2つの〝ソウゾウリョク〟育成 道教育大附属札幌小の研究内容
(学校 2016-02-17付)

 道教育大学附属札幌小学校(戸田まり校長)の冬季授業研究会(十五日付12面既報)では、研究主任の中村珠世教諭が研究発表した。概要はつぎのとおり。

▼はじめに

 同校は「想創の学びを築く学校」という研究主題を掲げ、三年目に入った。この主題には変化の激しい社会で子どもたちが社会人として自立し、自分の能力を発揮しながらたくましく生きていく礎として、「新たなものを生み出していく力=すなわち〝創造力〟」を六年間の教育で育もう、という決意が込められている。

 デューク大学のキャシー・デイビッドソン教授の「二十三年度にアメリカの小学校に入学した子どもの六五%は、大学卒業時には今はまだ存在していない職業に就くだろう」という言葉があるように、四十二年度ごろが実際にどうなるのか定かではないが、インパクトのある予測であることに間違いない。

 教授は「誰も想定できない未来を生き抜いていく子どもや若者たちが、これまでの世界の概念や正解ばかり覚えたとして、果たしてどこまで役に立つのでしょうか」とも言っている。

 働くことの概念は、「言われたことをやるのではなく、自分で考え、新しいものや価値をつくり出していくことがより強く求められる」ものへと変化し、これからもますます加速していく。

 想像力を働かせ、他者の考えを取り入れながら、新しい考え方を生み出していく創造力。本校が掲げる二つの“ソウゾウリョク”は、これからの時代を、自立したくましく生き抜いていくために、そして他者と良好な関係を築きながら生きていくために、大切な鍵となる力である。

▼三年目の研究

▽研究副主題「創造的態度・思考からのアプローチ」

 研究主題の解明に向け、本年度は「創造的態度・思考からのアプローチ」という副主題を設定した。これは「想創の学び」の中の、つくり出す方の「創」をより高めるべく、創造力の育成に焦点を当てた研究である。

 何より、創造力は未来だけに働く力なのではなく、六年間の日々の授業の中で一歩ずつ育まれ、発揮されていくべきものであると考えたからである。

 しかし、「新たなものを生み出していく力」という創造力そのものは、概念であって漠然としたものである。そこで、子どもの「創造力」の表れを見取り、確かに育んでいくための視点として「態度」と「思考」に着目し、研究を進めることにした。

 ではなぜ、「態度」と「思考」なのか。子どもが創造性を発揮している状態ということから考えてみる。

 何か困難なことや簡単に答えの出ない場面に出会ったとき、答えが与えられるのを待つのではなく、何とかして解決しようと調べたり、友達と話し合ったり、手を動かし対象に働きかけながら考えたりしようとする。これが私たちが「創造性を発揮している状態」と考える子どもの姿である。

 「今の状態から新たなものや考え、価値などを創り出そうとする状態」を、私たちは創造的であるととらえる。そして、この創り出していく過程では、「態度」と「思考」の両方を伴うことが必要だと考える。

 本次研究では、このような創造性を発揮している状態に向かう態度と思考、つまり創造的態度と創造的思考という具体的な表れから、子どもの創造力を育んだり見取ったりし、想創の学びを築いていこうという意図を込め、「創造的態度・思考からのアプローチ」という副主題を設定した。

▽創造的態度を引き出す

 では、そのような創造的態度と思考を授業の中で育んでいくために、どのような手立てが必要か。

 まず創造的態度を育む手立てから説明する。解決や達成に向けて新たなものや考え、価値などを創り出そうとして一歩踏み出し、アプローチし続ける態度が私たちの考える創造的態度である。

 一つ目は「一歩踏み出す」ような創造的態度を引き出す手立てである。これは特に学習課題や学習の対象と関連する。

 創造的態度とは、あくまでも子どもの主体的な態度である。だからこそ、教師は子どもの内面を揺さぶり、「~したい」「~したくなる」という思いを、まず引き出す。

 そしてそのような思いに支えられ、主体的に一歩踏み出す態度を引き出していく。これは問題解決的な学習において、子どもが「問題意識」をもつことにもつながる。

 この手立てに対する考えは、学習意欲や内発的動機付けに関する知見と関連する。秋から取り組んでいる研究授業において、教科の特性もあるが認知的なズレや混乱、目標達成への不足感、価値あるものへの知的好奇心などに着目することで、内発的な思いや態度を引き出せることが、明らかになってきた。

 二つ目は「アプローチし続ける」ような、創造的態度を引き出す手立てである。

 そもそも授業の導入で引き出した思いや態度が、四十五分間そのまま持続することは多くないように思う。時には友達の考えを聞くことで、「なるほど」と解決したように感じ、学びが止まってしまうこともある。

 しかし、前次研究で取り組んできた問題解決的な学習では子どもの思考や問題意識が、より価値のあるものへ変化したり、深化したり、広がったりすることを大切にした。それは本次研究でも同様である。

 授業の中で、子どもの「~したい」「~したくなる」の質が変容していくことを想定し、もう一歩、アプローチしようとする態度を引き出すために、手立ても態度や思考の流れと連動させて考える。

 手立てとして私たちが大事にしていることは現段階で二つある。

 一つは子どもから出された考えを焦点化・価値付けるなど、方向付けすることである。その中で、他者や自分の考えを比較したり、視点を変えたり、概念を拡張したりするような考えを引き出していく。新たな視点や、みえてなかった価値がみえてくることは知的好奇心を刺激し、つぎの一歩を引き出すと考える。

 もう一つは個と他者とのかかわりを想定した、環境や学習活動を設定することである。子どもの学びは他者を含む場と、個人との相互作用によって刺激しあい、つくられていくもの。私たちが求める創造的態度の表れは、必ずしも全員同時に求めるものとは限らない。そのような学びの在り方も含め手立てを講じることも、アプローチし続けるような創造的態度を引き出すために有効であると考える。

 一年生の体育「ころがしドッジボール」の学習について説明する。

 本単元では、「ねらった所にボールを転がすこと」と「ボールが転がってくるコースに入ること」、の二つの動き方を知り、攻め方を見つけていくことを目指している。

 しかし、分かったからといってすぐできるようになるとは限らない。また、できているようで実はできたつもり、ということもある。そのようなときにもう一歩踏み出し、どうすればできるのかを自ら考え工夫し続けようとする創造的態度を引き出したいと考えた。

 前の時間までボールの転がし方を工夫してきた子どもたち。この時間はボールが来る前のコースへの入り方も大事であることに気づき、工夫しようとする姿を引き出すため、二つの手立てをとった。

 一つ目は授業のはじめに、前の時間のゲームでころころと後ろにボールが転がっている様子を映像で見せた。たくさん得点をしようと素早く転がすのを頑張っていたつもりが、実はあまり得点につながっていなかったことに気づく。子どもたちの意識と実態のズレに働きかけることで、「もっと得点するには後ろに転がるのをどうにかしなくちゃ!」という態度を引き出したのである。

 二つ目は転がってくるコースに入ることが大切だと気づいたあと、タスクゲームを行わせた。その中で、入ろうとしても思うようにコースに入れないことを動きながら実感させていくことで、子どもから「もっとできるようになりたい!練習したい!」という不足感を引き出し、動きながら工夫を考え続けようとする態度を引き出していくことができた。

▽創造的思考を引き出す

 つぎに、創造的思考を育む手立てについて説明する。

 解決や達成に向けて新たなものや考え、価値などを創り出そうとする際に働く思考が、私たちの考える創造的思考である。

 創造的思考として育みたいのは、それぞれの教科や領域、または単元でねらう一般的に求められる思考に基づきながらも、さらに具体的にとらえたり、多面的に考えたりしながらより自分自身の解決や見方、よりよい解決や価値に向かう過程で育まれるものととらえている。

 これについて、四年生の理科「もののあたたまり方」の学習をもとに、少し詳しく、説明する。

 この学習は一般的には示温インクなどで実験を行い、水が上から順に温まる様子を見ていく。しかし、本実践ではまず、水が温まる過程を主体的に追究しようとする創造的態度を引き出すために温度計を用いて実験を行った。

 子どもは、「火から遠いのに、上の方から温まっているみたいだけど…」と、金属の時とは異なる事実に問題意識を抱いた。すると「水は火の近くから順番に温まらないのでは?」「金属の時とは違うのかもしれない」という仮説を立て、温度計の位置を意図的に変えながら、実験を繰り返した。

 つまり、温度計という手立てにより、結果をもとに自ら視点を絞り、方法を変えながら問題を解決する創造的思考を引き出したのである。

▼おわりに

 これまでの研究授業では、このほかに立場を変えてみる思考、複数の考えを分類・整理する思考、比較する思考、具体的な方法を見いだす思考など、いくつかの思考の状態を見いだすことができた。

 そのような創造的思考を育んでいくために、私たちは二つの手立てを大切にする。

 一つ目は、単元や題材で育みたい創造的思考とそこへ向かう道筋を明らかにし、活動構成を組む。そのために育みたい創造的思考を単元レベル、各活動レベル、本時レベルと階層を分け、より具体的にとらえる。

 二つ目は、創造的思考を何らかの方法で表出・表現する活動を取り入れる。この方法は言葉に限定しない。

 思考を見えるようにすることは、私たちが子どもの創造的思考の表れを見取り、つぎの指導に生かすことにつながる。一方、子どもにとっても大きな意味をもつ。

 頭の中にあるものを一度出してみることで、自分の考え方を明確にしたり、時には整理したり、必要なことが見えたりするなど、メタ認知を働かせ新たな創造的思考へとつなげられるからである。

 本次研究で大切な鍵となる、創造的態度と創造的思考。この二つを子どもの表れからみてもらい、授業後の話し合いを通してともに学び合いながら、研究を深めていきたいと思う。

(学校 2016-02-17付)

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