道教委 部活動地域移行フォーラム 課題解決のヒント示す 持続可能なスポーツ環境へ(道・道教委 2024-12-25付)
井内聖氏
道教委の部活動の地域移行フォーラム(16日、札幌市内かでる2・7、18日付1面既報)で行われたパネルディスカッションでは「子どもたちの持続可能なスポーツ環境の再構築に向けて」をテーマに有識者が意見を交換。改革の目的や課題解決のヒントを示した。
パネルディスカッションの内容はつぎのとおり。
▼パネリスト
▽安平町教委・井内聖教育長
▽スポーツデータバンク㈱・石塚大輔代表取締役
▽道教育大学岩見沢校・山本理人キャンパス長
▽スポーツ庁・竹河信裕地域スポーツ課課長補佐
▼モデレーター
▽道教委・伊藤伸一学校教育局長
【部活動の地域移行の目的】
●伊藤 部活動の地域移行の目的について、アンケートで一番多かったのは「子どもたちのスポーツ・文化環境の再構築」が58%、「教員の働き方改革」が21%、「部活動を地域に委ねる」が17%。ここから深めていきたいと思います。井内教育長は地元で既に取組を始めていますが、あらためてどう感じられますか。
●井内 まず、都市部と地方では地域移行・地域展開と大きく状況が違うため、一くくりで言えないことはあると思います。安平町は少し特殊なケースで、平成30年の北海道胆振東部地震がきっかけになっています。子どもたちが使っていたサッカー場がドクターヘリの発着場に、体育館が避難所に、学校のグラウンドは自衛隊の車両基地みたいになっているわけです。これがしばらく続くとスポーツどころではないんです。このままだと本当にスポーツができなくなるんじゃないか、という危機感が少年団の指導者にあり、一つにまとまってNPOをつくったということがありました。災害が起きてしまうと目の前で突然、遮断機のようにシャットアウトされてしまう。そうなった時、子どもたちのスポーツ環境をどうやったら守れるかということは目の前の課題にあり、それがベースとなりました。
その後、部活動の地域移行というつぎの課題が出てました。体育協会の事務局が高齢化して大人のやる人がいない。子どもは子どもの人数が少なくてやる人がいない。両方ともやる人いないから機会がなくなるんです。場所があっても人がやる機会がなくなってしまうからこれはまずいと。やる場所があるならできる人がいるうちにやる機会を支援しましょう、子どもだけではなく大人全員のスポーツや文化の機会を確保しましょうと考えた時、ネックになったのが部活だったんです。安平町としては、幼少期から大人まで、子どものためだけではなく、大人までのスポーツ・文化環境をつくりたい。だから、中学生世代だけ学校の部活ではなく、こちら側で一緒にやってもらえないだろうか、ということが根本の考えとしてありました。
●石塚 部活動の目的で先ほど(子どもたちのスポーツ・文化環境の再構築が)58%とありましたが、多分数年前の同じアンケートではもっと低いかと思います。逆に働き方改革が先行してきたことがあったと思うんです。いろいろな実証事業、アンケート調査や実態調査によって、子どもたちの環境と人口減少の結果その先どうなるのかということと、子どもたちのニーズ調査も大きかったと思います。
今度の人口減少全体を見ると、まさしく大人も減っていきます。地域のスポーツ施設の最適化ということを考えると、行政施設だけが地域のスポーツをやる環境なのか。学校にも素晴らしい体育館、グラウンド、教室があることを考えた時、人口推移の在り方、子どもたちのスポーツのニーズに対する捉え方、文化・環境に対する捉え方も含め、あらためて「リブランディング」「リニューアル」していくところがやはり目的の一つでもあるんじゃないかなと思います。
部活を誰がやるか、誰が教えるか、どこでやるかということもそうですが、より良い方向に向かっていくために何をバージョンアップしなくてはならないのか。教える人、環境、場所、種目といったところをバージョンアップしていく考え方が大事な観点と思っています。
どのように実施主体とパートナーを組むか、先生方の負担を減らすか、誰を見るか。スポーツ庁の言う「地域の実情に合わせて」とは、まさしくそういうところだと思っています。課題や現在の状況を目的を考える一歩目として考えてみることが必要だと思います。
特に、少子化が進む同じ市でも人口が減っている地域と人が集まってくる市街地がある。同じ市町村の中で括ってしまうと見えないところもあるので、実態調査も含めて細分化する、5年後、10年後の人口推移を見ていくことが必要と感じています。
●竹河 恐らく十数年前から“同じスポーツをやるのであれば一つのクラブで多世代でやった方が良い”という議論があったと思います。教員だけでなく、社会全体で働き方改革をしなくてはならないという状況が生まれました。皆さんの諸先輩は土曜日に学校に行っていた方が多くいらっしゃると思いますが、今の若い世代、20代の先生方は週休2日が普通に育ってきた世代になり、社会環境が大きく変わっていると思います。その二つの要因があり、今回の改革が動いてきたことが事実だと思います。その上で、究極的な目的と目標が何なのかという議論だと思っています。
地域移行するということが目的ではなく、大人も子どもも幸せな社会を創ってていくためにどうしていくか、子どもたちが一つのクラブで多世代で楽しめる環境をつくっていくということは、一つの目標だと思います。文部科学省初等中等教育局の観点からは教員の働き方改革を進め、教育の質の向上を果たしていく。それは先生のためでももちろんありますが、教育の質を上げて日本社会全体を良くしていく、子どもたちに良い教育環境を残していくということは一つの目標で、最終的な目的はきっと、スポーツ・教育も一緒だと思っています。
●山本 これはスポーツ庁の見解ですが、「生徒のみならず地域住民にとっても良いスポーツ、文化芸術の環境整備」、さらに進めるとまちづくりと。最近はやりの言葉で言うと、地域に住む人たちの「ウェルビーイング」、幸福です。そういうものをどう満たしていくのかが究極のゴールです。一つ一つそれぞれの地域の特性を踏まえ、課題を解決し、最終的にどこに向うかと言われたら、やはりこういうところに向かわないといけない。
例えば「中学生の土日の外部指導者をどうやってかき集めるか」みたいな議論をしても、こういうところには到達し得ないだろうと思います。これからいろいろなハードルの高さはあるにしても、それぞれに知恵を絞っていくプロセスの中、最終的にどこを見ているかということになれば「地域住民にとって、地域住民一人ひとりが豊かで、芸術スポーツに触れる機会も多くて幸福だと思える」、そういうまちづくりをしていくことが目的かと思います。
アドバイザーとして地域を回ると矮小化された議論もあります。「学校か地域か」という2者対立とか。そうではなく、学校関係者、地域住民全員です。そもそも、学校を地域と対立させることはおかしい。学校は地域そのものではないですか。コミュニティ・スクールと言われていますがそもそも対立構造をつくるものではない。「学校がやるのか、地域がやるのか」「今、学校に存在しているものをそのまま同じ形で地域がやらなくてはいけないのか」。そうではなく、目的に向かって今ある資源をどうやって再構築していくのか。学校の施設も使わなくてはいけないでしょう。先生の有能な能力も活用しなくてはいけないでしょう。そういうものも全部含め、いま一度地域全体で、学校も含めた新たな芸術スポーツの環境をどうやってつくっていくか、そういう議論をすることが本質です。地域移行を目的化してはいけませんし、そういうところに矮小化しないで議論を進めていくことがとても重要と思います。
◆地域特性 客観データで分析
【部活動改革の課題①現状分析と保護者説明】
●伊藤 石塚さんは北は北海道、南は沖縄でアドバイスしていますが、どのような声を聞いておられますか。
●石塚 私は今、北海道、山形県、福島県、沖縄県それぞれの都道府県レベルでの地域移行アドバイザーや総括コーディネーターを務めさせていただいています。(スライドを見せて)これは地域移行のステップを三つに分けました。先生、保護者、生徒のニーズ調査をするんですが、地域の中でスポーツの指導をできる団体、NPO、総合型もしくは民間も含めてあるかということは調査して確認しなくてはいけない。
都市部は特にそうですが、地域環境の調査は意外とできていないと思うんです。この先5年、10年で人口推移がどうなってるかを見据えてエリアを区分しなくてはならない。特に僕が関わった沖縄県は、子どもの数が増えている本当に全国でまれな地域なんですけど、市街地に人が集まっているところがあります。一番最初の実態調査を行った上で、ステップ2の「実証」になっていくと思うんです。
受け皿となる団体の体制を整備する中、鍵の管理や施設の調整、あとは運営管理。例えば毎日の活動日の日報・月報の報告などそういったものをどうシステム化していくか。地域クラブとしての機能として、もしくはこれから立ち上げる部分でコストになってしまう部分もあると思います。
保護者への説明会はいろいろ工夫し、様々な手法を使いました。対面、ハイブリッド、動画にまとめて見ていただくこともやりました。地域移行の目的、部活動との違い、保険や制度を理解していただくためです。いろいろなトライ&エラーを重ねていくことが一つと思っています。
将来的に、地域のスポーツ・文化芸術環境の再整備、まちづくりという観点では施設や財源の管理体制は重要な要素になってくると思います。時にはアンケートのフォーマットみたいなものを共有したり、横連携できるところはうまく活用する。スポーツ庁で多くの実証事業をやっているので、まねするところを真似すればコストがかからず、楽できるのではないかと思います。
素晴らしい指導者の方がいたとしても、その方が何十人、何百人いないとその地域は成り立たないと思います。どのようにそういった環境を横展開するか。指導者の研修制度、管理ツールをどうするか。いろいろな管理の手法がなければ事務作業にスタッフが追われ、それが障壁となって展開の数が増やせないこともあるのではと感じます。
●山本 道内各地に行って思うことは、やはり地域の特性によって全然状況が違うことです。それぞれストロングポイントもあればウイークポイントもあるわけですが、それらを洗い出していくことがとても重要です。どこかでうまくいったからを単純に右から左に乗っていくような発想ではうまくいかないのではないかと。
最初に石塚さんが仰ったように、客観的に分析できるデータをしっかり集めた上で、それを地域で分析する。もちろん、成功事例を参照することは構わないと思いますし、時間を短縮する一つの手だてかもしれません。けれども、われわれの地域でどのような環境を望んでいるか。ステップはスモールで良いと思うんです。できるところからやっていかないと、いきなりまちづくりだ、ウェルビーイングだと抽象度が高いことをやっても仕方ないので。小学生、中学生はどんな希望やニーズがあるのか。それに対してどういう環境があるのか。どこから手を付けられるのか。しっかりと客観的なデータをもとに分析し、全ての地域の人たちが知恵を出し合って進めていくことが重要です。
やはり、地域特性をしっかりと把握して前に進むことが何より大切と思います。そのプロセスで地域のステークホルダーの人たちが情報共有を常にするような仕掛けをつくる必要があると思います。
◆見る、する、支える文化に
【部活動改革の課題②人材確保】
●竹河 私はスポーツが好きでソフトテニスをやっていたんですが、いきなり中学生にスポーツを教えろと言われるとちょっと無理かなと思ってしまいます。でも「最初に何人かでやるからサポートして」あるいは「スポーツ苦手だったら見守りをして」と巻き込んでいる自治体があります。とてもすてきだなと思うのが、キーパーソンの方。その方は退職された校長先生で昔から地域でスポーツをやられていた方なんですが、地域の方々に声かけをしています。いきなり「指導者になってくれ」とは言わない。でも「一緒にいて」「まずは見守って」、あるいは「サポートしてほしい」と言う。子どもたちが楽しいと大人も楽しくて、県の研修を受けたり指導者資格を取ったりして、指導者として育っていくという状況が生まれてるところがいくつか出てきています。
いろいろな都道府県で指導者バンクを設けていますが、なかなか人が集まらないと言ってます。一方、サポーターバンクにすると結構いろいろな方が手伝ってくれると聞いています。ですので、実施主体がない場合、1人スポーツが好きで手伝ってくださる方を見つけてその方にやる気になっていただく、その方が育っていく仕組みがつくれると、きっとこの問題は解決するのかなという風に思っています。
スポーツ庁はことし、いろいろな現地を伺ったりオンラインでヒアリングをしたりして事例を収集してます。来年ぐらいにはガイドブックという形で整理し、これから地域クラブ活動への移行に取り組む自治体の方々のヒントにしていただけるものを作っていきたいと思っています。
●伊藤 北海道にもサポーターバンクがあります。9月末現在の登録者数は695名です。管内別の登録数をみるとやはり石狩管内が一番多くて230人ほど。つぎに多いのが空知管内と管内・地域によって差があるのが現状です。
種目別で一番大きいのは吹奏楽、100人ほど登録されています。野球がつぎに多くて80人、サッカーやバスケットボールも60人です。やはり経験されたことがある部活は非常に多いかなと思いますが、人数が多い部活だけでなく、60種目くらいでいろいろな方が登録されている。
指導者、サポーターという言葉を使っていますが、どうしても指導者のイメージが強い。自分たちが部活動をやっていた時のイメージで「私が憧れた先生のような指導者、これは無理だな」と思われてしまうと、なかなか登録者が増えないじゃないかと思います。
●石塚 沖縄は41市町村あるんですが離島が多いんです。子どもの数が数十人というところがあります。地域移行、地域展開という言葉の前に、まさしくスポーツを多世代でやっている環境がある。教える、教わるでなく、体育館で大人も含めて一緒にスポーツをしている世界観があったんです。
確かに人材バンク・サポーターの方も大事ですが、クオリティーが高い指導を求めている生徒だけじゃない。やはり「ニーズの多様化」がテーマだと思います。そういうところにも着目し、サポートしてくれる人たちの役割や要件をもっと明確にした方が良いと思います。「サポートしてください」ではなく「こういうことをやっていただけると助かります」というような要件の設定です。スポーツ庁も今後、クラブの認定の要件の整理などをワーキンググループで議論しますが、指導者の方への要件やレベル、そういったサポートをしていただける方法もあるのかなと思います。
●井内 人口7000人ぐらいの町でいろいろな種目の指導者を用意するとなると、高齢化して段々厳しいということになります。いきなり指導者が無理だとしたら「する人」を増やすしかないと思うんです。ちょっとスポーツと関わっているから「教える」、もしくは一緒に子どもとスポーツを「する」。「する」こともハードルが高いとすれば、その前は「見る」じゃないかと。
安平町では多様な関わり方ということで「見る文化」の醸成に取り組んでいます。スポーツと関わるということは大人が教えるだけじゃない、大人も遊ぼう、大人も見ようと。例えば、安平の中学生の野球チームと役場の野球チームが試合すると言ったら、おばあちゃんにしてみたら息子と孫が試合するわけです。これ、絶対見たくなるわけですよ。このようにスポーツでコミュニティーが生まれていく可能性は部活動ではなかったわけです。この取組をしていくと、スポーツの可能性が広がるんです。最初は「見る」かもしれないけど、それから「する」になって、そのうち「支える」。「教える」まではいかないかもしれないけども、ちょっと送迎の時のサポートだったらできるよとか、グラウンド整備くらいならできるよ、とか。
ことしはパリオリンピックもあったので、パブリックビューイングというものをやりました。今まで参加しなかった大人やスポーツが好きな人が来てくれました。今までの部活動だと大人は「教える」、子どもは「教わる」、この視点しかないんです。だけどスポーツにはもっと可能性がある。それを広げるとなると、ちょっとわくわくしませんか。
●山本 スポーツ産業の多様化と言いますが、「する」「見る」「支える」、今は自分たちに合ったスポーツを「つくる」があります。近代スポーツ以降、サッカーは11人で何をやるなどルールは確定してますけれども、今はゆるスポーツと言われているように「自分たちに合ったスポーツをつくろう」というところまで来ています。
そういう意味では、井内さんが仰ったように、スポーツの可能性が今までと違うということです。指導者というとコーチや監督をイメージするかもしれませんが、そういう専門性の高いコーチ・監督ではなく「スポーツを主体的にやっているところを支援する」という人材がむしろ必要なのかなと。
部活動の歴史を見ても、そもそもクラブというのは教育課程、いわゆる授業であったわけですよね。その時はコーチや監督ではなく「顧問」です。最近の学習指導要領というと、自主的・自発的な活動を学校教育の枠組みの中で、ある意味サポートする役割として顧問という枠組だったわけです。それが時代とともにどんどん過熱化していく。最終的にはクラブがなくなり、部活だけになっていったのが日本の歴史です。
その中で、やはりコーチや監督というものを任されるということになれば、それは教員の負担ですよ。やったことがない種目をコーチ・監督レベルで全国大会を目指し、まずは道の予選を勝ち抜かなきゃいけない。それも指導してくれと言われたら。スポーツを一切やったことがなくてもいきなりサッカー部を持つ、なんてことが日常なわけです。
地域にスポーツ活動をする人がいて、支援する人の中でもトップアスリートを目指すための専門性の高いコーチも必要でしょう。でも、日常の活動を一緒にやってくれたり、そういうところの管理・運営をやってくれるっていう人だけでもスポーツ活動においてすごく重要です。一つの凝り固まった「指導者=コーチ監督」ではなく、地域のスポーツを支える全体の関わる人材を多様に見極め、育成していくことが重要な視点と思います。
◆多様な財源 支える仕組みを
【部活動改革の課題③資金】
●伊藤 事前の質問では地域クラブを運営する資金の話を多くいただきました。具体的な額を教えてほしい、という話もありました。資金や経費の話は避けて通れないと思います。受益者負担や公益負担のバランスなどの議論の中、事例があれば教えてください。
●竹河 全国の少し早めに取り組んだ地域では、受益者負担をどうすべきかという議論が進んでいます。地域の事情に応じて様々ですけれども、やはり月2000~3000円であれば保護者に理解いただいて負担いただけるのではないかと。もちろん全て公費で持つべきじゃないかという議論もあります。
一方、好きな子どもたちがスポーツ・文化芸術に親しむということで参加されないご家庭もあり、全て公費負担というのは少しバランスが悪いのではないか、という議論もされています。その中でも、一定程度は受益者として負担をしていただき、それだけで運営することは難しいところがあるので公的な負担を入れていくべきではないか、という議論が進んでいる状況があります。この議論と分けて考えなくてはいけないことは、就学援助を受けている家庭の子どもの参加費用負担で、これについては公的な資金で賄っていくべきという議論が進んでいます。
●井内 民間企業と組むということも一つだと思います。安平町では大塚製薬さんと組ませていただき、学校に自動販売機を置いてます。早来学園の体育館は地域と一緒に使っています。あくまでも体育館の前に置かせてもらい、その売り上げの一部がスポーツ団体に流れる。受益者負担と公費がありますが、それ以外に民間企業もあるのではないかと。
プロ野球選手の年俸はどこから出てるかというと「見る人」が払っています。だとしたらもっと地域で行うスポーツを見る人が、「ああ、うちの息子と孫の試合を見させてもらって幸せだった」と言ってドネーション、寄付するような、地域の中で循環する仕組みも考えていきたいなと思っています。
●石塚 いくつかある事例ですが、一つは企業版ふるさと納税。これは企業が寄付してくださるという条件が様々あります。寄付していただくと最大9割の控除等が受けるってのがまずポイントかなと思います。沖縄県のうるま市で令和3年度からやっていますが、3年度は大体1500万円ぐらい企業版からの寄付で事業費が補填されました。
逆に企業版ふるさと納税をやったとしても、積極的にPRをしていかないとなかなか寄付に至らないというケースもあると思います。今後市町村が費用負担の可能性が高まってきた時、こういう新しい制度を使って外からお金が引っ張り、実質的な市町村の持ち出しが少なくなる体制をつくっていかなければいけないんじゃないかと感じています。
これはいろいろな手法があると思います。ガバメントクラウドファンディング、例えば個人のふるさと納税とかを仕かけていくこともありではないかと思います。昨日まさしく安平町で、日本ハムファイターズと連携してスポーツフェスが開催されました。いろいろな方に支援されてチャリティーイベントをやる。一部、募金や収益があった時に地域クラブに還元する。まさしく地域の中で財源の好循環を得られるところがある。こういう取組がいろいろな地域の中で一つのチャレンジとして起こっていくと良いのではないかと思います。
●山本 いろいろな選択肢があり、それを複合的に活用していくことが最も重要なポイントかなと思います。ドイツでは企業スポンサーが付きます。例えばTシャツにビールの醸造会社をプリントするとか、大人もいるクラブだと酒造メーカーが物納したりとか。お金ではないけれども人手を貸したり、移動手段を提供したりという形で、補い合うよう、そんな仕組みがあります。
単純にお金を増やす。それはそれはもちろん大前提ですけれども、一方で地域の人たちが多様な形で支える仕組みをつくること。例えばサッカー場の芝刈りとか、それである種、お金に置き換えられる部分もあるのかなと。その地域の特性を踏まえてそんな形を複合的に見つけ、お金の問題に取り組むことが必要と思います。
◆「競争」から「共創」へ
【部活動の地域移行の思い】
●竹河 当初、スポーツ少年団は中学生がメインターゲットだったと伺いました。しかし全日中ができた経緯もあり、スポーツ少年団は小学生、部活動は中学生とすみ分けてきたというようなことを伺いました。「すみ分ける」を辞書で調べてみたら「競争を避けるためにすみ分ける」ということだそうです。
富山県朝日町というところで「ノッカル」という取組があり、地域住民の方がドライバーになって交通手段を支えています。同じ「きょうそう」でも「共創」という言葉があります。恐らくは今まで、地域スポーツと学校の部活動ですみ分けてきたのだと思います。今回の改革を機にして一つになり、地域全体で「共に創っていく」ことが一つのヒントになるかと思います。
●井内 実際に(部活動改革を)やってみて思うことは、仕組みなどに関して学校ができることはほとんどないということです。なので教育委員会がグイッと進めない限り、動かないと感じました。一方で、学校には学校の役割を棚卸しをしてほしいと思っています。部活動が担ってきた役割とは何か、今ある教育活動の中で学校は何をしなきゃいけないのか。「普段の授業の中でもっと子どもたちを理解していこう」「学級経営や学年経営の中できちんと生徒指導に関わることはやっていこう」「子どもたちの多様な体験の機会は教育活動の中にしっかりと位置付けてやっていこう」だとか、そういった学校経営が求められる。
仕組みなどはやはり教育委員会ですが、これをやる時のネックは今の社会だと思っています。「伝えやすいけど伝わりにくい」。誰でも発信できて伝えやすいのですが、みんなフィルターバブルの中にいるので伝わらない。自分の価値観の殻、SNSの情報の中にあるから伝わりにくい社会なんです。ファーストペンギンと言われることが多い安平町ですが、やっていて感じることでした。それぞれ教育委員会の役割、学校の役割があると思いますので、そこを手を握りながら進めていただければなと思います。
●石塚 地域移行は様々な課題・アプローチが必要と思いますが、いろいろな地域で取り組む人たちとの意見交換も必要です。道教委がこのようにフォーラムを主催し、350人もの人たちが興味・関心を持つ。それだけ課題として大きなものがあると思います。きょうのお話で「そういうことか」と分かっても、それを一人でやることは厳しいと思います。庁舎内の連携も必要な要件と思っています。
われわれは民間企業で、約40くらいの自治体と制度設計や伴走支援の支援をさせていただいてますけれども、様々なサービスを持つ企業がいっぱいあります。例えば「スマートロックで鍵の問題を解決しよう」「防犯カメラやAIカメラで防犯のセキュリティーを上げよう」「制度管理をもっと簡単なものにしていこう」とか、いろいろな手法があります。民間の持っているサービスもうまく使い、バランスよく組み合わせていければ最適化できると思います。
担当者1人、教育委員会の担当課だけで悩んでいくとやはり行き詰まってしまう。壁はもちろん乗り越えることが大事ですが、いったん壁を横からすり抜けて、その先に行ってみるっていうことも必要ではないかと思います。いろいろなアイデアがあると思いますので、機会があれば意見交換やディスカッションができたら、さらに地域展開が広がっていくんじゃないかなと思っています。
●山本 やはり、小さいステップを積み上げて最終的に目指す姿に到達する、そういう筋道を立てていただけたら良いかなと思います。最初から大きくジャンプアップするのではなく、最終的な目的があってそこからバックキャスティングする目線で日常的に知恵を絞ってもらえればと思います。
人口900人ぐらいのドイツの町に取材に行った時、当時のスポーツクラブの会長の方、80歳を過ぎてましたけど「生まれてからずっと僕はこのクラブでスポーツをやっていた」と仰ってました。会費は大体月3000円払い、子どもたちがサッカーするグラウンドで芝刈りをしている。子どもたちが「ありがとう」と言ってくれると。クラブって居場所なんですよね。そういう居場所があって感謝される。この地域に住んでいて、芝刈りをすることによって子どもたちが声をかけてくれる。芸術やスポーツに参画しながら、その地域で自分の居場所であったり、年齢が上がっても自分なりの役割を発揮できる。
そういうまちは、とても幸せなまちだと思います。目指すゴールをまちのどこに置くのかということはすごく重要で、目の前の課題「中学生の土日だけ外部指導者を集めた」みたいな形でやったとしても、幸せなまちにはならないんじゃないかなと思います。ぜひ、部活動改革と言われてるものを起点にしながら、良いまちづくりに向かっていただければと思います。
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石塚大輔氏
山本理人氏
竹河信裕氏
伊藤伸一氏
(道・道教委 2024-12-25付)
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