教職員の協力を高める学校づくり〈No・101〉 子どもの脳への影響大 学校におけるマルトリートメント②(教職員の協力を高める学校づくり 2022-10-28付)
前号では、教師の児童生徒への不適切な態度や発言は、ネグレクトや心理的虐待に類似した指導であり、子どもたちの心を傷付けてしまうことを川上康則氏の著書『教室マルトリートメント』によって紹介しました。今号では、マルトリートメントが脳にどのような影響を与え、心理的危機をもたらすのか記述します。
『子どもの脳を傷つける親たち』(友田明美氏、NHK出版、2017)では、外見では分かりづらい「心の傷」を可視化するため、様々なマルトリートメントを受けた人の脳の画像をMRIを使って調べた結果、生来的な要因で起こると思われていた子どもの学習意欲の低下を招き、大人になって精神疾患を引き起こす可能性があり、過度なストレスとなり脳を傷付けてしまうことがあるとしています。
脳は一度傷を付けられると修復が困難であり、暴言を浴びせられるなどのマルトリートメントの経験を持つ子どもは、トラウマとなり過度の不安感や情緒障がい、ひきこもりといった症状・問題を引き起こす場合もあると説明しています。そもそもマルトリートメントに陥る教師は児童生徒との関係で「甘く見られたくない」「なめられたくない」と捉え、経験主義的もしくは指導技能が未熟なあまり、結果的に感情的な指導に委ねてしまうと考えられています。
また、叱る行為は本能的であり依存性があり、脳の報酬系回路によってエスカレートし、不安・怒りを増幅させ、一種の精神症状に陥るとも言われています。さらに、特定の教員がマルトリートメントを増幅させる理由には他の教職員との関係性があります。
感情的になり、一方的に侮蔑的な指導を繰り返す教員に苦々しく思っていても、直接意見を言うことができない。言うと反発し言い争いになる。また、その先生の抑え込みによって学校の秩序が一定に保たれているため、指導技能の未熟な若年層の教員が間違った成功体験の指導を積み重ねてしまい、職場で問題提起しづらいなどがあります。
発達に課題が見られる一部の子どもたちは、反省し改善することが極めて苦手です。苦手にもかかわらず「何度言ったら分かるんだ」調の指導では、態度や行動は改善できません。叱責することよりも、繰り返し教え、できたら褒め、認めるようにしなければなりません。
マルトリートメントを防止するための手立てには、あらためて教師に就いたアスピレーション(大志)を確認し、コミュニケ―ションのある職場づくり、さらにグループワークによるマルトリートメントの学校課題検討会、研修会への参加などが挙げられます。
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
〈記事抜粋〉高校野球の強豪、〇〇高校の監督が部員に対して暴言を吐いたなどとして、県高校野球連盟(高野連)が調査していることが1日、分かった。今後、上部団体に報告し、処分も検討される見込み。同校によると、監督は今年4~5月、新型コロナウイルスに感染した部員を指して「○○菌」と呼んだり、選手に「殺すぞ」と発言したりしたという。このほか、複数の顧問教員らが、生徒の前で監督から叱責されるなどのハラスメントを受けたと申告したという。(神戸新聞NEXT、令和4年9月2日)
(教職員の協力を高める学校づくり 2022-10-28付)
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