謹賀新年 新春インタビュー 北教組 木下真一中央執行委員長に聞く(関係団体 2024-01-01付)
北教組・木下委員長
―教員の担い手不足に対する国・道の対応と、それに対する受け止めをお聞かせください
教員の担い手不足については、心が痛む問題だと思っています。「教職の魅力」は、一言では言い表せないくらい「やりがい」のあるものです。私自身も、小中高時代に出会った先生の人柄・人格に憧れて教職を目指しました。子どもが好きで「○○先生のようになりたい」との気持ちが、たくさんの困難にぶつかっても、子どもたちに向き合ってこられたのだと思います。
私たち教職員組合では「教員不足」と言っていますが、実態が報道等により顕在化する以前から、組合員から厳しい実態が報告されていましたし、文部科学省の2022年度調査では、21年度始業時点で不足数は小・中学校合計で2086人でした。この実態が、本年度当初はより深刻に、さらに悪化したと回答した都道府県・政令市が実に29にもなっている状態です。自治体独自で少人数学級を実施してきたにも関わらず、縮小・解消せざるを得ない事態も起きています。
この原因として、採用試験受験者の減少や定年後の再任用辞退、早期退職、教育委員会の想定以上の産休・育休、病気休業、介護休暇の増加に対応するだけの代替者がいないことが挙げられていますが、やはり大きな要因は社会的に知られるようになった学校の過酷な勤務実態であることは明らかです。
私たちの関連団体である「教育文化研究所」が行った、教職課程を履修したものの教職に就かなかった学生に対する調査によると、魅力は理解しているが生活の全てを犠牲にしなければならない仕事だとして諦めた事例が多く報告されています。「教職から離れる若者たち」と検索すればご覧になることができます。ぜひ、教育関係者の方々に見てほしいものです。
ここから得られるヒントは、教職離脱の内容をパターン化して分析していることです。「大学入学前の意欲低下」「教育実習で知った学校の困難な現実」「自身を適正がないと判断」「ジェンダー関係と子育て不安」の4つになってます。
文科省は中教審答申に基づき、教員採用試験の早期化・複線化や教員免許を持たない者への特別免許状の推奨、失効・休眠免許保有者の現場復帰などの施策を進めようとしています。
道教委、各市町村教委も人海戦術で必死に教員確保に取り組んでいます。その中で、本年度の文科省補正予算において「大学・民間企業と連携した教師人材の確保強化推進事業」というものが盛り込まれました。新たな外部人材の入職スキームを創出し、多様な教職員集団を実現するというものです。
これは即効性という意味では、リスキリングという時代ですから、ある程度有効かも知れませんが、抜本的な改善策かは極めて疑わしい。やはり、担い手を増やし、学校現場の教員不足の解消には学校の働き方改革の推進が不可欠であり、長時間労働の是正と教職員賃金・諸手当など処遇の改善が必要なことは、どの教職員も熱望しており、がまんも限界に来ていると思っています。
―超勤多忙化の現状と教育条件・勤務条件の改善について伺います
現行学習指導要領では「できること」の視点での指導が多数であり「できないこと」に時間をかけて向き合う教員の在り方・教育姿勢が求められていると思っています。その点で、超勤多忙化の現状から「学びの場・学校」を一言で表すなら「学校の危機」とか「教職の危機」ではないでしょうか。
給特法改正から3年が過ぎました。改正法ではこれまで勤務を行っていたにもかかわらず、自主的・自発的勤務とされていた勤務時間について在校等時間とし、時間外在校等時間を月45時間、年360時間の上限を定め、客観的勤務時間管理を行うとされました。併せて学校の働き方改革が進められてきましたが、教職員の病気休職者の増加や教員不足の深刻な状況からは、その成果・効果は見えていません。
私たち北教組は昨年9月に調査を行って勤務実態を明らかにしました。その結果、5人に1人が「過労死」の危険性があること、特に中学校では3人に1人がその危険に晒されています。そして、法令で定められた上限を半数近くの教職員が超えており、学校現場は違法な勤務環境が常態化していることが明らかになっています。
こうした状況で文科省は、9月に「緊急提言」を発出しましたが、業務の適正化の推進、働き方改革の実効性向上、小学校高学年の教科担任制の強化、支援員配置等の充実との内容にとどまっていて、私たちの切実な声にこたえるものにはなっていません。
加えて、主任手当や管理職手当の増額も考えていることは、教職員の働き方改革や教員確保に結びつくかは甚だ疑問だとあえて指摘させてもらいます。
また、自民党の特命委員会が教職調整額を10%に上げ、担任手当などを新しく創設する提言を政府に提出していることは、抜本的対策とは極めて言いづらいものです。私たちは「お金」で働き方を変えてほしいのではなくて、生活時間を取り戻し、心も身体ももっとゆとりをもって研修・研鑚を重ねて子どもたちに向き合いたい、このことによって子どもたちの学習の充実度を保障し、豊かな教育を求めていることを保護者・地域の方々にも理解してほしいです。
教育条件・勤務条件改善ということでは、やはり「定数改善」が一丁目一番地、そして「業務削減」、この2つに限られると思います。定数改善とは「教員不足」の課題を克服する条件整備と同時並行で「義務標準法」「高校標準法」の規定を見直すことと考えています。
「業務削減」とは、まずは「単位時間または年間総授業時数を見直すこと」で日課にゆとりをつくり、「部活動を地域移行すること」で放課後の時間を研修等に活用できるようにする。これ以上の内容は教育関係者の皆さんであれば説明は不要でしょう。
そして、学校現場に時間外勤務を抑制するために、給特法によって除外されている労基法の時間外手当支給の趣旨を取り戻すことが必要と考えています。
ですから、私たちは給特法の廃止または抜本的見直しを求めています。このことによって、教員の時間外勤務が「自主的・自発的勤務」とされ続け、テスト採点が勤務時間を1分でも過ぎれば「自発的勤務」とされているものを変え、「時間外勤務手当化」によって時間外勤務を抑制するインセンティブが働くようにすることは必要不可欠です。
業務削減などが進み、長時間労働が是正されれば、現状9000億円必要と言われる手当は払う必要はありません。私たちは「お金」がほしいのではありませんから、時間外勤務が減少していけば手当を払う必要がなくなります。
結論は、教職員の超勤・多忙化の最大の犠牲者は子どもたちです。過密な教育課程、そして、じっくり教材研究ができていない、疲弊した状態で子どもたちに向き合っている教員がいることはもっと憂慮すべきです。教育は未来への最善の投資ではないでしょうか。教育の充実のため教育予算の大幅拡充を国の根幹に位置付けてほしいというのが最大の願いです。
―部活動の地域移行についての受け止めをお聞かせください
中学校部活動の地域移行が25年度までの3年間を「改革推進期間」として進められています。その現状を聞く機会がありますが、全国的には指導者や活動施設の確保、実施における責任の所在、経済的負担などの課題が報告されています。そして、これらの各地から厳しい意見が出されたことから、推進計画は一歩後退を余儀なくされているという認識でいます。
私たち北教組は昨年11月、この3年間の地域移行に関わる施策に対して要請書をつくり、道教委に全ての自治体で地域移行を進めるよう求めました。昨年12月には道教委が「北海道部活動の地域移行に関する推進計画素案」を公表して方向性を示しています。
やはり、部活動が教職員の超勤・多忙化の大きな要因であることは間違いないことで、社会教育への完全移行をするために平日の移行の在り方を含めて文科省・文化庁・スポーツ庁への今後のはたらきかけを教育関係団体全てが行っていく必要があると思います。
特に、都市部とその他の地域の取組状況に差が生じると教育の機会均等の問題も生じますし、国が十分な予算を確保しないと受益者負担が生じること、子どもたちにとって過度な負担となることは避けるべきであること、教職員の兼職・兼業に頼らない指導者の確保・育成、報酬の予算確保、中体連参加の学校単位によらない大会参加資格の在り方の検討など、課題は多岐にわたります。
子どもたちにとって、部活動が個性発揮、成長の場となることは私の教職経験からも理解できることなので、先ほどの要望事項の早期実現と多忙化解消の前進が一体的に実現することを願っています。
―生成AIに関わる教育現場の活用についてはどのようにお考えでしょうか
この課題については「学習指導要領」の情報活用能力など、学習の基盤となる資質・能力を育成していくことができるよう、ということに関連していますし、教育振興基本計画の教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進にある生成AIについては、教育現場の利用に効果をもたらす可能性と生じうるリスクを踏まえて、と言うことに着目してお話しします。
文科省はGIGAスクール構想の推進で端末整備・更新として都道府県に5年かけて経費を交付しては基金をつくり、市町村には補助金を出して共同調達など計画的・効率的な整備を進めるとしています。24年度からはデジタル教科書導入もあり、やはり、教育の民営化、商業化の拡大が懸念されます。ICTを使うことが目的ではなく、学習のツールとして活用し子どもたちの豊かな学びにつなげていくことが、まずは必要だと思います。
さらに、教員間にタブレット端末の活用に相当の苦労があったことを忘れてはなりません。子どもたちのスマートフォン、小学生でも10人に6人以上が持っている時代、「コロナ禍」の影響によって人と人のつながりが問題になっている中で「情報モラル」が保たれないと子どもたちの人権、豊かな学びの阻害につながるのではないかが一層心配になっています。
今後、実証段階からどのような展開になるのか子どもたちの立場から注視しなければなりませんし、校務での活用を働き方改革の一環として活用することを考えているようですが、操作・活用する教員研修の時間をどう確保するかも注目していきたいです。
―公立高校配置計画、特色ある高校づくりについてお聞かせください
道教委は昨年3月、「これからの高校づくりに関する指針」の改定版を出しました。「望ましい学級規模」としていた「学年4~8学級」を「それぞれの高校の機能や特色、求められる役割を踏まえつつ、学校規模についても考えていく」としました。これまで私たちは「機械的な学科再編・統廃合」には反対してきたことから、一定程度受け止められるものの「学年4~8学級は検討に当たっての重要な観点」「在籍者数が2年連続で20人未満」の考えはそのままでした。
「地域とつながる高校づくり」「活力と魅力のある高校づくり」の実現に向けた「公立高校配置計画」の基本的な考え方として、「一定の圏域内における各高校の役割等を勘案した高校配置の必要性を踏まえ、1学年1学級の高校においても圏域全体で必要な定員調整をあらかじめ行うことで存続を図ることも選択肢となる」としたことは、私たちが提唱し続けてきた「地域合同総合高校」の理念に近いものだったことから、早期の具体化を要請したところです。
また、JR在来線廃止の地域からは、通学環境の変化への不安の声があります。長距離・長時間通学や下宿する子どもたちの増加が心配され、心身の負担や保護者の経済的負担、経済的条件がそろわなければ、子どもたちの教育を受ける権利が阻害されてしまうのは、教育の機会均等に反することです。
本道では、どの地域に住んでいても後期中等教育を受けられるよう制度の整備・充実が極めて重要だと考えています。特に私たちが道教委に要望したことは、つぎの事柄です。
まず、本道の地域性を考慮した高校の配置とし、地域の高校を存続させることです。定時制高校についても、様々な事情を抱えた子どもたちのため、機械的な募集停止はしないようにすることが必要です。また、遠距離通学費等補助制度の年限5年を廃して、適用地域拡大も求めています。
高校授業料無償制度については、所得制限の廃止と給付型奨学金の拡充について、国に要望することを求めています。地域別検討協議会が例年開催されてきていますが、その中で「こども基本法」による「子どもの意見」を聴く場が必要だということも訴えています。道教委にはぜひ検討してほしいものです。
―いじめ・不登校の要因と対策、「貧困と格差」是正に向けた取組について伺います
いじめ、不登校が起きてしまう要因について、私たちは、子どもたちが自分らしさを認められているか、自己肯定感を持てているか、学校や社会に生きづらさ感じていないかということに鍵があると思っています。学校や教室が子どもたちの安心できる場所となっているかということです。
大人も、特に教職員にとって職員室が心おきなく仕事のできる場所か、にも似ているような気がします。「能力主義」によって「点数」のみで個人を評価されると居場所を失ってしまう子どもの増加につながります。
学級で子どもたちをほめる・認める場面は限りなくあるはずです。「自分の居場所」が学校にないと「行けなくなる」ことが端的な例ではないでしょうか。
子どもたちの7人に1人が相対的貧困、ひとり親家庭の貧困率が50%近くもあると言われています。
ヤングケアラーについて、20年度に国が初めて全国調査を行いましたが、21年の結果公表によると中高生20人に1人の割合であることが明らかになりました。私たちの組合員への調査によると「学校に該当者がいる」と回答したのが、約12%となっていました。
こども家庭庁が設置されたことから今後、「縦割り行政」が解消され、子どもの安全と貧困対策、自立支援、児童館や子ども食堂、学童などの「居場所づくり」、いじめ防止・不登校支援などを一元的に「子どもの最善の利益を実現する」としていることが前進することを期待しています。
これが真に実行されれば「貧困問題」は解決に向かえて良いと思いますし、やはり私たちとしては子どもたちの権利擁護がしっかりしていなければならない、これを第一に考えるべきだと思ってています。
「貧困と格差」の問題は新型コロナ感染症によって一層拡大してしまいましたが、教育予算をせめて国際水準並みにという姿勢に変わらないことには、教育予算は増えない、経済効率ばかりを求める社会は変わらないと思っています。
―24年度の北教組運動について
北教組は、昨年の第134回定期大会において、この間、進めてきた「魅力ある北教組運動」を一層強化することを柱に据えて、引き続き運動を強化することを確認しました。そして「教え子を再び戦場に送らない!」のスローガンのもと、北海道の子どもたちや教育を担っていく若い組合員のために、持続可能な学校現場・職場を何としても実現するため、一丸となって組織運動に取り組む決意です。
超勤・多忙化の解消の取組を通じて若い組合員にとって「やりがいを実感できる活動」を合言葉に運動を再構築していかなければならないとも考えています。やはり、「すべてのとりくみを組織拡大につなげる」「着実にできる運動を展開する」ことを念頭に、状況に合わせて、しなやかに対応できる組織を目指さなければなりません。
これからも、教育の充実にむけて一人でも多くの仲間と語ることを目指して運動を進めてまいります。
(関係団体 2024-01-01付)
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