全国知事会 学力調査アンケート 公表の在り方で賛否 都道府県別5割、全国のみ3割(国 2024-11-26付)
全国知事会は全国学力・学習状況調査の調査結果をまとめ、25日の全国知事会議で報告した。調査の活用状況や学習指導における有効性に関しては全ての都道府県が肯定的に回答。一方、公表方法の在り方に関しては、現行どおりの「都道府県・指定都市別の公表」の53%に対し「全国の状況のみ公表すべき」が30%と賛否が分かれた。
アンケートは8月の全国知事会議で公表方法等の見直しを求める声があったことを受け、47都道府県を対象に初めて実施したもの。調査の実施時期はことし9月。
「学力調査の目的は果たされているか」「学習指導の充実や学習状況の改善に役立てているか」との質問ではいずれも肯定的回答が100%となり、児童生徒の学習指導上の課題の明確化や対策を講じる基礎データなどで活用されている。調査結果で重視するデータは「各教科の平均正答率」「授業改善の取組」「挑戦心、達成感、規範意識、自己有用感、幸福感等」などが9割以上。
調査の必要性に関しては「必要」77%、「どちらかといえば必要」11%と必要論が9割近くを占めた。
7年度は中学校の理科で実施予定のCBT(コンピューター使用型)化に関しては「良い」が81%、「どちらでもない」が19%。学校の負担軽減や調査結果の把握・分析に期待する声や、通信環境や操作スキルの差による影響の懸念も指摘された。
調査の実施頻度は現行の「毎年実施」が74%、「3年に1度実施」が11%。このほか「教科は3年に1度、質問紙調査は毎年実施」「理科・英語は毎年実施」「教育施策の立案・評価には数年に1度実施すれば良い」などの意見もあった。
序列化等の風潮 単純比較に懸念
公表方法に関しては、現行の「都道府県・指定都市別の調査結果を公表」が53%、「全国の状況のみ公表」が30%、「CBTの実施状況を見て判断」が4%、「都道府県・市町村別に公表」が2%、「その他」が11%。都道府県の序列化や児童生徒を学力のみで図る風潮の助長、都市部と地方の教育資源の格差や家庭環境といったスタートラインを無視した単純比較などを懸念する声がある。
CBTの導入に伴い調査結果の早期提供を求める声も。夏季休業中に生徒が取り組むことができるほか、夏季休業中の校内研修などで授業改善の視点が協議できるなど一層効果的な活用を図るよう求めた。
学力調査の在り方については慎重に議論を進める必要性も指摘され、市町村教委からの意見聴取やアンケートの再実施を求める声があった。
全国知事会アンケートの意見
全国知事会がまとめた学力調査に係るアンケート結果における意見の概要はつぎのとおり。
▼CBTの導入
CBT化は「学校の負担軽減や、調査結果の把握・分析等に効果がある」「解答時間や解答過程等も記録に残し、ビッグデータとして詳細な分析ができる」「調査結果の公表と児童生徒への個人票の配布が迅速になると期待される」「IRTの活用によって、異なる問題に解答した異なる集団の結果を比較・分析でき、授業改善を一層進めることができる」などと多くの期待が寄せられる一方で、つぎのような意見があった。
▽IRTによる調査は経年での比較は有効であるが、調査問題が基本的に非公開となることが予想され、具体的な授業改善案を提示できるか課題である
▽通信環境や操作スキルの差が回答状況(正答率)に影響しないように配慮が必要である
▽CBT方式に慣れているか否かで調査結果に差が生じることが想定されるため慎重に進める必要がある
▽解答までのプロセスとして、問題文にラインを引く、メモや図表を書く、計算をするなど児童生徒が問題を考える際に必要な書き込みが可能か
▼調査内容
▽これからの社会に求められる資質・能力の育成を図るためには、単に知識を問うだけではなく、国際学力調査(PISA調査等)で出題されているような教科等横断的な出題形式等の問題が望ましい
▽現在の設計では、相対的な形でしか学力レベルを確かめることができないため、児童生徒一人ひとりが自身の学力レベルを確かめ、課題を見いだすことができる調査設計となるよう、改善を進めていただきたい
▽学力調査に必要な視点は、子ども一人ひとりを見て伸ばすということ。そのためには個々の子どものデータを経年で見る必要がある。全国学力テストは、小学6年と中学3年の単発の結果しか分からないため、それを補う形で独自に小学5・6年、中学全学年でテストを行い、全国学力テストを含めた全ての結果を経年でつなぎ、一人ひとりの伸びや課題を明確にし、各学校での取組につなげている。国の調査においてもそのような視点をぜひ取り入れてほしい
▽調査問題の分量や紙面の構成が児童生徒の発達段階に応じたものになっているか、また、正答率や無回答率等と照らし合わせた際に、児童生徒の資質・能力を測る上で適切な問題となっているのかという視点から、調査問題の改善に向けた検討を進めていただきたい
▼調査結果の公表
▽いわゆるPISAショックから立ち直っている原動力となったのが、全国学力・学習状況調査だと考える。その点から、悉皆で行うことおよび国民の関心を喚起する視点から結果を公表することは重要であると考える
▽調査結果公表の際、公表は都道府県間の結果を単純に比較するものではなく、授業改善に生かすものであるという調査の目的・趣旨がしっかり伝わるような公表の在り方を求める
▽都市部と地方の教育資源の格差や家庭環境といったスタートラインを無視した単純比較がなされることで誤った認識を招きかねないため、原則非公表とすべきである
▽都道府県の調査結果の公表は反響が大きく、全国との平均正答率との差や順位のみが独り歩きしており、教育現場の混乱を助長しかねない状況である
▽公表に関しては、現在の調査結果の公表の在り方が、結果的に過度な競争や教職員の負担につながっていることは否定できないことから、見直すことも必要と考える
▽当該学年度の児童生徒の具体的な問題に対する解答状況の把握はできるものの、問題数が少なく、教育課程の全体をカバーできていないことから、学力の一部の調査であることは明言されている。しかしながら、どうしても平均正答率に目がいってしまい、本来その数字がどれくらいのものを意味しているのかが示されないまま報道、議論されることは遺憾である
▼調査結果の提供時期
▽調査結果から結果通知まで3ヵ月以上かかっているため、結果通知は7月下旬となり、生徒は既に夏休みに入ってしまっている。生徒の振り返り効果を高めるため、結果通知時期を早めてほしい
▽調査結果が効果的に活用され、調査目的を達成するためには、各県・市町村・学校へのフィードバックが6月中旬に行われるようになると良い
▽CBTになると、調査結果の公表と児童生徒への個人票の配布が迅速になると期待している。夏季休業期間前に個人票が届いて自分の課題が把握できれば、フォローアップ問題や復習問題に夏季休業中に取り組むことができる。教師の側からも、夏季休業中の校内研修などで分析結果を共有したり、授業改善の視点等を協議したりできるなど、より一層効果的な活用を図ることができる
▼本アンケートに対する意見
▽教育委員会の独立性を踏まえると、本調査についての議論は、慎重に行っていく必要がある。児童生徒や教職員から意見を聞くことが重要であり、こうした意見を聞いた上で議論する必要がある。国際的な潮流や他諸国の学力調査などの状況も参考に議論する必要がある
▽CBT・IRTの導入に際してどの程度の問題が公表されるのか、また、全員が同じ問題を解答していない中、各校や各クラスの子どもたちが解答した各問題に対する解答類型などがどのように示されるのかなど未確定の部分が多く、CBTの実施状況や提供データを見て判断する必要があると考えている
▽現場における実態の把握と目的の理解の徹底のために、市町村教育委員会の意見もしっかり聞きながら検討を進めるべきではないか
▽普段の考査において様々な学力を評価するデータが豊富に存在するにもかかわらず、あらためて国民の税金を使用してさらに考査を行うことが適切かについては慎重に検討すべきであり、DXが進む中、豊富なデータをいかに学力調査に反映させるか、そのために必要であれば平常の考査の在り方を検討し、その上で全国学力調査の必要性の有無について問題提起するなど抜本的見直しを提言すべきであると考える。先日の知事会での問題提起に対して応えるならば、全国学力調査が今の時代の要請に応えているかを包括的に問い、知事会としての考えを取りまとめるべきであり、本アンケートの設問でカバーしきれていないと考える。全国学力調査の在り方を問えるようなアンケートの再実施を強く求めたい
(国 2024-11-26付)
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