【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】№53小学校理科編③北海道小学校理科研究会(永田明宏会長)理科授業における深い学び(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2019-01-25付)
実験結果を基に、自らの予想や仮説を検討する子どもたち
◆問い続ける楽しみや喜び見いだす子に
ポイント1 単元全体で深い学びを考える
新学習指導要領において、全ての教科・領域において目指す資質・能力が整理された。とりわけ理科では、問題を科学的に解決するための資質・能力の育成が求められている。こうした資質・能力を育む上で、深い学びの実現が欠かせない。では、理科ではどのような学びの過程により、深い学びを実現すればよいのか。新学習指導要領では次のように示されている。
「子どもは、問題を科学的に解決することによって、一つの問題を解決するだけに留まらず、獲得した知識を活用して、『理科の見方・考え方』を働かせ、新たな問題を見いだし、その問題の解決に向かおうとする。この過程において、予想や仮説をもち、その解決方法を考えたり、知識を関連付けてより深く理解したりすることに向かうことが、『深い学び』の実現につながる。」
つまり、深い学びとは1時間の授業のみで考えるものではなく、単元全体を通して、また単元を超えて実現していくものなのである。
ポイント2 深い学びにつながる姿を引き出す手立て
それでは獲得した知識を活用し、見方・考え方を働かせ知識を関連付けていく子どもの姿と、その姿を引き出す手立てとはどのようなものなのか。第6学年「水溶液」の学習を例に考えてみたい。
リトマス紙を用いて、水溶液を酸性・中性・アルカリ性に弁別する場面がある。ここでは、水溶液は3つの性質に分けられるという内容をとらえさせるだけではなく、見方・考え方を働かせる子どもの姿を引き出したい。そのために、グループ毎に食塩やミョウバンを粉のまま渡し、それらを水に溶かす活動から始める。リトマス紙を使って調べると、食塩水は中性を示し、ミョウバン水はアルカリ性を示す。しかし、グループによって反応の強さが異なる。この事象をきっかけに、溶かす量と反応の大きさの関係についての問題が生まれ、子どもは量的な見方とともに質的な見方も働かせながら、多面的に水溶液の性質に迫っていく。
さらに、石灰水を提示すると、ミョウバン水や食塩水の追究を基に見いだした、「水溶液には物をたくさん溶かすほどに性質が強くなるものがある」という知識を活用し、石灰水に溶けている物の量に着目した新たな問題も生まれ、次時に向け、さらに追究への意欲を高めていく。
このように食塩水・ミョウバン水・石灰水など、これまでと使う教材は同じでも、提示の仕方一つで、獲得した知識を活用し、見方・考え方を働かせて問題の解決に向かう子どもの姿には違いが生まれる。学習指導要領改訂に伴い追加されたり移行されたりした内容が少ない理科では、これまでに使われてきた教材を今一度見つめ直し、獲得した知識を活用したくなったり、子どもが見方・考え方を働かせたくなったりする教材の提示の工夫や学習展開を検討することが大切になってくる。
ポイント3 深い学びにつなげるための振り返り
実験には意欲的に取り組んでいるのに、いざ考察場面になるとクラスが静まりかえってしまう。また、振り返りを書かせても、ノートには実験結果のみが書かれていて、結果を基に考える子どもの姿を引き出せていない。こうした状況を経験した教師も少なくないだろう。実験結果を基に、新たな問題を見いだし、その問題の解決に向かおうとしたり、知識を関連付けてより深く理解したりする深い学びにつなげるためには、見通しと振り返りが大切になる。
第5学年「ふりこ」の学習で、重さと1往復の時間の変化を調べる活動がある。実験の前に、「重さによって1往復の時間が変わるか、変わらないか」だけではなく、変化の程度についての考えも引き出す。1往復の時間が変わると思っている子どもの中でも、変化の程度の見通しについては違いがある。ここでの見通しの違いが、明らかにしたいという意欲を高め、実験結果をより詳細にとらえる姿につながる。
さらに、見通しと実験の結果が一致しない場合には、自らの予想や仮説、それらを基にして発想した解決の方法の妥当性も検討することになる。こうしたプロセスを通して、自らの考えを大切にしながらも、他者の考えや意見を受け入れ、様々な視点から自らの考えを柔軟に見直し、その妥当性を検討する態度も身に付けることになると考える。
また、振り返りでは、実験を通して「はっきりさせられたこと」とともに「まだはっきりしていないこと」を見つめることも大切にしたい。「理科好き」の知識がある子どもほど、一つの結果から簡単に結論付けてしまう場合も少なくない。だからこそ、ただ単にねらいとしている内容に子どもが気付いたかどうかだけではなく、「たった一つの結果から結論付けられるのかな」、「得られた結果からそこまで言えるのかな」と、子どもが自らの考えの妥当性を検討するような教師の関わりも、資質・能力を育成する上で大事になる。
このような学びの過程を通して、「まだまだ知らないことがあることに気付く」ことが、小学校を卒業した後も、問い続けることに楽しみや喜びを見いだす子どもの姿にもつながるのだと考える。
(北海道小学校理科研究会 本部研究部副部長 北海道教育大学附属札幌小学校 教諭 鐙 孝裕)
※次回は、「子どもの見通しと問題解決の活動」を掲載します。
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2019-01-25付)
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