教職員の協力を高める学校づくり〈No.100〉 自覚なき不適切な関わり 学校におけるマルトリートメント①
(教職員の協力を高める学校づくり 2022-10-14付)

 人間性を否定するような指導を繰り返し、児童生徒や保護者から批判にさらされ、部活動の顧問を更迭されたある教師は「強い指導や叱責は体罰ではなく指導の範囲であり、児童生徒への期待であり、励ましのメッセ―ジである。勝つチームをつくるためには甘やかしてはならない。私も中学、高校時代、指導者から厳しく指導されたおかげで今がある」と説明しました。

 また学級担任をしているある教師は、他の児童の前で特定の児童に「〇〇君のようになったら駄目人間になる。真似しないように」「また忘れ物をしたの。〇〇君は本当にだらしがないね。〇〇君のような人は、このクラスにいる必要はありません」など度重なる叱責をし、さらし者にしている。

 電話で連絡をくれた保護者は、自分の子どもも何か問題を起こしたら、同じようにみんなの前で叱られるのではないだろうかと不安になっているので、担任の〇〇先生に、そのような指導をやめるように言ってほしいと相談があったそうです。

 この2つの実例に共通しているのは、児童生徒を不安や恐怖で支配し服従させることで教育を進めようとしていることです。当然このような言動は教育活動として認められるはずがありません。東京都では、教師の暴言、威嚇、いわゆる言葉の暴力も体罰と見なし、停職・減給などの処分対象(都教委「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」)としています。

 厚生労働省の第1章「子どもの虐待の援助に関する基本事項」の参考として「諸外国では、マルトリートメント(不適切な関わり)という概念が一般化している。諸外国におけるマルトリートメントとは、身体的、性的、心理的虐待およびネグレクトであり、日本の児童虐待に相当する」と記載されています。

 またマルトリートメントは、日本では特に大人の子どもに対する身体的・性的・心理的虐待とネグレクトの包括的用語として使われており、子どもへの不適切な関わりや養育を指し、海外ではチャイルド・マルトリートメントと表現されています。

 川上康則氏(都立矢口特別支援学校主任教諭、公認心理師、臨床発達心理士等)は、教室で行われる子どもの心を傷付けるような教員による不適切な指導を示す造語として『教室マルトリートメント』(東洋館出版社、2022)として問題提起しています。

 川上氏は著書の中で「教員による体罰やわいせつ行為は違法であり、処分の対象でもある。だがそれよりずっと手前にあるけれど、子どもたちを深く傷付ける指導というのはこれまで見過ごされてきた。従来グレーとされてきた部分の見つめ直しをしなければいけないと感じている」と述べ、教室マルトリートメントは、家庭におけるネグレクトや心理的虐待に類似した指導であると説明しています。

 具体例では、ネグレクトに類似した指導として、励ましや称賛をしない、特定の子の指名を避ける、「勝手にすれば」「さよなら」などの見捨てる言葉をかける。さらに心理的虐待に類似した指導として、威圧的・高圧的な指導、力で押さえる指導、事情を踏まえない頭ごなしの叱責、子どもの人格を尊重しない言動、「じゃあ〇〇できなくなるけどいいんだね」などの脅しで動かそうとする声かけなどを挙げ、結果として「先生に叱られないかどうかだけが判断基準となり、学級や部活動などの集団が持つ様々な課題を自分たちの手で解決していこうという意欲を持つことができず、教師の顔色をうかがいながら活動するようになる」としています。

 果たしてこのような状況は教育と言えるでしょうか。次号では、マルトリートメントが子どもの脳に及ぼす影響と心理的危機について記述します。

(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)

(教職員の協力を高める学校づくり 2022-10-14付)

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