第64回高校定通制生活体験発表 ニセコ・中鉢さん最優秀 感染防止で初の動画審査
(関係団体 2020-11-02付)

 道高校長協会定通部会(元紺谷尊広会長)は10月22日、札幌東高校で第64回道高校定時制通信制生徒生活体験発表大会を開いた。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、本年度は事前に収録した動画を視聴して審査。動画は各地区の代表生徒12人が日常生活の中で感じた思いを発表。母親の再婚による環境の変化に思い悩んだ経験を語ったニセコ高校3年・中鉢蒼さんの発表「私、適当でも大丈夫」が最優秀賞に輝いた。

 開会式では元紺谷会長があいさつ。

 新型コロナウイルス感染拡大の防止の観点から、初めて映像で審査することについて、「生徒の皆さんがカメラに向かって自らの生活を振り返り、逆境を乗り越えた経験を発表する姿をしっかりと見届けたい」と述べた。

 審査の結果、母親の再婚に伴う生活環境の変化に思い悩んだ経験を高校生活の中で克服したことを発表したニセコ高3年の中鉢さんが最優秀賞、アルバイトや生徒会における人間関係のつながりについて語った有朋高校4年の岡田暁子さんが優秀賞に輝いた。

 中鉢さんと岡田さんは11月の第68回全国高校定時制通信制生徒生活体験発表大会に出場する。

 大会結果はつぎのとおり。=敬称略=

▽最優秀賞=「私、適当でも大丈夫」(ニセコ3年・中鉢蒼)

▽優秀賞(第2位)=「つながり」(有朋4年・岡田暁子)

▽優秀賞(第3位)=「自分らしく」(札幌東3年・我妻菜摘)

▽奨励賞(第4位)=「苦難を乗り越えた先に…」(札幌北3年・野村彩未)

▽奨励賞(第5位)=「両親への感謝」(天売3年・柳原玲央)

▽奨励賞(第6位)=「ささやかな願い」(函館商業4年・野呂いちな)

 道高校長協会定通部会主催の第64回道高校定時制通信制生徒生活体験発表大会で最優秀賞を受賞したニセコ高校3年生・中鉢蒼さんの「私、適当でも大丈夫」の発表内容はつぎのとおり。

◆「私、適当でも大丈夫」 ニセコ高3年・中鉢蒼

 「萩原さん」「はぁい!」。

 生まれてから12年間は「萩原」と呼ばれた。しかし、その呼ばれ方は、酒浸りだった父の命と共に、あっけなく私の世界からなくなってしまった。

 長女だった私は、周囲の大人たちに「蒼ちゃんはしっかりしてるから、お母さんも安心ね」とよく言われ、それに応えなければならないと思うようになっていた。ストレスからくる爪を噛む癖は私の両手を無意識のうちに深爪にした。

 「石橋」「はい」。

 中学に上がると、母の旧姓を名乗ることになった。周囲の気を使うような目線にも息が詰まった。

 そんな中、母の再婚話が浮上した。新たに3人の兄弟ができ、私たちは5人兄弟になる。しかも、その1人はよく知っている同級生だった。

 私はこの再婚話に猛反対した。「再婚をみんなに知られたくない。新しい変化なんていらない」。14歳の心には重すぎる現実だった。

 「中鉢」「はい」。

 高校入学と同時に母は再婚。こうなると自分にとっては「苗字」の意味も価値もなくなり、記号としての役割しか果たさないようになっていた。ストレスで髪の毛がどっさりと抜け落ち、体重は3ヵ月で10キロも落ちた。息苦しさも増すばかり。兄弟間で立て続けに問題が起こり、3年経った今でもまだ気安く口を利けずにいる。

 「子連れ再婚をした家族」を意味する「ステップファミリー」という言葉を、高校の家庭総合の授業で知った。私たち家族は周りとは異なる形態だということは実感していたが、一つの家族の在り方として認められている。そのことが私を安心させてくれた。

 そして、苗字は、自分が家族の一員であるということを強く意識させてくれる。それは、家族の絆を保つために、やはり必要なのだと感じた。

 高校1年生のころの私は酷い目つきをしていたと我ながら思うし、実際、よく友人たちから「蒼、目が怖い」と言われた。

 それを隠すために、伊達眼鏡をかけ始めた。反射の強い眼鏡レンズが、私の息苦しさを少しだけ楽にしてくれていた。

 眼鏡をかけ始めたのと同じ時期、総合実習の授業の一環である専攻班活動が始まった。専攻班とは、グループに分かれて、地域課題の解決やそのための研究活動を行う学習で、全校に活動を報告する機会が年に何度かある。

 1年次から個人でやっていた小さなプロジェクト活動が、やがて私の所属する班全体で取り組む主軸となり、私が班長を務めることになった。しかし私は、断られることに怯え、人に頼ることができず、1人で仕事を抱え込むようになった。

 2回目の報告会。原稿書きからスライド作成、発表までのすべてを掛け持ちしようとした。

 しかし、到底間に合うわけがない。おまけに、活動報告会当日、スライド用のUSBが破損して完成データが飛ぶというトラブルに見舞われた。古いデータを使って何とかスライドをつくり直そうとした。昼食も取らずに半べそをかきながらパソコンに向かう私を見て、班員たちはきっと情けなく思ったのだろう。

 ついに泣き出してしまった私を抱きしめ、「1人でそんなに抱え込みすぎなくていいんだよ。もっと私たちを頼っていいんだよ」と言ってくれた。そう言われた瞬間、涙があふれ出た。そして、涙と一緒に今まで抱えてきた暗く重たいものが流れ出たような気がした。私は、仲間たちとあえて距離を取り、頼らないことで自分の心を守ろうとしていた。

 しかし、それは結果的に仲間たちを傷つけ、自分自身も傷つけていたことを知った。「頼ってもよかったんだ。甘えてもいいんだ」。私の中でその気持ちは驚くほどすとんと落ちた。呼吸がすっと軽くなった。

 この出来事以降、私は高校生活を送る中で、何に対しても少し“適当”になったように感じる。

 それは“いい加減”という意味ではなく、“完璧を求めすぎない”ということ。そばにいてくれる仲間がいるのだから頼ってもいい、支えてくれる人がいるのだから甘えてもいい。その事実が、私を生きやすくし、“適当”にしてくれた。

 苗字が変わるたびに自分の存在意義を否定されたように感じ、母の再婚による環境の変化に心を病んだ。しかし、その変化は仲間との新しい関係性をもたらしてくれた。自分の悩みや問題を相談できるようになった。新しい兄弟に対する意識も、よい方に変化しつつあるのも間違いない。

 「中鉢」「はい!」。

 私はもう息苦しさを感じない。

(関係団体 2020-11-02付)

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