令和の教育実現へ少人数学級早急に 文科相が年頭所感
(国 2021-01-07付)

文部科学大臣萩生田光一
萩生田光一文科相

 萩生田光一文部科学大臣は令和3年の年頭所感で、個別最適な学びと協働的な学びを実現する「令和の日本型学校教育」の実現に向け、小学校全学年における少人数学級の取組を早急に進める考えを示した。1人1台端末の本格運用に向けては、ハード・ソフト・人材一体で学習環境を整備。デジタル教科書の普及促進、学校現場を支援する外部人材の配置を進め、働き方改革の成果を出すために文部科学省が先頭に立って取り組んでいくとした。概要はつぎのとおり。

【はじめに】

 令和3年の年頭に当たり、謹んでごあいさつ申し上げます。

 昨年は新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大という、年頭には多くの人が予想していなかった事態に見舞われる大変な1年となりました。まず、この災禍によって貴い命を落とされた方々や大切な方を失った方々に対し、心から哀悼の意を表します。

 現在も新型コロナウイルス感染症は止むことなく続いていますが、昨年は文部科学行政の分野においても、学校の一斉臨時休業をはじめ種々の緊急的な方策を取ることとなり、関係の皆さんに多大な尽力をいただきました。あらためて心からお礼を申し上げたいと思います。

 今なお予断を許さない状況が続きますが、学校現場への人的・物的支援を通じて、子どもたちの安全・安心な学びの場を確保し、感染拡大防止と学校教育活動の両立に努めてまいります。

 引き続き、国民の皆さんのご理解とご協力をいただけるようお願い申し上げます。

【教育】

 少子化の進展や子どもたちの多様化、加速度的に進展する社会の情報化・デジタル化への対応の遅れなど、今日の学校現場は様々な課題に直面しています。このような課題に対応するためには、多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく、すべての子どもたちの可能性を引き出す教育へと転換し、「令和の日本型学校教育」とも言うべき個別最適な学びと協働的な学びを実現する必要があります。

 GIGAスクール構想のもと、本年4月からの義務教育段階のすべての子どもたちに対する1人1台端末の本格的な活用が始まるのに加え、この取組の効果を最大化する少人数学級の取組を進めるため、地方6団体や教育関係団体をはじめとする学校現場からの多数の要望と後押しもいただき、約40年ぶりに学級編制の標準を引き下げることとしました。

 具体的には、来年度から5年間かけて、小学校の学級編制の標準を現行の40人から35人に引き下げ、約1万4000人の教職員の定数改善を図っていくこととし、本年の通常国会における義務標準法の改正に向けて準備を早急に進めてまいります。

 このことによって、ICTも活用しつつ、子どもの反応や理解度に応じた指導や、障がいなどの教育的ニーズに応じた指導、協働学習等の学習活動・機会の充実等のきめ細かな指導が可能となり、それを通じた学力・学習面への効果が期待できるだけでなく、個々の子どもの抱える課題への丁寧な対応など生徒指導面の充実や、家庭とのより緊密な連携など、保護者との連携強化等にもつながると考えております。

 また、昨年の学校の一斉臨時休業中においても、実際にオンラインでの指導を実施することができた学校は決して多くはありませんでした。令和の時代にあって、デジタル化の推進は、質の高い教育を実現する上で必要不可欠です。義務教育段階のすべての子どもたちに対する1人1台端末の本格的な活用が始まる中、高校進学後も同様の条件で学べる環境が整うよう、各自治体と協力して取り組んでまいります。

 デジタル教科書は、現行の使用基準の見直しを含め、デジタル教科書の今後の在り方等について有識者会議において議論いただいております。本格的な導入を目指している6年度の小学校用教科書の改訂までの間においても学校現場における使用が着実に進むよう、児童生徒等の発達段階を考慮しつつ普及促進を図ってまいります。

 GIGAスクール構想の実現に向け、ハード・ソフト・人材が一体となった学びの環境整備を引き続き進めてまいります。

 さらに、学校現場の先生方には、日々、感染症対策と教育活動の両立に向けて、使命感をもって取り組んでいただいております。一昨年に給特法を改正し、本来であれば昨年いよいよ働き方改革がスタートというところ、新型コロナウイルス感染症の感染拡大という異例の状況に見舞われ、取組を進めることが難しくなったものと承知しております。

 しかしながら、感染症対応のために学校における働き方改革が頓挫することがあってはなりません。このため、外部人材の配置支援などを行うとともに、改正給特法の趣旨も踏まえつつ、引き続き、国・学校・教育委員会があらゆる手立てを尽くして成果を出していけるよう、文部科学省が先頭に立って取り組んでまいります。

 児童生徒を守り育てる立場にある教師が、児童生徒に対してわいせつ行為を行うようなことは、決してあってはなりません。今後ともそのために必要な対策を講じてまいります。

 大学においては、全国で新型コロナウイルス感染症への対応が進められる中で、遠隔授業の実施にいち早く取り組むなど、学びを止めないための工夫がなされてきました。他方、大学における授業の在り方については、学生や保護者などから多数の問い合わせをいただいており、対面授業が十分に実施されていないことなどについて、特に本年度入学した1年生などから多くの疑問が寄せられているところです。

 コロナ禍にあっても質の高い学修機会を確保することは、大学等の高等教育機関の使命であり、感染対策を講じつつ、学生が納得する対応・工夫を行っていただくことが求められております。文部科学省としては、このことも踏まえ、各大学における取組の参考となるような好事例の収集・発信を行いつつ、引き続き対面授業と遠隔授業を組み合わせた質の高い学修機会の確保を促してまいります。

 直前に迫った3年度の大学入学者選抜についても、共通テストでは複数の受験機会を確保するとともに、個別学力検査での受験機会の確保や出願範囲の配慮について大学関係者に強く求めるなど、このコロナ禍において受験生が安心して受験できるよう、受験生第一の立場に立って受験機会の確保や感染症対策を進めてまいりました。受験生の皆さんがいかんなくその実力を発揮できるよう心から願っております。

 また、英語4技能評価や記述式問題を含め、ウィズコロナ・ポストコロナ時代の大学入試の在り方について議論を進め、大学入試改革の推進に引き続き取り組んでまいります。

 Society5・0に向けた人材育成やイノベーション創出の基盤として、大学等への期待は高まるばかりです。基盤的経費を安定的に確保しつつ、教育、研究、ガバナンスの一体的改革を推進し、高等教育の質の向上と教育研究基盤の強化を図ってまいります。

 中でも国立大学は、社会変革を先導し、社会や地域のニーズに応えるとともに、社会や地域から支えられる存在になることが重要です。このため、国と国立大学法人との関係やガバナンスの見直し・経営の自由度を高めるための規制緩和等の必要な制度改正などを通じ、国立大学法人の戦略的経営を実現してまいります。

 こうした施策と併せ、家庭の経済事情に左右されることなく誰もが希望する質の高い教育を受けられるよう、幼児期から高等教育段階までの切れ目ない形での教育の無償化・負担軽減を着実に実施する必要があります。

 幼児教育・保育の無償化、私立高校授業料の実質無償化、高等教育の修学支援新制度の制度の周知とその円滑な実施等に全力で取り組むとともに、新型コロナウイルス感染症による影響を受けた学生を含め、引き続き、学生等が進学・修学を断念するようなことがないよう、必要な支援措置を講じてまいります。

【科学技術イノベーション】

 ポストコロナの新しい社会構造への転換に向け、デジタル化と脱炭素社会の実現は両輪であり、科学技術イノベーションの重要性が増しています。文部科学省として、令和3年度から始まる新しい科学技術・イノベーション基本計画の策定に積極的にかかわっていくとともに、Society5・0の実現に向けて全力で取り組んでまいります。

 具体的には、研究のデジタルトランスフォーメーションの推進に向けて、研究データの戦略的収集・共有、AI・データ駆動型研究の推進、研究施設等のリモート化・スマート化、次世代情報インフラの整備を進め、コロナ禍でも研究を止めることなく革新的な研究成果の創出に取り組んでまいります。

 また、2050年までに脱炭素社会を実現するため、昨年末に策定されたグリーン成長戦略に基づき、次世代蓄電池をはじめとする脱炭素化技術や、革新的なパワーエレクトロニクスなどの省エネ技術の実用化に向けた研究開発を推進してまいります。

 科学技術イノベーションを担うのは“人”であり、特に博士課程学生を含む若手研究者への支援の強化が重要です。

 博士課程学生が生活面での心配をすることなく、研究に打ち込めるよう、研究力強化・若手研究者支援総合パッケージの目標値である約1万5000人に対し研究費や生活費相当額を支給するなど、処遇の向上を目指すとともに、優秀な若手研究者へのポストの重点化などに取り組んでまいります。

 また、若手研究者を中心とした多様な研究者が自由で挑戦的な研究に腰を据えて取り組めるよう、研究支援の充実にも取り組んでまいります。

 さらに、大学等の研究力強化に向けて長期・安定的に世界レベルの研究基盤の構築を支援するため、10兆円規模の大学ファンドを創設し、運用益による若手研究者の育成をはじめ、大学等の共用施設やデータ連携基盤の整備など、具体の支援が速やかに開始できるよう取り組んでまいります。

 昨年12月、はやぶさ2のカプセルが地球に帰還し、はやぶさ2のミッションが完璧な形で達成され、明るい話題として多くの国民に力を与えてくれました。あらためて、はやぶさ2関係者の皆さんの献身的な御努力に敬意を表します。

 宇宙・航空分野では、本年秋に、新しい日本人宇宙飛行士の募集を行う予定です。さらに、米国提案のアルテミス計画に参画し、日本人史上初の月面着陸の実現を目指してまいります。

【スポーツ】

 スポーツには、体を動かし楽しむだけでなく、人々を夢中にさせ感動させる力があります。

 1年延期された東京オリンピック・パラリンピック競技大会を人類がウイルスに打ち勝った証として安全・安心に開催するため、その先も見据えて、文部科学省としても全力で取り組んでまいります。

 また、コロナ禍において安全・安心にスポーツ活動を実施・継続するための環境整備やデジタル社会の進展を見据えた新たな展開等も視野に、トップアスリートの競技力強化、アスリートのセカンドキャリア形成支援、スポーツを通じた健康増進や社会・経済の活性化、障がい者スポーツの振興、学校体育の充実、スポーツ団体の経営力の強化・インテグリティの確保に取り組むとともに、東京大会後のレガシーを継続・発展させるための第3期スポーツ基本計画の検討に着手してまいります。

【文化芸術】

 文化芸術は、わが国のアイデンティティを形成する源であり、無限の可能性を秘めた、世界に誇るべき重要な資源です。

 今こそ、人々の心を癒やし、勇気づける文化や芸術の力が強く求められており、新たな日常における文化芸術関係団体等による積極的な活動の支援や文化施設のコロナ禍の新たな活動に向けた環境整備への支援をはじめ、文化芸術活動に対する支援を力強く行ってまいります。

 インバウンド観光需要の回復に向けた反転攻勢への基盤の整備や、国内観光需要の喚起にも資するよう、日本博を一層強力に推進するとともに、日本遺産をはじめ、地域の文化資源の磨き上げ、文化施設の機能強化や地域一体となった文化観光の推進への支援、子どもたちの文化芸術体験の推進、文化財の防火・防災対策等を通じて、伝統文化から現代芸術まで幅広い文化芸術による国づくりをオールジャパンで推進し、日本文化の魅力を積極的に国内外へ発信してまいります。

【終わりに】

 文部科学省が担う教育再生や科学技術イノベーション、スポーツおよび文化芸術の振興は、わが国の未来を切り拓く取組の中核であり、このコロナ禍においても、決して歩みを止めることが許されないものです。

 文部科学行政の推進に向けて、引き続き全力で取り組んでまいります。

(国 2021-01-07付)

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