道教育大附属札幌中教育研究大会 「学びの主体者」である生徒を 皆川教諭が研究発表
(学校 2015-08-03付)

 道教育大学附属札幌中学校(佐藤昌彦校長)の教育研究大会(七月三十一日付8面既報)の全体会では、研究主任の皆川慎太郎教諭が研究発表した。概要はつぎのとおり。

▼求める生徒の姿

 まずは、求める生徒の姿、学びの主体者となる生徒について説明する。

 我々が追い求めるのは、他者とのかかわりを通して、「さらなる成長を目指し続ける行為」である「学び」。そして、「主体者」という言葉には、自他の成長のためにという目的意識を強くもち、他者とのかかわりを大切にし、そのかかわりを通して、自らの考えを広げたり、自らを客観的にとらえたりして、自己の成長に向けて歩み続ける生徒であってほしいという強い願いを込めている。

 「主体者」として我々が思い描いているのは、他者とともに生きる、開かれた世界の中で、目的や相手を意識して、他者とのかかわりを大切にしながら学ぶ姿である。

 以上のようなことから、「自らの思考・判断をもとに、自他に働きかける生徒」「他者とのかかわりを通して、自分自身を客観的にとらえ、自己の成長に向かうことができる生徒」を「学びの主体者」となる生徒の具体的な姿として設定した。

 二十一世紀は、知識基盤社会の時代と言われ、そこでは、知識をどれだけもっているかではなく、知識をいかに使えるか、どれくらい創造性豊かに考えを出し合い、次々と立ちはだかる新しい問題に協働的に対処できるかが重要となる。他者とともに、課題を追究し、新たな意味を創り出していくことが、今まで以上に求められている。

 中学校での学びにおいてのみ、「学びの主体者」となるのではなく、環境や社会情勢が変化しても、どのような相手、状況であっても、ともに生きるという意識を強くもち、生涯にわたって「学びの主体者」であり続ける生徒を育てていきたいと強く思っている。

▼研究主題と研究仮説

 研究仮説は、「生徒自らが問いを生み、問うことの価値を実感する学び合いによって、学びの主体者となる生徒を育成することができる」である。

 なお、このような授業を、「問いを活かす授業」と押さえている。

 まず、なぜ「問う」ということを重視しているのか説明する。他者に働きかける行為や他者とのかかわりを通して、自己を客観的にとらえること、つまり、「問う」ことが求める生徒の姿に必要なことだと考えた。

 「問う」については二年次に、「問い」を解決するために他者に働きかける行為と定義した。これによって、沈思黙考する姿や実験等に黙々と取り組む姿は、「問う」ではなく、「対象に働きかける行為」とし、「問う」と明確に区別することとした。

 自らの思考や判断は、「問う」ことによって開かれたものとなり、より確かに、より広く、より深いものへと変化していく。それは、自己の考えをより明確に、より客観的なものにするためには、他者の存在が欠かせないからである。

 「問う」ことによって、自分の考えの妥当性を確かめることができたり、自分の考えについてより客観的に見つめることができたりする。多様な価値観や考え方にふれることによって、ものの見方や考え方を広げることができる。そして、我々が「問う」行為の先に思い描いているのは、自分自身が成長したことを意識化し、自己の成長に向かって、自らを「問う」行為に、より強く促す姿である。

 「問い」について説明する。本校では、「問い」を、これまでの自分の認識や経験との違いから生じた疑問のうち、解決したいと強く思うものと定義している。

 「問い」は、学ぶ原動力となる。「〟問う”ことが必要だ」、「〟問う”ことをしたい」と強く思うためには、解決したいと強く思う原動力が必要となる。その原動力となるものとして、「問い」を位置付けている。

 例えば、理科の光の屈折に関する授業について。水の中で人形がどのように見えるかを観察する。意識を働かせて現象を見つめると、自分の認識や経験とのずれを感じ疑問をもつ。「水の中に人形を入れるとどうして大きく見えるのだろう」という疑問を解決したいと強く思ったとき、「問う」ことを強く求める「問い」が生まれる。

 また、「問い」は個人のものであり、「問い」を自ら生むことを重視することは、自ら思考・判断する力を高めることや、自ら思考・判断しようとする態度の育みに寄与する。

▼一・二年次研究の成果と課題

 二年次までの成果と課題について説明する。一年次は「問い」を「問う」につなぐ手立ての在り方を研究の重点とし、二年次は「『問う』ことの価値の実感をもたらす手立ての在り方」という重点のもと、研究を進めてきた。

 成果については、まず、生徒自らが「問い」を生むための手立てを考える際に、四つの視点が重要であるということを明らかにできたことである。また、「問う」ことの価値を実感している生徒の姿を設定した。

 「問う」ことの価値の実感は、生徒の内面世界で生じることであり、外からは見えない。しかし、「問う」ことの価値の実感を教師側がどうとらえるかを明確にしておくことが必要だと考えた。

 そこで、「問う」ことの価値の実感について、「求める生徒の姿」、研究仮説の「問い」と「問う」、本校で設定している「学び合いの成立に向かう生徒の姿」の関連性を総合的にとらえ直し、「問い」や学習課題を解決する過程を意識できることや、「問い」や学習課題を解決できたことによる自分自身の変容をとらえることができること、この二点が、「問う」ことの価値の実感において、特に重要な視点となると結論付けた。

 しかし、課題もあった。二年間の研究を振り返り、あらためて、「学びの主体者」となる生徒となり得ているのかという視点で、学校生活全般にわたる生徒の様子を見つめ直したとき、自己を客観的にとらえることに課題が残るということが浮かび上がった。そこから、「問う」ことで発見があった、「問い」が解決できたという感覚的、抽象的な「問う」ことの価値の実感を高めることはできているが、「問い」や学習課題の解決と強く結び付いた「問う」ことの価値に十分になり得てはいないのではないかと考えた。

 そこで、「問う」ことの価値を実感することに機能するような「問い」や「問う」の在り方、「問い」の解決と「問う」の結び付きに目を向けて、「問う」ことの価値を実感する手立てのさらなる充実を図ることが必要であると結論付けた。

 言い換えると、「問う」と「問い」が、生徒の中でより一層有機的につながるような授業の在り方に焦点を当てて、研究を進めることとした。

◆「問う」「問い」のつながり合い

▼最終年次研究の指針

 最終年次は、「問う」と「問い」の連関を強める授業展開の探究を指針として研究を進めることにした。

 「問う」と「問い」の連関を強めるについて説明する。

 我々は、「問い」を生かす授業によって、「学びの主体者」となる生徒を育成しようとしている。「問い」を生かす授業とは、「問う」ことで「問い」が生かされたり、「問う」ことの価値を実感する学び合いが「問う」行為や自ら「問い」を生むことを促進したりと、自ら「問い」を生むことと、「問う」ことの価値を実感する学び合いが有機的に関連する授業である。

 しかし、ここまで実践を積み重ねてきた結果、「問い」から「問う」、「問う」から「問い」といった一方向的、断続的なつながりに目を向けるだけでは、「問う」ことの価値の実感にはなかなか至らないことが明らかになってきた。

 したがって、「問う」と「問い」が往還する瞬間を大切にするなど、「問う」と「問い」が互いにつながり合うことを重視することが、「問い」を生かす授業の根幹をなすととらえ、「連関」「強める」という言葉を用いることにした。

 「授業展開」とは、一授業内の学習活動の展開だけではなく、授業と授業のつながり方や単元構成まで広げたものとして押さえている。自らが生んだ「問い」が、「問う」ことによってどれくらい解決に近づいているのか、つぎに何をすべきなのか、その「問い」を解決する過程において自分の考えがどう変容したのかなど、一授業内の短い単位において、「問う」と「問い」のつながりについて、生徒自身が目を向けることができるような授業展開を構想することが挙げられる。

 また、自らが生んだ「問い」を中心として、今学習していることに連続性、発展性がもたらされるといった授業と授業のつながりの面での学習内容の展開も考えられる。さらに、単元など大きな単位における全体構成上の体系的なつながりを、生徒自身が意識することができるような展開が挙げられる。

 いずれにしても、「問う」活動を含む今の学習活動が、自らが生んだ「問い」を解決するに当たって、どのような位置付けにあるのか、これから何をすべきなのか、ここまで学習してきたことがつぎの何とつながるのかなど、過去と現在、現在と未来をつなぐことができるよう意識し、授業を構想することを重視した。

 研究実践内容について説明する。

 二年次に引き続き、生徒自らが「問い」を生む手立てと、「問う」ことの価値の実感をもたらす手立ての在り方について考えてきた。

 生徒自らが「問い」を生む手立てについては、「問う」と「問い」の連関を強めるという視点に立って、「問う」ことの価値を実感することにつながる「問い」をどのように生むか、生徒自らが生んだ「問い」を、「問う」ことの価値を実感することにつながる「問い」へとどう生かしていくか、などといったことを視点に、手立てについて見つめ直してきた。

 「問う」ことの価値の実感をもたらす手立てについては、「問う」と「問い」の連関を強めるために手立てを講じる視点として、過去を振り返る視点で「問う」たことと、「問い」が解決されたこととのつながりについて意識できるようにすること、未来を展望する視点で「問う」ことによって「問い」が解決されたことと、つぎの学びや未来の自分とのつながりについて意識できるようにすることの二つを設定した。

 過去を振り返る視点について説明する。他者とかかわることで、様々な視点から生徒は考えていく。しかし、ただ話し合っているだけでは、「問う」ことによって、何が明らかになったかを自覚することが難しい場合がある。

 例えば、生徒が分かったこと、解決できなかったことを出し合って板書を作成する。このように、視覚的に確認できる仕掛けを施すことなどで、「問う」ことが「問い」を解決するためにどのような位置付けに当たるのか自覚できたり、互いの考えを分類したり、構造的にとらえたりできるようになる。また、課題の焦点化が図られ、特に重要な情報は何かを明らかにできたりする。

 このように、過去の学びの歩みをしっかりとたどることができるような手立てを講じていく。

 未来を展望する視点について説明する。「問う」ことの価値の実感を強めることや、「自己の成長に向かうことができる」ようにするためには、学んだこととつぎの学びや未来の自分とのかかわりを理解することが必要である。

 体育科のダブルダッチの授業では、タイミングの取り方や縄の動きなど、基本的なことを学習したあと、仲間が挑戦していない理想の跳び方を考える場を設定した。これによって、「学んだことを生かして違う跳び方もできそうだ」「違う跳び方もできるようになりたい」などと強く思い、新たな跳び方について試行錯誤する生徒の姿がみられた。

 このように、学んだことを具体的にどう生かせそうか、生かすことができるかなど、未来を展望することで、「問う」ことの価値を強く実感でき、自己の成長に向かうことができると考えた。

▼おわりに

 以上、研究の概要について説明した。「問い」を生かす授業においても、「立ち戻り」の瞬間が重要だと考える。過去を振り返ることと未来を展望することが、それぞれ点として存在するのではなく、互いに行き来するなどつながりをもって展開することを大切にしている。それによって、「問う」と「問い」とが行き来し、「問う」と「問い」の連関が強くなり、自己の成長を実感できるとともに、さらなる自己の成長に向かって自らをつぎの「問う」行為に強く促す姿を期待している。

 ここまで説明してきたように、「問う」と「問い」の連関を強める授業展開の探究を指針として、「生徒自らが問いを生み、問うことの価値を実感する学び合い」を追究することによって、「学びの主体者となる生徒」の育成を図るべく、研究を進めている。

(学校 2015-08-03付)

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