道総合開発計画シンポジウムで札幌市発寒西小・新保校長が講演 本道は学習素材に最適 「ほっかいどう学のすすめ」(学校 2017-03-31付)
新保校長は、多くの人々が居住できるようになったことなど、本道の歴史や背景を学ぶ大切さを説いた
開発局主催の「新たな北海道総合開発計画に関するシンポジウム~〝ほっかいどう学〟の展開に向けて」(三月二十一日開催)で、札幌市立発寒西小学校の新保元康校長は「ほっかいどう学のすすめ」と題し、基調講演を行った。新保氏は、〝北海道〟そのものを学ぶ機会の減少を危惧。一方で、厳しい気象条件を克服し広大な大地に居住してきたことや、地道な土地改良でわが国最大の食料基地となるまでに発展した本道は、学習素材としても最適だと強調した。「カリキュラムの作成、新たな副読本をつくるというのもいいのではないか」などと提言するとともに、「あらゆる角度からほっかいどう学を進めていくことが重要」との考えを示した。
講演概要はつぎのとおり。
◇ ◇ ◇
長年、社会科に携わってきたが、北海道への愛着、関心が、十分に育てられていないのではないかと感じる。どういうことかというと、小学校における社会科の教育内容がずいぶん変わった。昔は北海道のことも結構勉強したが、今はあまりしない。
身近な例で申し上げると、札幌市内の小学校だと、札幌市のことを一生懸命勉強する。国のことも結構学ぶ。一方で、北海道を学ぶ内容は、どうも薄いのではないかと思っている。
十二歳までの間に覚えないと、身に付かないということを指摘する識者もいる。そうしたことを考えると、北海道のことを小学校時代から学ぶことが大切な要素だ。逆に言うと、現在は、北海道のことを知らないまま、大人になっているのではないかという危惧も感じる。
昨年八月の末、相次ぐ台風による大雨で本道は甚大な被害を受けた。二七四号日勝峠をはじめ、災害対策に汗を流した人々は大勢いる。日勝峠の被害を把握するため、開発局の職員や建設関係のコンサル会社の人々が、クマと遭遇する可能性もある山中を、徒歩や自転車を使い、命がけで調査していたことに大変驚いた。
しかし、こうしたことは、一般の人にはあまり知られていない。新聞もあまり読まれなくなっている。大人が知らなければ、子どもも当然知らない。
今回の被害では、農地も大きなダメージを受けた。しかし、農地の回復に十数年かかるという意味を教えることのできる人は少ないのではないかと思う。
多くの人々は、広大な農地を見て、〝自然が豊かだ〟〝素晴らしいね〟などという表現をする。しかし、これは自然でもなんでもなく、人が長い年月をかけてつくった畑であり、土であるということだ。
私も詳しい訳ではないが、十勝平野は火山灰地で、それを肥沃な土地に変えていったという歴史がある。あらためて勉強すると、単なる火山灰ではなく、湿地もあった。排水もしなければならないし、肥料も入れないといけない。
火山灰は酸性ということで、土質も改良しないといけない。十勝の土壌は百三十年という長い年月をかけ、やっと肥沃な大地となった。そうした苦労が身を結び、現在、十勝平野の食料自給率は一、一〇〇%を誇る。
そういう北海道の歴史を知らない。そうすると、農地を見ても、ただ単に自然が豊かで、北海道らしくていいねという話になるし、意味がおそらく分からない。
今回の台風では、表土が全部流されてしまい、大変なことになった。現状だと、そうした重大な意味を子どもたちに伝えることができないということにつながる。
あれだけ大きな被害を受けた日勝峠も、ことしの秋には開通する。驚きの早さだが、こうした努力についてもきっと知らないと思う。日勝峠についても、周囲と話す機会があったが、位置すら知らない若い人もいた。峠の名前を知らない。これが現実。
日勝峠は国道になって五十年あまりだと思うが、昔は線形も悪く、改良を進めてきた中で、壊れてしまった。北海道は、気象条件も厳しく、大変なところに、先人たちは道や線路を整備し、頑張ってきた。
それを今は、知らない人が多い。日本は小さいが、北海道は大きい。北海道には十五県が入る。本当にそのとおりと思う。そうした北海道を学ぶ機会が少なすぎる。
歴史、文化、地理と思いつくままに設問をつくって北海道のことを子どもたちに聞いてみたこともあるが、積雪の特徴、除雪、稲作の歴史など、基本的な事項の中には、五割以下の正答率となっている項目もあった。
現在、社会科の大きなテーマは、小学校卒業六年後には十八歳になり、選挙権をもつ中で、本当に今のままで大丈夫なのかということだ。北海道に関する学習の現状をまとめると、弱い。四年生で実施するが、薄い。
昔は、『わたしたちの北海道』という社会科の副読本があった。北海道開発についても非常にたくさんの記述があった。
一方で、社会科の学習時間は大幅に減っている。昭和四十六年ごろ六百六十三時間あったが、総合的な学習の時間の創設などもあり、二十三年の学習指導要領では三百六十五時間に減少した。教科書の記述量もおそらくピークが昭和四十九年ころだと認識する。
昔は、『わたしたちの北海道』もあり、北海道のことを一年間びっしり勉強する機会があった。当時は、高度成長の後半期で、開発はみんなの関心事だった。六畳以上の住宅に関する保有状況など道民生活の目標という面白い記載もあった。未来のことについてもたくさん記載されていた。新篠津地域の泥炭の開発についても、詳しく紹介されていた。
今は、地元の市町村を学ぶことが多い。北海道も少しは入るが、どうしても内容は薄くなりがち。教育内容の変遷もあり、仕方ないことなのかと思い、本道以外の各方面の教育関係者に聞いた。
すると、ほかの地域では、県単位のことを学ぶ内容が結構残っていることが分かった。北海道の副読本はなくなってしまったが、愛知県では、県を扱った副読本を四年、五年、六年で使う。
地域の発展に尽くした人々も載っている。交通のことも豊富だ。北海道は一ページだけ。図もなくて、少しの記載しかない。これでは愛知に負けるという感じがする。岩手でも、同様に県のことを学ぶ。
私たちも泥炭土と格闘し、厳しい気象条件も克服して居住してきたという北海道といういい材料がありながら、それを学んでいない現状がある。もったいないと思う。
農地は暗渠が張り巡らされている。農業における排水は、蒸気機関の発明ぐらいすごいこと。わずかな期間のうちに、広大なところをやり遂げた。これを子どもに教えるべきと思う。
私は、それを副読本で学んだ。それを知らないで、大げさなことと感じるかもしれないが、選挙権を行使するのか。
北海道は他県の十五以上の広さ、極寒の地に暮らす苦労と知恵があった。それなのに学習はわずか。他県では、やっているのに。これでは、道民意識が育たないのではないかと思う。
十八歳選挙権になるが、やはり、道議会議員を選ぶためには、ある程度、北海道に対する知識が必要ではないだろうか。
つまり、北海道をもっと学ぶ〝ほっかいどう学〟が必要ということだ。第八期の北海道総合開発計画の策定に関する会合に参加した際の提言が実現し、今回の会合があるのは、大変うれしいことだ。
ここから先は様々な方法があると思う。カリキュラムの作成、優良なほっかいどう学の実践の表彰、新たな副読本をつくるというのもいいのではないか。作成した副読本の内容をすべて授業でカバーすることはできないかもしれないが、ただ、その本を配布すれば子どもは読むと思う。学校の図書館は、整備されており、各小学校の図書館に本を置くだけでも、かなり違うと感じる。
一方で、インフラに関する教師の研修も大切だ。私が初任のころ、開発局の方がバスを貸してくれ、中山峠の水源地帯や、石狩川の河口に関する説明を現場でしていただいた。非常に面白かった。
教育をより良くしていくためには、教師の研修が必要だ。現場を見せる。それが非常に大事なことだ。児童向けのホームページをつくるとか、いろいろなアプローチもある。あらゆるところから〝ほっかいどう学〟を推進していくことが必要ではないだろうか。
(学校 2017-03-31付)
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