新春インタビュー 札幌市教委 檜田英樹教育長に聞く 持続可能なCS構築へ 不登校児の学び場整備を(札幌市 2024-01-01付)
札幌市教委の檜田教育長
新年を迎え、札幌市教委の檜田英樹教育長に市内教育の現状と課題、6年度から導入予定のコミュニティ・スクール(CS)の方向性、学校における暑さ対策などを聞いた。
―札幌市の教育の現状と課題、今後の対応について
昨年は、新型コロナウイルス感染症対策の大きな転換期を迎えたことをはじめ、猛暑に見舞われるなど様々な変化があった。そのような中、子どもたちが安心して充実した学校生活を送ることができるよう、多方面からお力添えいただいた皆様に、あらためて心から感謝申し上げたい。
さて、札幌市では、平成26年に現行の札幌市教育振興基本計画を策定し、教育に関する施策を総合的・体系的に進めてきた。現行計画の策定から10年が経ち、本年度で計画期間満了となることから、今後の教育における基本理念や目指すべき教育の方向性を示す第2期札幌市教育振興基本計画の策定に向け、検討を進めているところ。
第2期計画では、本市の教育が目指す人間像「自立した札幌人」を現行計画に引き続き掲げつつ、時代の変化に伴い、その解釈を捉え直し「未来に向かって新たな価値を創造し、主体的に学び続ける人」「自他のよさや可能性を認め合い、しなやかに自分らしさを発揮する人」「ふるさと札幌に誇りをもち、持続可能な社会の発展に向けて行動する人」としている。
近年、価値観の多様化、デジタル化やグローバル化の進展等、将来の予測が困難な時代が到来している。そうした時代背景においても、子どもたちが、多様な人々との関わりを通して、自分と他者の大切さを認めることで、自分の良さや可能性に気付き、主体的に取り組む態度や行動力を身に着ける教育活動を推進したい。加えて、互いの個性や多様性を認め合い、視野を広げることで、新たな価値を創造する力を育み、持続可能な社会の創り手となる子どもたちを育んでいきたい。
教育委員会としては、学校と地域、保護者が、目指す子ども像や理念を共有し、共に子どもたちを支え育む中で、学びを通した人々の関わりがより良いまちづくりにもつながり、人も社会も豊かになるような教育の実現を目指してまいりたい。
また、令和4年12月に、スポーツ庁および文化庁から「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」が示された。ガイドラインでは、学校部活動の地域連携や地域クラブ活動への移行は、将来にわたり生徒のスポーツ・文化芸術活動の機会を確保するために重要であるとされるとともに、生徒のスポーツ・文化芸術環境を巡る状況は地域によって異なるため、地域クラブ活動の整備方法等は地域の実情に応じた多様な方法があること、学校部活動の地域連携から取り組むなど段階的な体制整備を進めることが考えられることなどが示されている。
ガイドラインの趣旨等を踏まえ、5年度から部活動の地域移行を担当する部署を新設し、札幌市の実情に合った部活動の望ましい在り方、そして地域と連携、協働した新たなスポーツ・文化芸術活動の機会の創出などに向けた様々な取組を進めてきた。
昨年7月には、小中学生およびその保護者、中学校教職員を対象とした部活動地域移行に関するアンケート調査を実施した。アンケート結果からは、小学生が中学生になったらやってみたいと思う競技・種目のニーズが多様化しており、現状の部活動では十分に応えられていないこと、中学生が部活動に望むこととして「専門の指導者から教えてもらいたい」「練習の日数や時間を増やしてほしい」といった、部活動の充実についての意見が多く寄せられている一方、中学校教職員の大半が部活動の顧問について負担に感じていることや、地域移行後も指導に従事したいと思う教員が3割程度であることなど、現状の部活動や地域移行に向けての課題が多く見えてきた。
また、有識者や地域のスポーツ・文化芸術団体関係者等を委員とした「部活動地域移行及び地域スポーツ・文化芸術活動の機会確保に向けた検討委員会」の第1回目を8月に開催して、札幌市の部活動の現状、課題やアンケート結果等について共有するなどした。
10月からは、旭丘高校と開成中等教育学校を会場に、市内の中学生と会場校の高校生等が合同で参加するバドミントンの練習会を実施している。この練習会は、運営を民間事業者に業務委託して、専門的な指導者の派遣や管理運営を担わせることで、生徒に対する指導の充実と学校の負担軽減の両立を図るとともに、活動の将来的な地域スポーツ活動への移行を見据えたモデル事業として、ことし2月まで実施することとしている。
これからも、札幌の子どもたちが将来にわたって、多様なスポーツ・文化芸術に親しむことができる環境の整備を一義的な目的として、モデル事業の成果・課題の検証や、検討委員会における意見等を踏まえながら、引き続き札幌らしいスポーツ・文化芸術活動のさらなる充実・発展に向けた検討を進めていく。
本市の不登校児童生徒数は、全国と同様に増加傾向が続いており、令和4年度は過去最多を更新している状況である。その要因として、教育機会確保法の趣旨の浸透や新型コロナウイルス感染症の影響などが挙げられる。子どもを取り巻く生活や環境が大きく変化していく中、一人ひとりの子どもの状況に、丁寧に寄り添っていく取組がより一層求められている。
そこで、これまでも市内の小・中学校に「相談支援パートナー」という有償ボランティアを配置し、教室に入ることが難しい子どもに対して、学校内に居場所をつくって支援できる環境を整えてきたが、ことしはさらなる支援の充実に向けて取組を強化する予定である。
また、学校以外の学びの場の一つである、教育支援センターでの支援を充実させ、対面による子ども同士の関わり合いや学び合いを大切にしたり、オンラインを活用して、家に居ながらにしていつでも学ぶ機会がもてたりするようにするほか、教室に近い雰囲気で子ども同士が関わり合える仮想空間、いわゆるメタバースの導入についても検討するなど、子ども一人ひとりが「自分が大切にされている」と実感できる「新たな学びの場を整備」することにより、支援の一層の充実に取り組んでいきたい。
―コミュニティ・スクールの方向性や期待について
札幌市では、4年度から「小中一貫した教育」を市内で全面的に実施し、取組を進めてきた。また、並行して「人間尊重の教育」を学校教育の重点の「基盤」と位置付け、子どもが互いの個性や多様性を認め合い、心豊かにしなやかに生きようとする態度を育む取組を推進してきた。6年度から、これらの取組を土台として、順次、市内全校種でコミュニティ・スクールの導入を推進していく予定である。
コミュニティ・スクール導入に当たり、4年度から地域・保護者・高校生らから構成する検討委員会において、先進地視察や数度にわたる熟議によって、札幌らしいコミュニティ・スクールの在り方を検討していただいた。
また、8月に市立学校の児童生徒から参加希望者を募り開催した「子ども教育委員会会議」において、校種を越えた意見交換と発表を行ってもらったところである。こうした取組を受け、札幌らしいコミュニティ・スクールの特徴として①子どもの声を学校運営に反映させる、②「小中一貫した教育」の基本単位であるパートナー校で実施する―を2本柱とした。
現在、策定中の第2期札幌市教育振興基本計画の主要な取組として、コミュニティ・スクールと地域学校協働活動を位置付け、子どもたちの声を受け止めながら、両者を一体的に推進し、地域全体で子どもの学びや成長を支えていく予定である。
また、地域人材や様々な団体・機関の皆様との連携・協働を促進し、体験活動をはじめとする豊かな学習機会を提供していくとともに、学校評議員や中学校区青少年健全育成推進会といった既存会議体の見直しなどによって、教員が本来業務に専念できる環境づくりに生かしていきたい。
さらには、このコミュニティ・スクールと地域学校協働活動の一体的取組によって、コミュニティ・スクールがより良い社会をつくるための地域づくりの一助となり、地域課題を解決するためのプラットフォームの一つとなることにも期待したい。
将来の予測が困難な時代において、子どもたちが豊かな人生を切り拓く力を育むためには、学校だけでなく、様々な方々とのつながりの中で学ぶ機会の充実を図っていくことがより一層重要だと考える。そのためには、地域や保護者の皆様のご理解・ご協力をいただきながら、持続可能なコミュニティ・スクールの仕組みを構築し、子どもに関わる方々の意見を学校運営に反映させ、子どもの多様な学びや成長を支えていきたい。
―コロナ禍における教育活動の総括と今後の在り方について
3年間に及んだコロナ禍を振り返ると、感染症対策による様々な制限に伴い、学校行事や体験活動に大きな影響を与えることとなり、子どもたちに残念な思いをさせてしまったと感じるとともに、あらためて学校教育ならではの協働的な学びや、体験活動を通して子どもたちの感性や社会性等を育んでいくことの重要性が確認されたと感じている。
今回の世界中を襲った感染症の流行に見られるように、子どもたちはますます予測困難な時代を生きていくことになる。本市では、これまでも子どもたちに育みたい資質・能力として、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら問題を解決する「学ぶ力」の育成を推進してきたところだが、あらためて「学ぶ力」を捉え直し、さっぽろっ子に生涯にわたって発揮できる資質・能力としてあらためて価値付けし、学校教育全般を通して育成していくものとし「課題探究的な学習」を取り入れた授業づくりと、さっぽろっ子「自治的な活動」を取組の二本柱として推進していくこととした。
この2つの取組については、これまで以上に、子ども一人ひとりの主体性を大切にした多様な学びの実現を目指していく。そのために、OECDのラーニングコンパス2030で示された「AARサイクル」を参考にして、子ども自らが「A・見通し」を持ち「A・行動」し、「R・振り返り」を行っていくという学習プロセスを大切にしながら、一つ一つの学びをつなげ、積み上げていく学習を推進していくこととしている。
特に本市では、「A・見通し」の段階を重視して進めていく。さらに、授業時間だけでなく学校生活全般において、未来に生きて働く「本物の経験」を生み出していく必要があると考えている。
コロナ禍においては、デジタル化が加速し、子どもが学ぶ環境にも大きな変革が起きた。市内の学校においても、登校したらタブレット端末を開き、その日の連絡を確認したり、授業ではノートと同様に端末を開いて考えを入力し、互いに見合ったりすることがあたりまえの風景になりつつある。
本市では、4年度に「子ども一人ひとりが大切にされている」と実感できる学校づくりに向けた、全市共通の子どもの合言葉となる「さっぽろっ子宣言」を子どもの手によって創り上げる取組を行った。端末の活用が進んだからこそ、アンケート調査を速やかに実施したり、子どもたちによるオンライン会議を行ったりすることができ、全市の子どもたちの声を聞くことができたと考えている。
現在、「令和6年度 札幌市の学校教育」について冊子の作成を進めているところだが、子どもを真ん中に据えた学校教育を推進していくためにも、全ての教育活動を貫く“重点”として「子どもの声を聴く」を位置付ける予定である。例えば「さっぽろっ子自治的な活動」においては「子どもサミット」を開催し、さっぽろっ子宣言「プラスのまほう」に基づいた各校の取組についても議論できる場を創出していく予定である。
また「令和6年度 札幌市の学校教育」【概要版】は、子どもが読んでも分かるように記載し、年度当初から教職員が子どもと一緒に共有するとともに、様々な機会を捉えながら地域へも発信していく予定である。
今後も札幌で育つ子どもが「したい」という意欲を持って、集団づくりや社会に主体的に参画し「ふるさと札幌」における学びや成長を実感し、その過程や経験に誇りを持てる取組を家庭・地域との連携を図りながら、学校教育全体で推進していく。
普通教室エアコン早期整備
―学校における暑さ対策の方向性について
昨夏のような猛暑が今年以降も発生することが想定される中、子どもたちが安全・安心な学校生活を送ることができるよう、これまでの暑さ対策を抜本的に見直し、ハード・ソフト両面から取組を進めていく必要があると考えている。
まずはハード面での対策として、子どもたちが快適に過ごすことができる環境を整備するため、9年度までに全市立幼稚園・学校の普通教室などに常設のエアコンを整備することとし、第2次札幌市まちづくり戦略ビジョン・アクションプラン2023において目標に掲げたところである。
エアコン整備は、単に機器本体を設置するだけではなく、学校全体の電気容量の増強も必要となるほか、民間事業者の受注体制の確保などの課題もあり、全ての学校を一斉に整備することは困難であるが、可能な限り早期に整備を終えられるようしっかりと取組を進めていきたい。
また、普通教室などへのエアコン整備が完了するまでの緊急措置として、今夏までに、全校の保健室への常設のエアコンを整備するほか、全ての普通教室および特別支援学習室に移動式エアコン等を導入し、熱中症対策での活用を図っていく。
ソフト面の対策では、教育委員会から通知等で大きな方向性を示しているものの、子どもや地域の実態を踏まえ、各学校において主体的に対策を講じていくことが重要と考えている。また、子どもが自ら体調管理等を行うことができるよう発達の段階に応じて計画的に指導することも大切である。
各学校においては、自校での昨夏の経験を生かし、通気性の良い服装や適切な水分補給、冷却用具の使用等について柔軟に対応していくことになるが、今のうちから学校安全計画や危機管理マニュアル等の見直しを図ることで、見通しを持ちながら組織的に対応できるよう、暑さ対策に万全を期す体制を整えているところと認識している。
なお、校長会の意向もあり、小学校の夏休み期間を25日間から中学校と同じ30日間に延長することとしたが、エアコン整備が完了するまでの間に、長期休業の時期や期間について、子どもの学びを保障する観点なども踏まえ、年間を通した見直しを図る必要があると考えており、学校や子ども、市民の声も受け止めながら検討していく。
―新年を迎え、学校や関係機関、保護者、子どもたちに向けたメッセージ 昨年は、将棋の藤井聡太さんの史上初となる八冠達成や車いすテニスの小田凱人選手の史上最年少となる2大大会連続優勝を果たすなど若い世代の輝かしい活躍が数多くあった。両者ともに目標を掲げ、さらなる挑戦を続けている。
新年を迎えるに当たって、子どもたちには、感じたこと、考えたこと、学んだことを大切にし、ぜひとも自分なりの目標や夢についてあらためて考えてもらいたいと思う。そして、目標や夢に向かって、臆せず挑戦し、取り組んでいく力を付けていってほしい。
保護者の皆さまには、日ごろから学校運営を支えていただいていることに感謝を申し上げるともに、子どもたちの日々の成長を温かく見守り、「自分が大切にされている」と実感できるよう寄り添っていただけたらと思う。
学校をはじめとする地域や関係機関の皆さまには、子どもたちが自らの目標を持ち、元気で健やかに、たくましく成長できるよう引き続き支えていただきたい。
最後に、札幌の全ての学校・園が、たくさんの子どもたちの笑顔であふれ、子どもたちが伸び伸びと成長できるよう、皆さまと共に頑張っていきたいと思っているので、変わらぬご理解とご協力をお願い申し上げたい。
(札幌市 2024-01-01付)
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