新春インタビュー 道教委・佐藤嘉大教育長に聞く(道・道教委 2020-01-01付)
本道教育の将来展望を語る佐藤教育長
新年を迎え、道教委・佐藤嘉大教育長に、遠隔授業の効果的な展開、新学習指導要領の全面実施への対応、教員の働き方改革など、本道教育の展望を聞いた。
◆遠隔授業 より効果的に展開 住み慣れた地域で多様な学び
―広域分散型の地理的特性を有する北海道において、どの地域の子どもたちも質の高い教育を受けることができるよう、ICTを活用した教育環境を整備する必要が指摘されています。道教委としての遠隔教育における将来構想をお聞かせください。
将来にわたり持続可能で活力ある地域社会を築いていくためには、地域の発展を支える人材の育成が不可欠です。そのためには、広域分散型の本道において、どの地域、どの学校でも、等しく質の高い教育を提供していく必要がありますが、道立高校においては、多くの地域において小規模化が進み、生徒の興味・関心や大学進学などの進路希望に対応した教科・科目を開設することが難しい学校もあります。
このため、道教委では、平成20年度から、ICT機器を活用し、相互に情報の発信・受信のやりとりができる「遠隔授業」の取組を実施してきました。現在は、20校程度の小規模校に近隣協力校から、数学や英語などの授業を配信したり、生徒間の交流を行ったりするなどして、小規模校における教育活動の充実に努めています。
一方で、現在の遠隔授業の取組には、配信側の学校の都合などから、必ずしも十分な教科・科目を配信できていないことや、通常の授業と遠隔授業では、異なった授業方法が求められるため、授業準備に時間がかかるなどの課題がみられるところです。
道教委では、より効果的に遠隔授業を展開できるように配信機能の集中化を図り、質の高い教育の提供に向けた検討を進めています。
具体的には、道央圏に遠隔授業の拠点を設け、道内各地の小規模校に対し、生徒の進路希望や興味・関心に対応した教科・科目を、継続的かつ計画的に配信したいと考えており、例えば、大学進学を目指す生徒に対する習熟度別の数学・外国語の授業や、専門性の高い物理や化学、日本史や地理などの選択授業に加え、書道や音楽など芸術教科の授業の配信を検討しているところです。
高校の遠隔授業については、現在、庁内において様々な観点から検討を進めており、年度内を目途に一定の方向性を出していきたいと考えています。
道教委としては、次代を担う子どもたちが、住み慣れた地域で学びながら、それぞれの進路希望をかなえることができるよう、また、その結果として、ふるさとの発展に貢献する人材へ成長していくことができるよう、高校教育の充実に向けて取り組んでまいります。
◆学校の実情に応じ支援 新学習指導要領全面実施へ
―小・中学校の学習指導要領が改訂され、小学校においては、令和2年度から全面実施されます。道教委として、今後、どのように学校を支援していくのか、お聞かせください。
新学習指導要領は、小学校は令和2年度から、中学校は3年度から全面実施となりますが、その理念である「社会に開かれた教育課程」を実現するためには、新学習指導要領の趣旨や内容について、学校や教育関係者はもとより、保護者や地域住民等を含めて広く共有し、社会全体で子どもたちの成長にかかわっていくことが重要です。
そのため、各学校においては、子どもたち一人ひとりに生きて働く「知識・技能」、未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力」、学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」が身に付くよう、全教職員の協働によるカリキュラム・マネジメントの確立と、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善を進め、教育活動の質の向上に取り組むことが大切です。
道教委では、各学校がこうした取組を確実に進めることができるよう、各管内校長会の代表等を対象とした説明会や、全道6ブロックにおいて、教頭会や管内の各教科等の代表者等を対象とした「教育課程編成協議会」を開催するとともに、すべての小・中学校に教育課程の編成・実施の手引を配布するなどして、全教職員に新学習指導要領の理解が深まるよう努めています。
また、小学校で教科化となる英語教育や、小学校のプログラミング教育の充実に向け、道立教育研究所の研修講座などの充実に努め、教員の指導力の向上に取り組んできたところです。
今後、優れた教育実践事例などを広く普及して、各学校の実情に応じたきめ細かな支援に努めていきたいと考えています。
◆高校の魅力化に向け施策展開
―道内における人口減少、少子化が進む中、各地域において高校の存続が大きな課題となっています。道教委として「高校の魅力化」に向けた今後の施策についてお聞かせください。
中学校卒業者数の大幅な減少が進む中、道教委では、平成30年3月に「これからの高校づくりに関する指針」を策定し、広域分散型の本道において、地域における教育機会の確保や教育機能の維持向上の観点から、第1学年1学級の高校のうち、地理的状況等から再編が困難であり、かつ地元からの進学率が高い高校を地域連携特例校に位置付け、一定の条件のもと、存続を図ることとしたところです。
この地域連携特例校については、先ほどの質問でもお答えしましたが、ICT機器を活用した効果的な遠隔授業を展開することで、地元の中学生が進学したいと思う高校にしていきたいと考えています。
一方で、この高校の魅力化は、小規模校だけではなく、すべての高校において取り組む必要があると考えています。グローバル化の進展や絶え間ない技術革新など予測不可能な未来社会において、子どもたちには、変化を前向きに受け止め、自立的に生き、社会の形成に参画するための資質・能力が求められており、これらの資質・能力の育成に向け、すべての学校が取り組まなければなりません。
各道立高校では、学校と地域が連携した高校の魅力化に資する取組として、地域と一体となった学校運営を進めるためのコミュニティ・スクールの導入や、地域の課題を発見し、それを解決するための実践研究などの特色ある授業を展開しています。
道教委としては、今後とも、地域の教育資源を活用した特色ある教育活動の推進や遠隔システムを活用した教育課程の一層の充実に取り組むとともに、普通科の見直しなど、新時代に対応した高校改革も注視しつつ、地域の特性を活かした活力と魅力ある高校づくりを進めてまいります。
また、こうした高校改革を推進するに当たっては、強いリーダーシップやマネジメント能力をもち、これまでの経営手法にとらわれず、より積極的に学校経営に取り組む校長が必要であると考えており、令和2年度の校長人事に向け、広く庁内から人材を公募し、学校改革に意欲とアイデアをもった校長を選考するという新しい取組を進めることとしています。
◆働き方改革 実効ある取組を
―教員の働き方改革について、道教委の今後の方向性を伺います。
学校における働き方改革は、教員の長時間勤務の縮減はもとより、教員が日々の生活の質や教職人生を豊かにすることで、専門性や人間性を深め、子どもたちに対して効果的な教育活動を行うことによって、教育の質を高めることを目標に取り組んでいるものです。
そうした中、学校閉庁日や部活動休養日の設定などに取り組んできましたが、勤務時間外の電話対応や勤務時間の客観的な把握などの取組は十分とはいえない状況となっております。
道教委としては、民間コンサルタントの提案を受けた業務改善の取組や出退勤管理システムの道立学校全校への導入など北海道アクション・プランに掲げた目標達成に向けて、引き続き実効性のある取組を進めてまいりたいと考えています。
◆新しい時代切り拓く子ども育成 学校・家庭・地域・行政が一体で
―北海道教育の将来展望や将来を担う子どもたちへの期待についてお聞かせください。
平成から令和へと時代は進み、北海道は、命名から150年の時を経て、新たな時代を迎えました。グローバル化が一層進展し、IoTやAIが新たな価値を生み出すSociety5・0が到来しようとしています。人口減少下にある本道が、将来にわたって持続的に発展していくためには、地域を支える人材の育成を担う教育の役割が、ますます重要になってくると考えています。
この先の未来を担っていくのは、無限の可能性を秘めた子どもたちです。本道の子どもたちがそれぞれの夢をもち、その実現に挑戦しながら、自らの可能性を発揮し、幸福な人生とよりよい社会の創り手となる力を身に付けることが重要です。
一方で、昨年も全国各地で、通学途中での事件・事故や児童虐待の事案が数多く発生しています。子どもたちが安心して学校生活を送り、悲惨な事件・事故から守ることができるよう、家庭や関係機関等とさらなる連携強化をし、安全確保に向けた気運の醸成や体制整備の確立に努めてまいります。
また、昨年は台風19号をはじめ、日本各地で自然災害が多く発生しました。本道においても、一昨年9月に北海道胆振東部地震が発生しており、さらなる防災教育の充実を図ってまいります。
道教委としては、子どもたちが様々な社会変化にも果敢に挑戦し、新しい時代を力強く切り拓いていくことができるよう、学校・家庭・地域・行政が一体となって、子どもたちの成長を共に担っていくことが重要であると考えております。
今後とも、皆様と緊密な連携を図りながら、本道教育の充実・発展に向けて全力で取り組んでまいりますので、変わらぬご理解とご協力をお願いいたします。
―ありがとうございました。
(道・道教委 2020-01-01付)
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