【伝えたい!授業づくりの基礎・基本Ⅱ】No.57小学校家庭科編①北海道小学校家庭科教育連盟(石澤優子会長)新しい家庭科~新学習指導要領から
(伝えたい!授業づくりの基礎・基本 2019-02-04付)

伝えたい、図
家庭科の学習過程の参考例(クリックすると拡大表示されます)

◆よりよく工夫し生きて働く力を

【小学校家庭科の目標と改善点】

 小学校家庭科では、「生活の営みに係る見方・考え方を働かせ、衣食住などに関する実践的・体験的な活動を通して、生活をよりよくしようと工夫する資質・能力を育成すること」を目指している。今回の改訂では、小・中学校の内容の系統性が明確に示され、学校段階別に学習対象が整理された。

 また、これから始まる学習の中で、自分の成長を自覚し、家庭生活と家族の大切さや家庭生活が家族の協力によって営まれていることに気付くことができるよう、これまでの学習を踏まえ、2学年間の学習に見通しをもたせるためのガイダンスを第5学年の最初に履修させるなどの改善が図られた。

 さらに、生活の科学的な理解を深め、生活の自立の基礎を培う基礎的・基本的な知識及び技能の確実な習得のために、調理や製作の一部の題材が指定されたこと(米飯とみそ汁、ゆでる材料として青菜とジャガイモ、袋など)や、日常生活の中から問題を見いだして課題を設定し、計画を立てて実践した結果を評価・改善し、考えたことを表現するなどの学習を通して、課題を解決する力と生活をよりよくしようと工夫する実践的な態度を養うことをねらいとして、「家族・家庭生活についての課題と実践」が新設されたことも特色である。

◎新設「家族・家庭生活についての課題と実践」

 身に付けた知識や生活経験などを基に生活を見つめることを通して問題を見いだし、子どもの興味・関心等に応じて学習した内容と関連させて課題を設定できるようにする。2学年間で一つまたは二つの課題を設定して履修させるが、それまでの学習内容を活用できるよう実施時期を考慮し、年間指導計画に位置付ける必要がある。

 例えば、「家族のためにご飯とみそ汁を調理し、製作したランチマットを用意して食事をする」という家庭実践を行った子どもたちは、「意外と食器の数が多かった。ランチマットの大きさをよく考えればよかった」「食事をしていると、ランチマットが結構汚れることが分かった。洗うことまで考えていなかった」などと、自分でやってみたからこその問題を見いだすことができた。これらの問題から解決したい課題を設定し、大きなランチマットを作ったり、替えの物を製作したりすることが期待できる(予想される)。

 このような家庭での実践を繰り返すことで、子どもたちは、「家族のことを考え、家庭生活をよりよくしたい」という思いをもち続け、課題を解決する力と生活をよりよくしようと工夫する実践的な態度が養われていくと考える。5年生では家庭、6年生では学校や地域などへと実践の場を広げることで、よりよい生活を築いていくには、自分と家族、地域の人々との関わりや協力が大切であることにも気付くことができると考えられる。

【家庭科の学習展開】

 家庭科の学習対象は、家族や家庭、衣食住、消費や環境などの生活事象であり、日常生活そのものである。調理、製作等の実習や観察、調査、実験などの実践的・体験的な活動を通して、実感を伴って理解する学習を展開することを大切にしたい。

 家庭科と言えば調理や製作などの実習を行う学習と考えがちだが、作り方を知り作ることだけが学習のねらいではない。直接的な体験を通して、調理や製作等の手順の根拠について「なぜそうするのか」と考えることが科学的な理解につながり、知識及び技能の習得が確かなものになると考える。

 また、家庭生活を支える仕事をする喜びや、自分が作品を完成させたという達成感から、知識及び技能を習得する意義を実感することができる。

 実態を踏まえた具体的な活動を設定し、下記のような一連の学習過程を通して、子どもたちが習得した知識及び技能を活用し、「思考力・判断力・表現力等」を発揮し、課題を解決できた達成感や、実践する喜びを味わい、次の学習に主体的に取り組むことができるようにする。小学校で学ぶ2学年間を見通して、このような学習過程を工夫した題材を計画的に配列し、繰り返し学ぶことで課題を解決する力を養うことが大切である。

 家庭科の学習を通して身に付ける知識及び技能などは、繰り返して学習したり日常生活で活用したりして定着を図る。学習したことを生かし、家庭で継続的に実践できるようにするためには、便りや授業参観等を通して家庭科の学習の意義や内容などの情報を提供し理解を得るなど、家庭との連携を積極的に図ることが大切である。その際、各家庭や子どもの状況が異なることを踏まえ、子どもたちが安心して学習に取り組み、自分の家庭生活を見つめることができるよう配慮する必要がある。

 家庭科は、普段の生活や社会に出て役立つ、将来生きていく上で重要であるなど、子どもたちの学習への関心や有用感が高い教科である。必要な知識及び技能を習得し、思考力・判断力・表現力を発揮して、生活をよりよく工夫しようとする、生きて働く家庭科の力を育てるような授業づくりを目指し、子どもたちの期待に応えたい。

(北海道小学校家庭科教育連盟 事務局次長 札幌市立東園小学校 教頭 近 香奈子)

※次回は、②「新しい家庭科~実践編」(シリーズ最終回)を掲載します。

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課題を解決しようとする子どもたち

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