【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】№55中学校技術・家庭科編技術分野 北海道技術・家庭科教育研究会(岩本正美会長)発表と交流の充実を図る授業づくり
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2019-01-30付)

伝えたい道技術家庭科研究会発表時
発表時は筆記用具を置く

◆安心して発言・発表できる環境づくりを 

 2030年の社会と子供たちの未来像として、対話や議論を通じて、自分の考えを根拠とともに伝え、他者の考えを理解し、自分の考えを広げ深めたり、集団としての考えを発展させたり、他者への思いやりをもって多様な人々と協議したりしていくことができる人間であることとある(H28中央教育審議会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」より)。 

 その具現化を目指すため「主体的・対話的で深い学び」の授業を構築するうえで、多くの教師が指導方法や教材、授業形態等を工夫し研修しているが、どうしたら活発な意見交流が行われるのか、試行錯誤を繰り返す姿も見られる。多くの場合、課題設定や発言については「教科指導」、聞く姿勢については「学級指導」もしくは生徒指導的な側面でとらえていないだろうか。

 表現のスキルアップのために演劇指導のプログラムを取り入れている学校があるが、そのプログラムにおいて、「セリフが飛んで(忘れて)芝居が止まったら、それは周りのせい」という記述がある。責任転嫁にもとれるが、実際、役者がミスをした時にはその本人が取り返そうとすると余計に不自然になる。忘れた本人は堂々とその場に立ち、周りの役者のフォローを信じて待つものだという。

 言わば、仲間を心から信頼している証であり、そのような仲間の中であれば伸び伸びと表現活動ができる。そこで、安心して発言や発表ができる環境づくりやその意識を「授業で創り上げる」ことで学習の成果を高めることができるのではないか。

 私たちが生徒との日常の相談活動において実践している傾聴のスキルを、児童生徒の発達段階に合わせて指導し活用させることが安心して発言できる環境づくりを整えることにつながるのではないかと考え、授業で行う「安心して発言できる環境づくり」における私の実践の一つを紹介する。

ポイント1 頷きと同意の体感

 発達段階に合わせた傾聴のスキルを身に付けさせる。発表しやすい環境づくりのため、1年生では「聴き手のスキルアップ」を授業に取り入れる。聴き手には「頷き」「同意」を意識して傾聴させる。実情に合わせて、場合によっては内容理解よりも優先させても良い。班単位等の小集団の中で2分間程度の発表を行い、発表者に対して意識的に頷くことを体験させ、発表者からの感想を交流する。発表者は発表のしやすさを体感し、「聴いてくれたので話しやすかった」と肯定的な評価をすることで、聴き手側はさらに意識が高まる。

ポイント2 質問のスキルを高める

 発表しやすい環境づくりの初期の段階において、「発表者が質問に対して的確に回答できず、準備不足が露見するような場面」をつくらない。聞き上手は、「質問上手」である。伝えるべきことが上手くまとまっていない時でも、聞かれたことに答えているうちに会話の内容が深まる。発表交流において、興味・関心からくる質問ではなく、「よくぞそこを聞いてくれた」と発表者が感じる質問を聴き手の目標と定める。この観点についても発表者からの感想を聞くことにより、傾聴のスキルアップにつながる。

 発表後には生徒同士の交流を行うが、ここでの配慮は特に重要である。的確に改善点を指摘するアドバイスも、それを受ける側の負担になってしまうことがある。真剣に改善点を考え、それを伝えたいだけだとしても、その指摘によって発表者が自信を失うのであれば、本末転倒となる場合もある。

 よって、意見交流時の約束事として、「良い点を3つ、改善点を1つ」というように具体的に提示する。このバランスは、発達段階や学年の実態に合わせると良い。聴き手側が発表者の「良いところ」を見つめる基準となる。発表者は良いところを評価されることにより、次の発表の機会にむけてのモチベーションを高められ、「聴き手側への信頼感」をもつことができる。

【発表者に対して】

 発表者が、色々な情報から他者と自分の考えを比較し、差異を整理し、自分の考えを正確に伝えることを意識するよう指導することが大切である。

 しかし、発表者となった生徒に自分の発表に対する評価を聞くと、「すらすら話せたか」が自己評価の観点となり、本来の目的である「伝える」ということは二の次になっている傾向がある。伝えるということの必要性を周知することが大切である。

 さらに、「できた」という自信をもたせるために、ICTの活用が効果的である。そのためにはプレゼンテーションソフトウエアの操作方法を指導しておくことが求められる。

【学校としての取組のため】

 これらの内容は、教科ごとに体系化するのではなく、子供たちにどういった力を育むのかを学校の教育課程全体で取り組むことでより効果が期待できる。そのためには、「教科で何を教えられるか」を個々の教職員が意識し、実践、検証していくことが必要である。そして、それらを交流し、チームで検証することで生徒のスキルアップにつながると考える。

(北海道技術・家庭科教育研究会 組織・調査部長 札幌市立啓明中学校 教諭 窪田進二)

※次回は、家庭分野「新学習指導要領実施に向けた実践計画」を掲載します。

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伝えたい道技術家庭科研究会プレゼン
プレゼンソフトでの説明

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