教職員の協力を高める学校づくり〈№102〉 グループ交流で実体験 学校におけるマルトリートメント③
(教職員の協力を高める学校づくり 2022-11-11付)

 本号では、マルトリートメントによらない適切な指導方法、さらに校内体制づくりについて記述します。

 学校におけるマルトリートメントは、恐怖を与え教師の支配によって活動を改善させようとしその結果、児童生徒に大きな心の傷を残すことを、2号続けて説明しました。そもそも叱る行動は人としての本能であり、叱ることによって快感を得るため依存性が強いと言われています。

 従って、マルトリートメントを繰り返す教職員は、性格的要素も影響していますが、そのループにはまりなかなか改善できないばかりか習慣化し、過激化します。

 さらに指導技術の未熟な若手の教職員が追従し、職員室がマルトリートメントを容認する雰囲気となり、学校の雰囲気を敏感に感じる児童生徒にとっては緊張と不安の連続となり、不登校に陥ることも推測されます。

 傷付くのは対象の児童生徒ばかりではなく、学校全体の児童生徒であり、場合によってはパワハラとして同僚の教職員に矛先が向く場合もあります。改善のために管理職が職員室へ呼び、指導するだけでは再び繰り返すことが考えられます。

 マルトリートメントを繰り返す人は、ある面、自制しようとしても脳の報酬回路が刺激され、反復する癖がついてしまっている(『子どもの脳を傷つける親たち』友田明美、NHK出版、2017)と言われています。

 マルトリートメントの対応として効果的な方策の一つに「グループ交流」があります。働き方改革の推進によって校内研修をどのように進めるべきかとの声をよく聞きますが、教育活動の基本である児童生徒との適切な関わり方を研修する機会として位置付け、3人から5、6人のグループを構成しロールプレイングによって児童生徒と教師の立場を取り、マルトリートメントを相互に経験し、感じたことを述べ合うようにします。

 つぎに特定の教職員を責める機会としてではなく、威圧的で不適切な関わりを持たない校内体制をどう築いていくのか。そのためには教職員が互いにどのようなことに留意し、発生を防ぐのか忌憚なく意見交換します。

 何もここまでしなくてもとの意見もあるかもしれませんが、校種にかかわらず既にマルトリートメントの状態が繰り返され、黙認されるなど、どの学校でも起こり得る内容であることを認識すべきです。

 また、保護者らからの指摘や抗議があって初めて改善策を講じるのではなく、予防として事前研修を位置付けていただければと思います。さらにこのような研修は、マルトリートメントは習慣化することから1回開催すれば良いのではなく、学期ごとに行いたいものです。

 このような研修の上で、児童生徒の側に立った肯定的な問いかけや指導、改善策を対話によって解消できるようにし、部活動などの課外活動では、個々の選手に達成すべき課題を明確に持たせ、課題に向けて努力できるよう激励するようにしてはどうでしょうか。

 現実療法として選択理論を提唱しているウィリアム・グラッサー博士は「過去と、他人は変えられない」(『グラッサー博士の選択理論』ウィリアム・グラッサー、アチーブメント出版、2000)と述べています。

 まさに必要なのは今日的教育の場の現実と、経験知などによって培われた体質の板挟みにあつれきを感じ指導方法を停滞させるのではなく、児童生徒のために時代に即応した指導方法が教師に必要とされています。

(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)

(教職員の協力を高める学校づくり 2022-11-11付)

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