「他者の声を取り上げて褒める教師の姿勢が子どもたちにも伝わる」と考えを示した。
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自ら考えた方法で実験に取り組む4年生
(関係団体 2023-10-25付)
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