心情に寄り添った対応 道いじめ調査委の提言概要(道・道教委 2015-12-22付)
北海道いじめ調査委員会(間宮正幸委員長)がまとめた「道立学校で発生したいじめによる重大事態にかかる再調査の必要性の有無について」(十八日付1面既報)のうち、今後のいじめ防止等に向けての提言概要はつぎのとおり。
学校および教育委員会は、道内の学校で発生した「いじめによる重大事態」を重く受け止め、二度と重大事態が発生することのないよう、「北海道いじめの防止等に関する条例」および「北海道いじめ防止基本方針」に定めている責務をあらためて認識するとともに、つぎに掲げる事項の重要性を十分理解して、いじめ問題への対応に取り組んでいただきたい。
▼重大事態発生時(初動)の対応
▽いじめを受けた児童生徒およびその保護者との信頼関係の構築
いじめによる重大事態が発生したあと、学校がいじめを受けた児童生徒およびその保護者に対応するに当たって、最も重要なことは両者の信頼関係である。
信頼関係構築のために、学校は、いじめを受けた児童生徒およびその保護者の想いや意向を十分に受け止めるプロセスを大切にして対応すべきである。学校や教育委員会が、定められた手続きを形式的に進めるだけでは、その心情に十分配慮したことにはならない。
学校関係者は、ともすれば批判に対する自己防衛や組織防衛、早期の事態鎮静化を望む意識にとらわれかねないが、いじめを受けた児童生徒およびその保護者の心情に寄り添いながら真摯に事態に向き合うことが最も基本の対応であり、最善の結果をもたらすことを理解すべきである。
また、いじめを受けた児童生徒およびその保護者が、事態発生当初、周囲との接触を拒んでいたとしても、当事者の心情や環境が時間とともに変化する場合もあることから、学校や教育委員会は、当事者の心情に寄り添い、継続的にコミュニケーションを図って、信頼関係構築に努めることが重要である。
事態発生後に教育委員会は、いじめを受けた児童生徒およびその保護者の心のケアを目的にスクールカウンセラーなどの専門家を派遣することが望ましい。しかし、これらの専門家が、当事者と信頼関係を築いたとしても、その関係に頼り、学校や教育委員会が行うべき事実関係等の確認などといった役割を担わせることは最小限にとどめるべきである。
▽いじめを行った児童生徒に対する指導とその保護者への対応
いじめを行った児童生徒に対する適切な指導は、いじめを行った児童生徒の成長発達の保障として学校教育の根幹にかかわるものであることから、機会を逃さずに行うべきである。
特に人の生死にかかわる「重大事態」にかかるいじめを行った児童生徒に対する指導は、今後の生活と成長に資するよう、特に機会を逃さずに行うべきである。「あなたが苦痛を感じることは、ほかの人も同じなのです。自分がされて嫌だと感じることは、絶対にしない、させない気持ちを強くもちましょう。また、いじめをはやし立てたり、見て見ぬふりをすることも、いじめることと同じように許されません(北海道いじめ防止基本方針リーフレット児童生徒・保護者用)」ということを、児童生徒がしっかり理解するように指導することが重要である。
これらの指導を実効性のあるものとするためには、学校はいじめを行った児童生徒の保護者にも子どもの成長を促す立場に立ってもらうよう働きかけ、学校と連携することの大切さを理解してもらうことが重要である。
いじめを行った児童生徒の保護者は学校から「自分の子どもが、ほかの子どもに重大な被害を負わせた」「自分の子どもがとった行動により、ほかの子どもに相当の期間学校を欠席することを余儀なくさせている」と説明を受けた場合、少なからず動揺し、自分の子どもを守りたい気持ちに駆られることは自然なことではある。
このため、学校はいじめを行った児童生徒の保護者の動揺や心情を時間をかけてきちんと受け止め、いじめを行った児童生徒の成長発達のため、保護者自身が子どもに向き合えるよう働きかける必要がある。
いじめを行った児童生徒がこの経験に自ら向き合い、その中で自分の行為の意味を見つめ直し、その反省から他者との関係の望ましい在り方を理解するためには、学校と保護者の協力関係が重要である。
また、全校児童生徒に対しては、生徒指導部や指導担当による全体講話、カウンセラーによる望ましい人間関係の構築に関する講演、外部講師によるラインやネット利用に関する講演などの一般論的な指導だけではなく、集団としていじめを許容してしまったクラスの在り方について見つめ直すことを促すことや、うわさや憶測によって誤認されている事実関係の修正などを行い、児童生徒の成長発達の機会となるような指導を行うべきである。
▼事実関係等調査時の対応
▽調査の趣旨とそのプロセスの十分な説明
教育委員会は、いじめを受けた児童生徒やその保護者に対しては、「北海道いじめ防止等に関する条例」に定義される「重大事態」に該当する場合に行われる調査の趣旨、調査を担う「北海道いじめ問題審議会」の役割、調査のプロセスなどを分かりやすく丁寧に説明し、理解を得た上で調査への協力を得ることが重要である。
▽心のケアを目的とする専門家の役割
いじめを受けた児童生徒およびその保護者の心のケアを目的に派遣されるスクールカウンセラーなどの専門家は、当事者の心情に寄り添い、信頼関係を構築する立場にあるが、教育委員会と当事者との橋渡しを担うものではない。教育委員会は、心のケアを行う専門家がその役割を十分に果たせるよう、本来の業務に集中できるような環境を整えるとともに、心のケアの継続性の確保に努めるべきである。
▽学校関係者への聞き取り
いじめ問題に関する重大事態においては、学校関係者の多くが、いじめが起こっていたという認識をもっていない場合がある。このような場合、学校関係者にいじめが起こっていたかどうかを、同じ学校の関係者が聞き取りをしても、いじめの認識について客観的にとらえる機会につながりにくい。
学校関係者は、学校外部の視点から学校の対応や組織の在り方を問いかけられることによって、重大事態発生に至るまでの出来事を客観的に見つめ直すことができることから、学校関係者への聞き取りは、第三者が行うべきである。
子とのかかわり持てる時間を
▼いじめ発生防止のために
まずは、学校のいじめの認識の不足、児童生徒の立場に立った理解の視点の欠如、教員間の意思疎通と情報共有の不十分さ、組織的対応の機能不全、といったこれまで他県等で出されてきた同様の事態にかかわる報告書の指摘について、学校現場では、研修などを通じて理解し、あらためて認識を高め、組織の在り方を自己点検すべきである。
また、二十五年六月のいじめ防止対策推進法案に対する参議院附帯決議においても、「いじめ防止等について児童生徒の主体的かつ積極的な参加が確保できるよう留意すること」とされており、学校においては「児童生徒が自主的に行う学級会や児童会・生徒会活動等において、児童生徒自らがいじめの防止に取り組む活動を推進する(北海道いじめ防止基本方針)」ことが重要である。
▽校内の体制づくり
いじめを防止するためには、「不適切な言動」を「早期発見」して「指導」するだけではなく、日常的に機会をとらえて子どもにかかわり、内省的に子どもの成長を促し支えることが重要である。
学校関係者は事なかれ主義的に萎縮することなく、「子どもとのかかわり」というアンテナを広げていく必要がある。個々の出来事を「いじめかどうか」という視点で判断する前に、児童生徒が発する言葉、態度、行動といった表現を、ことの大小にかかわらず、子どもの成長発達の課題として受け止め、「子どもとのかかわり」が必要かという視点で、適切に把握することが大切である。
また、その結果を複数の教員で共有し、ひとりで抱え込まない体制を作ることも求められる。そのためには、学校管理職や教育委員会は、教員個人に「子どもとのかかわり」の重要性を説くだけではなく、「子どもとのかかわり」の時間をもてるように学校内の体制づくりを具体的に行うべきであり、これらのことが「いじめの芽を早期に摘む」ことにつながる。
また、個々の教員は子どものサインと表現に気づくための力量を研鑚する場に参加することが必要であり、学校管理職や教育委員会は、そのような機会を適切に設けるべきである。
▽ひとつの出来事から全体を想像する
いじめは一つ一つの出来事がいくつも重なった結果、初めて理解できるということが往々にしてある。いわば、「点」が「線」になって初めて全体が見えてくるのである。
しかし、当事者にとっては「ひとつの出来事」そのものが苦痛に満ちた経験であり、どれをとっても軽んじて扱うべきものではない。学校関係者は、いじめを受けた児童生徒の痛みを十分理解する必要がある。
特に、最前線で児童生徒とかかわる教員は、ひとつの出来事である「点」を成長発達の課題として受け止め、子どもと向き合うことが何より重要である。
それと同時に、いじめの「ひとつの出来事」が重大な事態と見なされるものでなかったとしても、こうした出来事が重なっていく中で、最終的に重大事態につながる場合があり、学校関係者には常に「点」が「線」になっていく可能性を想像する力が求められている。
しかし、「点」から「線」になる可能性を想像することは容易ではない。だからこそ「点」が「線」になる可能性をこれまでのいじめに関する事例の研究を通して理解するとともに、その可能性を常に確認する仕組みを学校内に整えるべきであり、そのためには、具体的にその役割を担う部署を明確に定めるべきである。
併せて、個別の子どものケース記録等を蓄積するなど「点」が「線」になる可能性を客観的に把握できる情報管理の仕組みを構築することも必要である。
▽多様な視点で子どもに向き合う
教員は、一人ひとりの適応や発達の課題、そのサインと表現に気づき、その様子から様々な可能性を推測することが重要である。しかしながら、ひとりの視点では、気づきを得ることには限界がある。こうしたことから、児童生徒のサインと表現を複数の教員で共有し、成長発達に必要なかかわりを分担してもつべきである。
さらに、子どものサインと表現から、適切かつ多様な見立てを行うためには、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーといった教育とは別の観点をもつ専門家と情報を共有することが重要であり、そういう仕組みを学校内に備えることが必要である。
また、各学校で制定している「学校いじめ防止基本方針」に基づく「いじめの防止等の対策のための組織(いじめ防止委員会等)」には、複数の外部委員を任命して、常に外部の視点を取り入れる仕組みを作っていくことが重要である。
この場合、外部委員は完全な第三者よりも、PTA関係者、地域の子どもにかかわる機関の関係者、地域の児童福祉関係者など、当該学校が児童生徒の発達と教育に関して日ごろから関係をもつ、当事者と第三者の中間のいわば「第二・五者」のような存在が望ましい。
学校は、保護者、第二・五者、地域の方々と協力して児童生徒を支えていく体制づくりに努めるべきである。
近年、学校だけで社会の状況を反映した子どもの課題や問題に向き合うことの限界が指摘されている。学校は、子どもの課題・問題を抱え込まず、保護者や地域の方を対象に、「いじめに関する講習会」を開催したり、必要に応じて情報提供を行うなどして、子どもの成長発達を支える協力体制を地域に構築していくべきであり、これらの取組を通じて、いじめのない児童生徒の豊かな育ちの環境づくりを実現すべきである。
(道・道教委 2015-12-22付)
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