道教委・倉本博史教育長インタビュー ICT活用 心のケアに努め コロナ禍の学びを保障(道・道教委 2021-09-02付)
倉本博史教育長
道教委は、新型コロナウイルス感染症を踏まえた学びの保障など山積する諸課題に対し、各種施策を展開している。本紙では、ことし6月に就任した倉本博史教育長に教育諸課題への対応や今後の展望を聞いた。倉本教育長は、コロナ禍における学びの保障や教育の機会均等のため、学校・家庭・地域・行政の一層の連携が必要と指摘。ICT活用に向けた支援体制の整備、不安を抱える児童生徒の心のケア、学力・体力の向上に向けた授業改善の推進などの施策に努めていく考えを示した。
―就任に当たっての抱負
コロナ禍という異常事態への対応や、新学習指導要領の本格実施など、教育は大きな転換点に来ていると思います。そうした中で教育長という重い責任のある職務に就くことに強い緊張感をもっています。
まずは、コロナ禍でも落ち着いた環境で学びができるよう、感染症対策と学びの保障を両立させなくてはなりません。同時に、人口減少の進行と広域・分散という北海道の特性を踏まえ、教育の機会均等が道教委の重要な使命と考えています。
そのためには、学校はもとより家庭・地域・行政が連携して取り組む体制づくりをさらに強める必要があります。ICTの活用はもちろん、学校教育と社会教育の連携・協働も重要です。地域での学習や卒業後の学び、子どもと大人がともに学ぶ環境も重要になっています。
学ぶ楽しさを実感できる環境も大切です。目標への挑戦には困難が伴いますが、できなかったことができる喜び、知らなかったことを理解する楽しさを実感できる教育を目指したいと思います。
―コロナ禍における学びの保障と心のケア
まずは、文部科学省の衛生管理マニュアルに基づき、児童生徒が安心して学べる環境づくりを徹底することが重要です。万が一学校で陽性者がでた場合、保健所と連携して対応し、必要な場合に学級・学年・学校閉鎖を実施することになりますが、ICTを活用して子どもたちの学びを保障することが大切と考えています。
学校現場では様々な苦労のもとで学びの保障に工夫して取り組んでおり、2~3年前と比較できないほど対応力が向上していると思います。一方、ICTの活用力に関しては個々の教員の経験差もあり、これまで以上の支援が必要です。
ICT活用ポータルサイトでは、ICTを活用した授業モデルなど授業のヒントとなるコンテンツを提供しており、ICT活用サポートデスクで学校や教育委員会からの相談を受け付けています。より高度な相談に対応するため、8月からはGIGAスクールサポーターによるヘルプデスクを開設しました。今後も一層の支援体制の整備に努めていきたいと思っています。
また、感染症の影響で様々な不安・悩みを抱える児童生徒の心のケアも重要です。子ども相談支援センターでは24時間体制で相談に対応しており、若い人に活用しやすいLINEを活用した相談窓口「ほっかいどうこどもライン相談」でも相談を受け付けています。今後も相談のハードルが下がるよう工夫し、学校にはスクールカウンセラーを派遣するなどの対応をしていきます。
さらに、感染拡大を防ぐには家庭や関係機関の連携が不可欠です。夏季休業前には、期間中における対策を徹底するため、道PTA連合会など3団体との連携による啓発動画を作成しました。今後も関係機関との連携を深めていきたいと思います。
―児童生徒の学力・体力の現状とその対策
学力には様々な面があり、基礎的な知識・技能、思考力、判断力、表現力、主体的に学ぶ態度などバランスよく高めることが重要です。
新型コロナウイルス感染症の影響などによって2年ぶりとなる令和3年度全国学力・学習状況調査の本道の結果については、すべての教科で全国平均に届いていない状況にあるものの、中学校においては、2教科ともに全国の平均正答率との差が縮まるなど改善の傾向がみられます。一方、小学校においては、2教科ともに全国の平均正答率との差が広がるなどの課題がみられます。
しかし、本当に重要なことは、子どもと教員が一人ひとりの課題や強みを把握し、より良い方向に高めることだと考えます。道教委は「ほっかいどうチャレンジテスト」を各学校に配信していますが、児童生徒の個々の状況を把握し、改善を図るために活用してほしいと考えています。
近年、教員の教える技術は大きく向上していると感じています。一方で人によって得意・不得意な部分もあり、授業改善の工夫が必要です。道教委の授業改善推進チーム活用事業では、授業力に優れた教員がチームを組んで各学校を回っており、今後も授業力の向上を図っていきたいと思います。
さらに、鍵となる管理職やミドルリーダー教員のための研修を実施し、教員一人ひとりの課題を把握した上で、全体の底上げを図りたいと思います。
本道の子どもたちの体力に関しては、握力の平均値が全国を上回る一方、走力を中心に各種目の平均値が低い状況にあります。運動能力は人それぞれであり、均一にする必要はないと思いますが、寒冷地ゆえか北海道では日常的な運動が不足していると感じています。
道教委では、体づくりの基礎となる小学校で体育の専科教員を配置しているほか、体育エキスパート教員の配置・巡回によって、体育授業の取組の充実を図っています。体力向上に向けては、縄跳びの新記録に挑戦する「どさんこ元気アップチャレンジ」を実施しています。
高校のダンス部や道内のスポーツ団体の協力のもと、リズム運動の動画教材「みんなでムーブ(みんムー)」の制作を進めており、9月の公開を目指しています。感染症の影響で平時より制約があるかと思いますが、日常生活の中で体力を向上する取組を進めます。
―教員の確保に向けた方策
教員不足は全国的な課題となっています。人材の不足、勤務時間の長さのほか、道内では広域で小規模な学校が多いイメージがあるなど、様々な要因があると考えています。
受検者拡大に向け、元年度から東京都内に公立学校教員採用候補者選考検査1次検査の試験会場を設置しましたが、今後も継続したいと思います。
何よりも、多くの人々が教員を希望してもらえるよう、学校における働き方改革に真剣に取り組む必要があります。単に勤務時間を縮減するのではなく、子どもと向き合う時間や授業準備の時間を確保すること、そのための業務の整理・見直しが重要です。本年度策定した北海道アクション・プラン(第2期)で示す「個の“気付き”」「チームの“対話”」「地域との“協働”」を踏まえ、学校における働き方改革をさらに徹底したいと思います。
教職員の時間外在校等時間に関しては徐々に減少している一方、業務見直しの効果が実感できるよう、取組を一層進める必要があります。
また、教職の魅力向上のため、教員がやりがいのある仕事であることを上手にPRしたい。前年度から開始した草の根教育実習では、へき地・小規模校における教員実習の経験が大変好評であり、本年度は幅を広げて取り組む予定です。
8月には高校生を対象とした教員養成セミナーを開催し、想定を大きく上回る340人の生徒が参加を希望してくれました。高校生の段階で教職への関心をもってもらえるよう、今後も継続・拡充して取り組みたいと考えています。
―防災教育の充実
災害時において児童生徒が自らの命を守る力を育てることは大変重要で、本年度は1日防災学校の対象を小・中学校のほか、幼児教育施設、高校、特別支援学校へと拡大しました。
10月15日には、元年開催の世界津波の日 高校生サミットのレガシーを受け継ぎ、高校生防災サミットをオンラインで開催します。全道14管内から高校27校、約80人の生徒が参加し大学教授や防災関係機関による講演、分科会協議を行うほか、高校生の視点で防災に関する提言をまとめる予定です。同年代の生徒の考えをつなぎ、防災教育を進めていきたいと思います。
―北海道教育の将来展望
いわゆるSDGs(持続可能な開発目標)ですが、今後、北海道における持続可能な社会を実現するためには、本道ならではの自然、食資源、地域の特色といった多様性が不可欠です。そのための教育における鍵の一つは「地域と学校の連携・協働」と考えています。身近にある地域資源を活用し、地域住民と学校による学びをこれまで以上に充実することが重要です。
もうひとつの鍵は「ICT」です。小規模校ではきめ細かな教育が可能となる一方、多くの人の意見にふれる機会が少なかったり、個人の進路希望に応じた学習を提供することが難しいなどの課題がありました。
それを補うのが遠隔教育です。本年度から高校遠隔授業配信センターが本格稼働となり、地域連携特例校などへの遠隔授業の同時配信を行っています。ICTを活用した双方向通信やオンデマンド教材を効果的に活用することで、小規模校のメリットを生かした教育が可能となります。今後は小規模校、地域と都市部、道外の学校との遠隔交流も可能になると思います。
北海道には美しい自然、豊かな食、地域の多様性など豊かなフィールドがあります。北海道がもつ資源を、子どもたちの生きる力、学ぶ楽しさにつなげていければと思います。
くらもと・ひろし
昭和60年東京大学文学部卒。平成25年経済部産業振興局環境・エネルギー室長、27年経済部次長、30年経済部長、令和2年総合政策部長を務め、ことし6月1日付で現職。
昭和36月5月29日生まれ、60歳。東京都出身。
(道・道教委 2021-09-02付)
その他の記事( 道・道教委)
道教委等 初の高校教頭職アンケート 一般職 7割業務軽減を 現職は多様な雑務等に苦労
道教委等 初の高校教頭職アンケート 一般職 7割業務軽減を 現職は多様な雑務等に苦労 教頭職を務めるための環境整備として、一般職員の7割が「業務量の軽減削減」を挙げていることが、道教...(2021-09-03) 全て読む
白老東高 CLASSプロジェクト指定校 地域の課題解決へ一丸 コンソーシアム会議開く
【室蘭発】道教委の本年度新規事業「北海道CLASSプロジェクト(地学協働活動推進実証事業)」研究指定校の白老東高校(高野隆広校長)は8月24日、同校で第1回コンソーシアム会議を開催した。戸...(2021-09-03) 全て読む
当別高 CLASSプロジェクト計画案 教科等横断的な学習展開 コンソーシアム設置し取組検討
道教委が本年度から3ヵ年で進める道CLASSプロジェクト推進校の当別高校(宮本匠校長)は、事業計画案をまとめた。総合的な探究の時間「当別TANKYUプラン(仮称)」を軸に、理科や地歴・公民...(2021-09-02) 全て読む
4年度文科省予算概算要求 新任校長向け研修計画 6千人対象に動画配信
文部科学省は、令和4年度から3ヵ年計画で、新任校長向けハイブリッド型研修の実施を計画している。4年度予算概算要求に2000万円を計上。全国の新任校長約6000人を対象に講習動画を配信するほ...(2021-09-02) 全て読む
道教委 部活動等感染症対策連絡会議 集団感染防止へ情報共有 中澤局長 一層の対策徹底を
道教委は8月27日、部活動・クラブ活動・少年団活動等感染症対策連絡会議をオンライン開催した。部活動など新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため初めて開催したもので、道内の関係機関・団体の関係者...(2021-09-02) 全て読む
道教委・道高校長協会 教頭育成指針 新たに候補者リスト 地域限定異動導入など検討
道教委と道高校長協会(廣田定憲会長)は、高校における教頭候補者の育成に向けた行動指針を策定した。意欲と能力のある人材の管理職登用促進に向け、道教委、各校長、道高校長協会の具体的な取組を示し...(2021-09-02) 全て読む
道教委 全国学力調査結果の概要 ICT活用平均以上 臨休中の学習等 全国下回る
道教委が8月31日に発表した本年度全国学力・学習状況調査の本道分結果の概要はつぎのとおり。 【教科に関する調査】 ▼小学校国語 小数値でみると、平均正答率は63・2%。全国との差は...(2021-09-02) 全て読む
感染防止徹底を注意喚起 胆振局 学びの保障の準備も
【室蘭発】胆振教育局は、管内の公・私立高校長および市町教委教育長に対し、新型コロナウイルス感染症の管内における状況説明や感染防止徹底について注意喚起した。室蘭保健所と連携して行ったもの。8...(2021-09-02) 全て読む
上川管内学校等の文科省・道教委指定事業 文科省7 道教委19事業 上川局 東神楽で学園制加配活用事業
【旭川発】上川教育局は、管内の道立学校、市町村における本年度の文部科学省および道教委の指定事業をまとめた。文科省で7事業、道教委で19事業の計26事業。文部科学省の学園制加配活用事業に東神...(2021-09-01) 全て読む
道教委 3団体の要望に回答 オンライン形式の調査など 教職員の業務負担軽減へ
道教委は、道高校長協会(廣田定憲会長)、道高校教頭・副校長会(伊勢一哉会長)、道公立学校事務長会(岩間淳会長)の令和4年度道文教施策に関する要望に対する回答をまとめた。教員の指導用端末を計...(2021-09-01) 全て読む