道倫研 第56回研究大会 楽しく学べる「公共」を 函館水高の柚原教諭が発表
(関係団体 2022-08-29付)

 道高校「倫理」「公共」研究会の第56回研究大会(8月上旬、オンライン、26日付2面既報)では、函館水産高校の柚原航太教諭と札幌創成高校の渡辺祥介教諭が公共の授業実践を発表した。柚原教諭は「公共の授業実践~教科指導と生徒指導の間で」と題し「勉強が苦手・分からない」という生徒たちが興味を持ち、楽しんで学べるような導入資料の提示や価値観を揺さぶる発問、身近な事例で「自分事」として考える授業など、実際に公共の授業を進める上での数多くの工夫点を紹介した。概要はつぎのとおり。

 本校生徒の社会科の入試平均点は20~30点、学力段階は主にH~Jランクである。1年生は指導の前段階としてのしつけや授業規律の徹底などを図らなければならないのが実態である。

 そこで、公共という科目の特性・内容を鑑み、1年生で履修することとした。「勉強が苦手」「勉強のやり方が分からない」という生徒が多いため、生徒がどうしたら勉強に興味を持ち、楽しんで学べるかを考え、授業の軸を設定した。

 授業の軸は2つ。1つは「面白い!」「もっと知りたい!」「調べたい!」と思える導入資料の提示。必ずグラフや写真を冒頭で提示するようにしている。

 チャイムが鳴ってもまだ生徒は休み時間モードで、席に着いていない生徒もいる中で「何だこれ?」と興味を引くような資料を提示する。「ん?」「ホントか?」と価値観を揺さぶる発問で、生徒が自分で問いを立て探究できるようにしている。

 もう1つは、18歳成人を含む身近な事例を意識した授業。縁遠いことや難しい話ではなく「自分事」として考え、主体的に社会参画しようとする素地を養いたい。

 授業での留意事項は、①なるべく自分で「問い」(テーマ)を立てさせる―教師が与える方が簡単だが、生徒を受け身にしないことの方が大切。問いを立てやすいよう材料は示すが、問いはあくまで生徒が主体的に自分で立てる。

 ②「問い」を解決するための道具(知識と対話)のバランス―自分の知識や、教科書を調べるだけでは限界がある。そこで、他者の意見を取り入れることが大切と考え、対話を取り入れることとした。

 ③「問い」の答えを自分の言葉でまとめる―授業の終盤5分は必ず自分の問いに対し、自分の言葉で答えをまとめる。これは「主体的に学習に取り組む態度」として評価にも活用する。

 実際の授業の導入例では、日本の女性管理職の割合が13%と他国に比べ非常に低いことを示し、つぎに小学校1年生の担任は女性が7割だが、管理職は2割であることを示した。

 生徒は「何で逆転してんの?」となり、テーマを「なぜ女性管理職の割合は低いのか」などと設定した。その授業では「女性活躍推進法がないと活躍できないんですか?」といった社会の核心を突くような気付きがありうれしかった。

 また、2019年の道知事選の結果から、鈴木直道知事と対抗馬の石川知裕氏の得票率は6対4だったが、石川氏の地元・足寄町の結果は3対7で石川氏が圧勝していることを示した。

 生徒の問いは「多数決は本当に正しいのか」「多数決で注意することは何か」などとなった。

 つぎに思考実験について。実際に授業で行ったのは「子どもの性別や個性は親が決めて良いのか」「臓器移植は積極的にすべきか慎重を期すべきか」「利便性のためなら美しい景観はなくなっても良いのか」「トロッコの状況、あなたならどうする?」「安楽死は認められるべきか」など。

 思考実験のルールを年度当初に説明し、自分の考えを発言して良いんだ、必ずしも正解はないんだ、違う意見も受け入れようとする空気感の醸成を図った。

 「トロッコ問題をやるなら功利主義とカントは先に教えなくて良いのか」という声があると思うが、それは倫理で扱うことであり、公共では必要ないと判断した。また、先にそれを学習してしまうと「あの思想を書けばいいんだ」となってしまい、ゼロベースで考えられない。

 公共は、未知の課題と出合ったときにどう解決するかが大切。思想家の意見にも自分たちの力で出合うことが大切だと思う。

 新学習指導要領の公共の目標は、諸資料から適切に情報を調べまとめることとある。つまり公共では課題そのものをとことん追究するのではなく、課題はトピック的な扱いで良いと思う。

 なぜ公共の扉で思考実験を重視するか。運動部活動に例えると、第1編「公共の扉」は、第2編のための筋トレ・体力づくりで1学期に実施。第2編は練習として2学期に、第3編は1年間の成果(試合)として3学期に位置付けている。

 定期考査では授業で考えたことが生き、つぎの意欲につながるような問題を心がけている。生徒からは「授業そのままじゃん!」と言われるが、テスト一発勝負ではなく、日々の授業で勝負してほしいと考えている。

 教員視点で言えば、仮に考査がなくても評価材料が多いので、日常の取組で十分評価は付けられる。

 以上のように、本校における公共は、高校生活の導入と位置付け、「規律(指導)」と「成功体験(褒める)」のバランスを重視した授業を目標としている。

 また、本校では「倫理」は開講しないため、高校生活における道徳教育の要を担う科目としている。

 今後の展望だが、とにかく成功体験を積ませ、自分でやってみる、探究しようとする姿を見逃さず評価できるようにしたい。先生に一言声をかけられた生徒の目の輝きが変わることを私は実感した。

 また、主体的に社会参画しようとすることができる授業にしていきたいと思う。

 定期考査については作成方法、出題の仕方の研究を、評価方法については、生徒の学習改善となるように、そして教師の指導改善となるようにしていきたい。

 来年度で全道の公共の設置がほぼ100%になると思うので、拙い実践だが、たたき台として少しでもお役に立てればうれしく思う。

(関係団体 2022-08-29付)

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