座談会・4種校長会リーダーが語り合う「アクティブ・ラーニングによる授業改善」②(関係団体 2016-10-27付)
道小学校長会・松井会長(左)と道中学校長会・赤岩会長
◆出席者
▽北海道小学校長会会長 松井光一氏
▽北海道中学校長会会長 赤岩輝雄氏
▽北海道高校長協会会長 大鐘秀峰氏
▽北海道特別支援学校長会会長 五十嵐利裕氏
▽司会 本社参与 山内秀治
◆テーマ②「アクティブ・ラーニングの意義や課題」(文中敬称略)
▼司会 柱2「アクティブ・ラーニングの意義や課題」についてお願いします。
▼赤岩 アクティブ・ラーニングという言葉は唐突に出てきたという印象があります。
アクティブ・ラーニングというのは、学習指導要領ベースではなく、今までどのように使われてきたものなのか調べてみると、アメリカの八十年代から九十年代にかけての高等教育改革の中で、学習者がより能動的に授業に参加できる方法として、この中からアクティブ・ラーニングという言葉が現場を中心に草の根的に広がったとされています。
アクティブ・ラーニングとは明確な定義をもつ学術用語というよりも教育実践で用いられている用語と考えられているところです。
では、アクティブ・ラーニングの共通した要因というものにはどういうものがあるのかというと、つぎの五点があると言われています。①学生は聞いているだけの状態よりも授業に関与している②教師から学生への情報の伝達よりも、学生の能力開発を重視する③学生は高次の思考活動に従事している④学生は何らかの活動をしている⑤学生自身の態度や価値観に基づく探索活動の重要性が強調される―といった特徴が言われていますが、中学校という場において、アクティブ・ラーニングの視点に立った活動がなかったかというと、実は以前からこういった視点に立った実践はされていました。
私が尊敬している飛田多喜雄先生の一九八九年の講義録に「新しい国語教育の考え方」という一冊がありますが、その中で、社会の変化に主体的に対応する学力としての性格を国語はもつのだということ。その中では情報選択能力や情報処理能力、情報創造力といったことを積極的に取り入れていかなければ新しい国語教育にはつながらないと指摘されていて、様々な実践例にふれています。
このように現場では、二十年、三十年、もっと前から課題探究型、課題解決学習といわれる実践を通して積み上げてきたと言えます。
ただ、だからと言って、注意しなければならないのは、従来と変わらないのだと言うことでは決してなくて、単に一教科だけでこれを図ることではなく、教科横断的なカリキュラム・マネジメントが求められるような教育課程を通して、さらに小・中・高・大と流れがつながっていく中で、生かされなければならないと考えています。
▼松井 授業というものがどんなものなのかを話したいと思います。文部科学省初等中等教育局教育課程課の合田哲雄課長の話にもありますが、クラスでただ座っているだけのお客さんが一人もいない授業をつくろうということ。これは、私が新卒のときにもそう思っていた永遠の課題でした。ここにメスを入れて、何とかしようという意気込みを感じています。
したがって、それぞれの子どもがそれぞれの力に応じてその子なりに必死に取り組んでいるという授業をいかにつくるかということが大切です。先ほど、赤岩会長も言われていましたが、力のある先生は今までも取り組んでいる一方、そうでない先生もいました。あるいは、取り組んでいる教科とそうでない教科もありました。したがって、個人芸、名人芸にとどめないで、後輩にいろいろ伝えるということが課題にもなると思います。
いろいろなところで話していますが、習得・活用・探究ということで、習得では教師の指導性が強い、基礎・基本を教えるためにはしっかり教えなければならない。それから活用のところでは五分五分くらいじゃないかと、そして探究のときには教師の指導性は少ないんだと。
今、間違った解釈として、アクティブ・ラーニングは探究を充実させるということだけで良いと考える人たちもいるらしい。私たちが言っているのは、基礎・基本を分からなくては、探究などできないということ。習得の授業もする、活用の授業もする、そして探究の授業もする、この三つがしっかりできるということが重要です。それぞれアクティブ・ラーニングの視点で授業を語るという形をしっかりと考えないと間違ったとらえ方になるのではないかと思っています。
▼五十嵐 特別支援教育の立場からみても、特別な支援を必要とする子どもたちはどの校種、どの学級にもいるということを考えれば、この視点によって授業の在り方を見直すという意義はとても大きいと思っています。ここ数年言われてきたインクルーシブ教育の推進ということからも、このアクティブ・ラーニングの重さといったものはあるのかなと思っています。
特別支援教育の中では、障がいによって一次的・二次的な要因で自ら外界に対して働きかけることや、表現することが難しい子どもたちがたくさんいます。指示待ちで受動的な学びになる子どもたちも出てくることから、特別支援学校の中はもちろん、小・中・高の中にいるそういった子どもたちにとっても、「どのように学ぶか」という学習過程の改善は大変重要であると思います。私たちもそこのつながりをもちながら推進に当たっていきたいと考えています。
▼大鐘 アクティブ・ラーニングの型というものを重視しすぎると、どうしても本末転倒になって拡散していく。生徒がアクティブ・ラーナーになっていくことに意義があり、我々の目標と思っています。一人ひとりの学びに根ざしたアクティブ・ラーナーになっていくことが重要です。
当然そこでは、主体性、協働性、多様性ということが言われているので、それぞれ多様な学びが出てきます。それらが協同して力になっていくと感じています。そこではコミュニケーション能力、人間関係形成能力を育むことになると思いますが、それぞれ学びのスタイルが違うという認識が必要です。
本校でも「話し合いをしてごらん」「発表してごらん」と言うと、得意な子とそうではない子がいます。得意な子の方に傾斜していくのも良くない。そのあたりを調整しながら、巻き込む形で全体を底上げするようなことを考えていかなければならないと思います。
そのためには、教師側にとってはこれまでの、講義形式の一斉授業では意識していなかったような、個別の生徒の学びということに目を向けていかなければならなくなってきています。
深い学び、本質的な学びにつながっていくといった点については、教科を越えた視点が必要です。逆に言うと、教科を越えて教師が協働できる大きなきっかけになるのではないでしょうか。
高校では個業性に閉鎖しないで、そういった人が表に出てきて、どういう力をどういうふうに付けていくのかという議論がやっと始まるという感じがしています。合意形成のトレーニングは教師もできていなく、自己の経験にこだわる人も多い。本校でもそういう議論がなかなかかみ合わなくて、やっと最近話ができるようになりました。
生徒の学びの多様性から教師の指導力の向上につながる大きなきっかけになると思っています。
▼司会 会長さん方からたくさんの意義を出していただきましたが、つぎに課題について話し合いを進めたいと思います。
▼松井 小学校はその論議の中ではアクティブ・ラーニングの取組を十分やってきているのではないかと言われますが、実際に今の小学校はやってきたのか調べたところ、あるデータですが、アクティブ・ラーニングとは言わないが主体的・対話的で協働的な学習に取り組んでいるかを校長に聞いたところ、「取り組んでいる」と答えたのが二%で、「概ね取り組んでいる」が五〇%、「これから、努力を要する」と答えたのが四〇%。教員に聞くと、五%が「取り組んでいる」、六五%が「概ね取り組んでいる」で、三〇%が「努力を要する」と答えています。
このデータを見て、私は三十二年度に学習指導要領が全面実施になるときに「アクティブ・ラーニングの授業を」と言われた場合に、間に合うのだろうかと思いました。まさに、今から取り組んでいかなければならない。やはり、教員の研修をどうするか、特に校内研修の問題がこれからの課題になります。
たとえば、体育の授業で考えた場合、バスケットボールを小学校でやります。練習して、話し合って、ゲームをし、また話し合ってと進めていく。真ん中で話し合って、まさにアクティブ・ラーニングのようですが、良く聞いてみると、いろいろ喋ってはいるが、実際つぎのゲームでは様子が変わらない。つまり、形だけつくってもダメだということです。
私たちはそこで何をするかというと、教材としてシュートゾーンというフリーになる場所を設けると、そこから話が発展して、そこに誰が行くか、そこに入ったとき誰が声を出すか―などの変化が起きる。そのあたりの教師の力量を付けていく研修をしていかなければならないというのが課題となってくるのではないでしょうか。
▼赤岩 アクティブ・ラーニングの課題というのをもう少し考えてみると、現行の学習指導要領の中でも言葉の力、言語力の育成と言われていました。
言語力の育成というのは本来、知識と経験、論理的思考、感性・情緒等を基盤として、自らの考えを深め、他者とコミュニケーションを行うために言語活動を運用するのに必要な能力を指します。言語力、言葉の活動ということから、単純に話し合いをすれば良いというようなところにいってしまいがちですが、現状、話し合い活動で終わっていないでしょうか。
子どもが一人もお客さんにならない、子どもが集中して自分の課題と取り組んでいるアクティブ・ラーニングを取り入れた授業や、授業スタイルについて、校内研修もそうですが、いろいろな場をつくって、明らかにしていかなければなりません。
ともすれば、アクティブ・ラーニングということが「這い回る経験主義」の二の舞になるのではという危惧もあります。
一方では、アクティブ・ラーニングができるところとできないところによって、子どもたちの学力格差がさらに広がるとも指摘されています。
また、文科省の義家弘介副大臣も言われていますが、「アクティブ・ラーニングを有機的に機能させるためには、“徹底した反復”で基礎となる学力を付けておく必要がある。そうしなければ、主体的・対話的活動に入っても深い学びにならない。“偏った結論”にたどり着く懸念がある」と危惧しています。そういった課題も大きいのではないでしょうか。
▼大鐘 やはり定義の共有というか、各学校でどのように概念形成をしていくかということと思います。ただ、一つに収束させるということは難しいかも知れないので、それぞれの先生方の経験だとか、思考があると思うので、一つにまとまるという考え方よりも、一つの方向をもつといった方が日本人の合意形成の在り方、特に教育文化の形成の在り方としては良いと思っています。
それから、やはり一斉授業から脱却するということを考えると、各学校で、育成すべき資質・能力を確認していく作業は必要ではないでしょうか。本校ではどういう力をどのように付けるのかという教育目標を掲げる必要があります。そこにおいては、思考力等だけではなく、知識・技能等と一体となってスパイラルにあがっていくと思いますが、二者択一ではなく、組み合わせた形の育成すべき資質・能力になっていくだろうと思います。
学習方法も指導方法もアクティブにやれる先生とやれない先生がいる。そうなると学校としてはまずいので、教科ごとのスタンダードであったり、学校全体が統合されたスタンダードだったりをつくっていくことが必要ではないでしょうか。そのために、忍耐強い話し合いというか研修が必要と思っています。
また、アクティブ・ラーニングの着地点がなかなか見いだせないということがあります。今、いろいろな評価、思考力等のパフォーマンスを図る評価方法が出てきていますが、万能ではないので、学校としての評価規準もつくっていかなければならないのではないかと思います。
一斉授業では見えていなかったものがたくさん見えてくる。生徒のいろいろなものが見えてくる。それにかけるエネルギーは膨大なものがある。そう考えると、業務の在り方、組織の在り方、組織改善の在り方、業務開発をやっていかないと、どんどん足し算で増えていくのではないかと思います。
本校でもできるだけ仕事の属人化はしない、交換可能、入れ替え可能、そういうことを考えて刷新・改善を行っており、「あの先生がいなくなったらできない」といったことではまずいので、改善を進めている状況です。
授業もいつでも見に来て、いつでも参加していけるという柔軟な組織をつくっていく必要があります。
また、学力の推移というものもきちっととらえていかなければならない。最終的には教職員の力量形成が大切なのかなと思います。
最初にカリキュラム・マネジメントの話をしましたが、結局、教科を越えた全体的視点をもたないと育たない資質・能力をも育てるときに来ていると思っています。
▼五十嵐 我々にとってはアクティブ・ラーニングは単なる学習方法ではありません。障がいの状況を踏まえた上で生きる力を育むための一つの視点、授業改善といったところに大きな意味があると考えています。だからこそ課題というのも出てきます。
私たちの場合は、集団の中でも個別のねらいをもった授業というのを展開してきました。その中で、とても重要なのが学びの実態を的確に把握することです。
つまり、評価というものをいかに適切に実施するかということです。評価を個に焦点を当てて充実させなければなりません。
本校でも、「なかなかそれができないよね」という声もありましたが、教員の方から放課後、十分間でも良いからほしいという声が挙がってきています。先生方もそこの重要性を認識してきているのではないでしょうか。
また、知識・技能の習得、思考力・判断力・表現力といったことが十分ではない子どもたちの指導においては、どうしても教師主導型の授業になりやすいといったあたりも気を付けなければならないと思っています。特別支援教育は自立活動という領域があるので、いろいろな体験活動を組んでいきますが、準備等にもかなりの時間がかかることがあるので、中身を精選しなければならないといったときに、必然的に各教科を横断的、縦断的に見て効率的に取り扱うことが大切なことと思っています。今、皆さんのお話を聞いていて小・中・高みんな同じなのだと思いました。
▼司会 そのほか、質問や意見、補足がありましたらお願いします。
▼赤岩 中学校は九教科ですが、アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善ということで、私は国、数、社、理、英の五教科よりも美術、音楽、保健体育、技術・家庭といった教科こそ、子どもの主体的で対話的な学びや統合的な視点からの学びを積極的に取り入れていかなければならない、むしろ取り入れやすいのではないかと思っています。
現行の学習指導要領の言語活動で見えてこなかった部分が、アクティブ・ラーニングの視点が入ったことによって、このような教科にスポットが当たることが重要なことと考えています。
▼松井 さきほど習得・活用・探究の話の中で、子どもたちの姿が出ていましたが、ここで確認しなければならないのは、今まで前を向いて座って聞いてばかりいる、ノートばかりをとっている子どもから、少し付箋を使うといった活動やホワイトボードに少人数が集まるということで少し動いたなという授業、これはこれですごいことだが、ここには深い学びがありません。そこから深いところにいくというのが探究授業、学習の仕方になってくるのではないでしょうか。
習得などの授業では子どもたちは、「先生、〇〇が分かった」と発言をします。ところが活用・探究になると「もっとこうしたい」「もっと聞いてみたい」「もっと活動したい」という発言になります。そういう子どもの反応をもっと意識していかないと、這い回るという授業になってしまうような気がします。
▼大鐘 子どもの「分かった」という発言はとても重要なことで、今、逆に「分からない」ということがなかなか言えない。分からないということや困ったということをきちんと言わないと、そういったことからスタートしないとダメだといった話を私は集会などで話しています。
主権者教育が高校で取り入れられた。そういうことからも考えると、自ら自己開示できないと、一人ひとりの人間を尊重する態度が育たない。分からない人は分かっている人から聞く、教えてもらうということが大切。それは、本当に一人ひとりを大事にする学習スタイルで、それによって一人ひとりがそれぞれの学びを達成していくことになっていくのではないでしょうか。
ただ、一斉授業ではなかなか見えない部分がある。見えている部分しか見ないのではなく、それらを壊していくことによって水面下のたくさんの見えない部分が見えてくる。たとえば、一人ひとりの認知特性などに教師がどう取り組んでいくかということが問われているのではないかと考えます。
▼司会 ありがとうございました。柱2では、つぎのようなことが明らかにされました。
アクティブ・ラーニングは、その視点から、これまでの指導方法や指導過程を見直しながら授業改善を進め、教師の力量を向上させることや、授業を教科横断的な学びとするなどのカリキュラム・マネジメントを充実し、校内の組織運営改善などを図っていくことなどの意義がある。
しかし、アクティブ・ラーニングは、目的化やパターン化、偏った限定した見方・生かし方をせず、知識・理解の習得とその活用との調和や、児童生徒の人間関係力を育て全員が参加できる学習、児童生徒の身体だけではなく、「思考」が活性化する学習を大切にすることなどに留意することなどが述べられました。
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