教職員の協力を高める学校づくり〈No.105〉 身近に潜む脅威に備える あらためて今必要な職場のメンタルヘルス③(教職員の協力を高める学校づくり 2022-12-27付)
「第8波」と言われる新型コロナウイルスの感染拡大が続いていますが、夏以降、感染不安が弱まったことが感染対策の緩みにつながったとみる問題が指摘されています。
確かにコロナ感染への慣れにより、いつも張りつめていた緊張状態が次第に緩んだ結果、精神的ストレスは軽減されますが、感染から解放されたわけではありません。感染の脅威が正しく認識できなくなり「下火だから大丈夫だろう」「今まで感染していないし自分は大丈夫だろう」などのバイアス(偏り、思い込み)により、危機意識の低下が問題視されています。
感染不安が弱まっている要因として、ニッセイ基礎研究所生活研究部上席研究員の久我尚子氏は、感染防止対策が習慣化し、ウイルスを回避しながら生活する上での経験値が上がったことで、未知のウイルスに対してやみくもに不安を感じる状況が緩和されたことによると述べています。
また当初と比べて検査体制が充実し、医療機関において治療のノウハウが確立されたことでこれらへの不安が弱まり、万が一罹患してしまった際の不安も弱まった可能性があると指摘しています。
しかし、感染不安の弱まりはコロナ慣れとなり、感染率はそれぞれのピークを超えたと言われる今も高い数値で推移しています。前号で記述した「コロナうつ」の発症は、幾分減少しているとも言われていますが、懸念されることはコロナ慣れによって感染拡大のリスクが高くなっていることです。
道内の生徒指導担当の教員によると、コロナ慣れにより、一部の児童生徒にマスクをずらして着用している様子が見られ、密集・密接・密閉の三密のリスクの高い活動に、感染拡大前と変わらない感覚で行動するなど緩みが見られると説明してくれました。
また学校外では感染拡大期でありながらも、公共機関や店舗にマスクをせず乗車や入店したり、リスクが高い施設の利用などでも同様の様子を見かけたりするようになりました。感染拡大の防止を図ることは互いの安全・安心を付与することであり、新しい生活様式として感染対策に取り組んでいる人がいる反面、そうではない人を中心に感染拡大がさらに広がるリスクが懸念されます。
大阪大学の平井啓准教授(健康心理学)は産経新聞のコラムで「新型コロナは、感染リスクのある行動を取っても実際に感染する確率がそれほど高くない。感染しなかったことが成功体験になり“つぎも大丈夫だろう”となる」とし、慣れが気の緩みにつながっている可能性があると指摘しています。
また一般的に若者は、未経験のリスクを過小評価する傾向があり、年齢が上がるほど「大丈夫だった」という成功体験や自分なりの考えを過信しがちで「どの年代でも感染リスクがあることは変わらない」とも述べています。
いずれにしても新型コロナは、私たちの身近に潜んでいます。そして年齢に関わりなく誰にでも感染することを教職員や児童生徒共に再確認するとともに、あらためて児童生徒の実態を把握し、予防策など必要な対応を再徹底しなければならない時期であると理解できます。
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
(教職員の協力を高める学校づくり 2022-12-27付)
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