釧路市教委 新たな学校づくり研修会 義務教育学校 多様な可能性探る 系統的な学びの確立など(市町村 2023-08-10付)
13年度までに6校の義務教育学校の開設が予定されている釧路市。セミナーには多数が参加し、関心の高さをうかがわせた
【釧路発】釧路市教委は2日、市生涯学習センターまなぼっと幣舞で、小中一貫教育による新たな学校づくりセミナーを開催した。テーマは「義務教育学校の実践と9年間を通した学びの可能性」。道教育大学釧路校が後援。教職員を中心に約100人が参加し、基調講演や実践報告等を通じ、学校経営や教育課程、系統的な学びの確立など、次代の教育について理解を深めた。
市教委は4年12月に「釧路市が、めざす学校のすがた基本計画」を策定し、今後、13年度までの10年間で、施設一体型の義務教育学校6校の開設を打ち出した。児童生徒数の減少に伴う学校再編ではなく、中1ギャップ、学力・学習意欲の向上、学校施設の老朽化といった教育課題の解決と、教育の質の向上を目指している。
市内では既に3年度、施設一体型として阿寒湖義務教育学校が開校。また、施設分離型として道教育大学附属釧路義務教育学校が開校、共に開校3年目を迎えている。
さらに8年度をめどに現在、市内西部の音別地区と大楽毛地区で義務教育学校の開設準備が進んでいる。
このためセミナーには、学校関係者はもとより保護者、町内会関係者ら多くの人が参加し、義務教育学校が有する新しいカリキュラムや活動の可能性、地域にふさわしい教育活動の在り方について理解を深めた。
開会あいさつに立った岡部義孝教育長は、義務教育学校について「単なる学校の統廃合ではない。様々な課題の解決に向けて9年間を通した系統的な学びの確立が必要」とし、基本計画への理解と協力を要請。地域に根差した探究型のカリキュラムや異年齢集団活動などの大きな教育的効果に触れながら「子どもたちの教育環境をより良いものとするため、どのような可能性を有しているのか、セミナーで考えることができる」と、セミナーの成果に期待した。
また、来賓の玉井康之道教育大副学長は「義務教育学校は地域と学校の新しい時代を切り開く取組」と述べ、道東地域で先進的な取組が進んでいることに敬意を表明。児童生徒が異学年交流等を通じ、互いに異なる能力を認め合い、生きる力を蓄えていくことができる義務教育学校の多様な可能性を強調した。
◆文科省・前田氏が基調講演
釧路市教委主催・小中一貫教育による新たな学校づくりセミナーで、文部科学省初等中等教育課教育制度改革室の前田幸宜室長が基調講演を行った。「義務教育学校の全国的動向と新しい教育実践の可能性~令和の日本型学校教育の構築に向けて」と題し、9年間を見通した義務教育学校の開設によって、教職員集団の強化や子ども同士の交流が進み、学びの環境の向上につながっていくことを分かりやすく解説。全国各地の事例等を示しながら、未来を見据えた釧路市教委の取組に大きな期待を寄せた。
前田氏は平成13年に文科省に入省。初等中等教育局、高等教育局に勤務後、徳島県教委への出向、ユネスコ日本代表部一等書記官、大学入試室長などを経て。令和4年4月から現職。
前田氏は、児童生徒を取り巻く環境、9年間を見通した義務教育、義務教育学校としてつくる良さについて講話を進めた。
冒頭、小中一貫教育が求められる背景・理由を説明。平成28年4月の学校教育法等の一部改正後、義務教育の目的・目標規定が新設され、教育内容の量的・質的充実への対応が求められていることを示す一方、小学校高学年段階における児童の身体的発達の早期化、中1ギャップ、学校の社会性育成機能の強化も背景にあるとした。
中1ギャップについては、学校段階別の学びに関する実態調査結果や、小学校6年生と中学校1年生の教科書の量的な違いをもとに、子どもの学ぶ環境が激変しているとし、小と中に6・3の区切りを置くこと以外の方法によって、個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実を図る必要性を示した。
学校の社会性育成機能についても解説。平成の大合併の期間を超える割合で学校数が減少し、標準規模を下回る学校が急増。共働き世帯の増加も背景に、社会性育成には家庭、学級、学年、学校と、総力戦が必要とした。
また、家庭の社会経済的背景(SES)と学力の関係において、一定の相関がある中で、SESから予測される学力水準を継続的に上回る複数の学校があることに言及。当該校では小中連携教育を取り入れ、地域や保護者との連携、教師のチームワーク研修の実施など、共通した特徴があることを紹介した。
前田氏は9年間を見通した義務教育について、教育課程、指導体制、教師の養成等の在り方に関し一体的に検討を進める必要があるとし「個別最適な学び」とは子どもの立場に立った表現であることを強調。全ての子どもたちを対象に底上げのみに注力するのではなく、子どもの得意分野を伸ばすことに注力すべきとした。
最後に義務教育学校としてつくる良さを説明。教職員集団の強化、子ども同士の交流の推進による、学びの環境の向上について具体的事例をもとに紹介した。
中では、地域素材を活用し児童生徒の自己肯定感を高めている鳥取県の鹿野学園の取組、コミュニケーション能力の育成を軸とした高知県の土佐山学舎の取組を説明。様々な課題を克服しながらの新しい学校づくりの実際を分かりやすく紹介した。
講演後の質疑では、釧路市内の音別地区、大楽毛地区で義務教育学校の開設準備を進めている教師が、小・中と距離が離れている中での開設準備、地域住民の参画を得るための工夫等について助言を求めた。
前田氏は開設準備に当たっては、対面のみならず遠隔協議なども行いながら、小・中の教職員一人ひとりが関わっていく必要性を示したほか、地域住民の参画に向けてはコミュニティ・スクールの積極的な活用を勧めた。
また「そもそも、なぜ子どもは学校に行くのか。オンラインでもいいのではないかとの意見もあるが、学校は登校するもの。学校でしか学べないものがある。人格形成など、対面でしか成し得ないものがある」と述べ、未来を見据えた釧路市教委の義務教育学校の取組にエールを送った。
◆道東義務教育学校3校が実践報告
釧路市教委主催・小中一貫教育による新たな学校づくりセミナーで、釧路市立阿寒湖義務教育学校(髙橋帝寿校長)、道教育大学附属釧路義務教育学校(早勢裕明校長)、帯広市立大空学園義務教育学校(村松正仁校長)の3校が実践報告した。阿寒湖義務教育学校については、開校までの2年間を担当した釧路市教委の本川敬一教育指導参事が、開校準備段階から開校、開校後と、教師が新しい学校づくりに取り組む様子などを報告。課題解決に向けて教職員集団が関係を深め、目標達成へ機運の醸成が進んでいったことを紹介した。
実践報告の概要はつぎのとおり。
【釧路市立阿寒湖義務教育学校】
▼コメンテーター=本川敬一氏(釧路市教委教育指導参事)
阿寒湖義務教育学校は児童生徒数約70人の施設一体型。本川氏は平成31年4月に阿寒湖小学校の校長に就任し、着任早々から阿寒湖中学校との施設一体型義務教育学校の開設準備に入った。当初は令和4年4月の開校予定だったが、開校は1年前倒しで3年4月に。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、児童生徒数が大幅に減少し、開校直後に一部学年で複式授業となる懸念が生じるなど、想定外の様々な課題を乗り越えての開校となった。
開校に向けては、学校経営、教育課程、生徒指導、研修、事務と、5グループを設置。校長と教頭、教務主任、各グループ代表からなる推進委員会を置き、ネット環境を活用し情報共有に努めた。
開校までには外国語活動における相互乗り入れ授業、体育や音楽におけるTT授業等で校種間での交流に力を入れてきた。
開校後は阿寒湖の自然・文化・歴史を生かした特色ある教育活動を積極的に展開。マリモの観察やマリモの光合成を阻害する水草の除去、アイヌの伝統楽器ムックリの演奏などを授業に取り入れている。
本川氏は開校後1年が経過した教職員の生の声を紹介。「小学校教員、中学校教員の互いの良さが融合し各ステージの教員がきめ細かな生徒指導、教科指導が行われるようになった」「義務教育のスタートからゴールが見える。小学校でやるべきこと、中学校で受け継ぐことがはっきりと見えてくる」といったメリットとともに「中1になり学習内容は難しくなっているのに、小学生気分から抜け出すのに時間がかかる」「中学生が子どもっぽくなった」と、デメリットと感じる事象を指摘する声も紹介した。
さらに開校準備期間から開校までを振り返った教職員からのメッセージを紹介。
「開校準備期間に、互いの校種の教育観を尊重し合い、人間関係が構築された。教員同士が良好な関係を築けていないと、どんな学校でもうまくいかない」「今後設置される釧路市内の義務教育学校には、同じような視点で教員同士の共通認識のもと、新たな学校をつくっていただきたい」「真摯に開校業務に向き合ってきた。大変だったけど、とても楽しく貴重な時間だったと、今なら笑顔で胸を張って言える」とのメッセージを多くの教職員へのエールとして伝えた。
【道教育大学附属釧路義務教育学校】
▼コメンテーター=大月さゆり氏(同校前期課程副校長)
大月氏は「道教育大学附属釧路義務教育学校の目指すもの~リーダーシップ・フォロワーシップの育成を中心として」と題して自校の取組を報告した。
義務教育学校化を進めてきた中で、9年一貫したリーダーシップ(Ls)・フォロワーシップ(Fs)の育成を共通理念に据え、児童生徒の発達段階に即したLs、Fsの発揮を支援。子どもたちがLs、Fsを発揮する場面の見取りや、見取りを踏まえた教科指導の進め方、子どもたちの学びをつなぐための各教科の系統的なカリキュラムづくりを進め、毎年の改善充実にも努めているとした。
さらに、特別活動や学校行事、総合的な学習の時間とも連携した企画を立案。総合的な学習の時間では「地域学」を中心に、地域を見つめ自分の考えを発信する学習とLs・Fsを培う学習を相関させていく取組にも力を入れていることを紹介した。
最後に大月氏は今後、5年をめどに課題を克服しながらカリキュラム・マネジメントの充実を図る予定を示した。
【帯広市立大空学園義務教育学校】
▼コメンテーター=村松正仁氏(同校校長)
大空学園は児童生徒数約500人の施設一体型義務教育学校。実質3年の準備期間を経て令和4年4月に開校した。
村松氏は初等部、中等部、高等部それぞれの児童生徒会活動・自治会活動を説明し、4年生は初等部の節目として児童自身が自分の夢を発表する夢の式を、6年生は前期課程修了の節目として志を発表する立志式を実施するなど、同校の特色ある教育活動を説明した。
また、英語圏以外の外国籍児童生徒がことし9月からは20人となるなどの同校の特徴も紹介した。
実践報告では開校2年目を迎え、保護者や学園生からの学校評価、自校教員へのアンケート調査の結果を詳細に説明した。
学校評価は昨年8月(前期)とことし2月(後期)に実施した。一体型の校舎で学ぶこと、中・高等部の教科担任制と初等部の一部教科担任制、5年生からの部活動参加に関しては、保護者、学園生共に学校評価は「大変良い」とする肯定的な回答が大半を占める結果に。
満足して学校生活を送っているかとの質問には、後期調査において保護者は初等部、中等部、高等部の全てで「大変良い」が80%以上に。学園生は「大変良い」が初等部95%、中等部77・2%、高等部84・2%。中等部のみが前期調査(88・2%)を下回る数値を示したことから、調査結果を注意深く検証し、学部会議で対策を検討し改善を図っていくとした。
一方、自校教員へのアンケート調査では、教科指導面の学園生の変容、生徒指導面の学園生の変容、義務教育学校の教育内容や方法への意識、教員自身の意識変化を調査。「大変良い」から「大変悪い」までの6段階で回答を求めた。
教科指導面に関して、全学部で70%以上の肯定的項目は「授業への参加態度の改善」「英語学習への意欲」の2項目。生徒指導面に関しては、全学部で70%以上の肯定的項目は6項目となり「下級生が上級生への憧れの気持ち」「中1ギャップの緩和」が高い傾向を示した。
学園の教育内容や方法に対する教員の意識に関して、全学部で70%以上の肯定的項目は3項目に。「9年間の系統性に配慮した指導計画や教材の開発」「小中合同の行事内容の設定」「5年生以上の教科担任制」を挙げる意見が多かった。
教員自身の意識の変化に関しては、全学部で70%以上の肯定的項目は全14項目中8項目に。うち「義務教育学校で働くやりがい」「現在の仕事での自身の成長」「スキルアップの必要性」の3項目は95%を超えた。
村松氏は開校1年目を総括。開校当初においては小学校教員と中学校教員の意見の衝突があり、中等部教員においてクラス経営ができるのかといった不安がうかがえたと振り返り、1学期終了後から2学期にかけては、生徒指導面などで組織的対応の良さを実感し、子どもの変化や前向きな気持ち、子どもや保護者の肯定的評価が増加したことを紹介した。
最後に村松氏は書道で好きな1字として「大」の字を書いたある6年生の言葉を説明し「自分の中では生活がガラッと変わった1年。大空学園で去年より友達と話しやすくなったり、友達が6年間の中で最も多くなった」と、好きな1字の選定理由を紹介。
新しい学校づくりに挑戦し続ける中で、確かな手応えをつかんでいるとした。
この記事の他の写真
前田氏は対面でしか成し得ないものがあると、学校の重要性を強調した
コメンテーター3氏。(右から)本川氏、大月氏、村松氏
(市町村 2023-08-10付)
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