教職員の協力を高める学校づくり〈108〉 心理的安全因子の保障を いじめ問題再考③(教職員の協力を高める学校づくり 2023-02-10付)
アブラハム・ハロルド・マズローは、人間の動機および欲求に力点を置いた人格論として「マズローの欲求5段階説」を定義しました。人間の欲求を5つの段階で捉え、それぞれの段階が満たされるとつぎの欲求の階層が現れるという理論です。
いじめ問題をマズローの欲求5段階説に当てはめると、いじめられている児童生徒は危険を回避し、安全・安心な暮らしを求める欲求である「安全の欲求」が満たされていないことになります。安全の欲求が満たされなければ、グループに所属し、仲間と共に協力しながら活動する「所属と愛の欲求」である人間関係づくりに取り組むことが難しくなります。
また、つぎの段階である他者から認められたい、尊重されたいという「承認欲求」や、さらに上位であるアイデンティティーの確立(自分の目指す道は何か、自分の存在意義は何かなどについて前向きに生きること)である「自己表現の欲求」に至らなくなります。
つまり、いじめ問題は、単にいじめ防止や解決を求めるだけではなく、いじめの行為自体が児童生徒の心の発達の機会を失わせてしまうと言っても過言ではなく、重大な人権侵害であると言えます。
教育の場をつかさどる教育者として、いじめ問題の危機についてあらためて確認したいものです。
つぎに、いじめ問題を巡る集団作用について説明します。いじめの定義には被害者、加害者だけではなく観衆や傍観者の存在が問題視されています。この場合の観衆とは「直接手を下さないがいじめを楽しみにして集まり、いじめを助長する者」であり、傍観者とは「自分はいじめには関係ないと思い、容認する者を言い、みて見ぬふりをする者」を言います。共に共通しているのは「いじめを容認」していることにあります。
学校は個々の特性を持った児童生徒によって、社会的集団である学級や部活動などの集団が形成されます。当然のように、それぞれの個の違いによって様々な藤が起きます。その藤を乗り越えさせることで教育的な望ましい集団が形成されていきます。
適切な集団形成のためには、集団の形成者である児童生徒とそれを導く教師の役割が重要ですが、集団には個々の児童生徒の安全や安心が保障されなければなりません。いわば心理的安全の保障です。
心理的安全の原則(参考文献『心理的安全性のつくりかた』石井遼介著、日本能率協会マネジメントセンター)とは「自分が周りから受け入れられている」という感覚を言います。さらに集団における心理的安全の因子は「誰とでも話しやすい」「日常的に助け合いが見られる」「物事に積極的に取り組む」です。
皆さんが担当する学級や授業、部活動などでは、この心理的安全因子が保障されているでしょうか。振り返る機会にしていただければ幸いです。
(北海道文教大学人間科学部健康栄養学科教授・石垣則昭)
(教職員の協力を高める学校づくり 2023-02-10付)
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