学校力向上総合実践事業全道協議会 ゴールのビジョン校長が示して 新保氏、中澤氏の対談概要
(道・道教委 2024-07-05付)

 2日に開かれた道教委の本年度第1回学校力向上に関する総合実践事業全道協議会における、認定NPO法人ほっかいどう学推進フォーラム理事長・新保元康氏と道教育大学教職大学院旭川校教授・中澤美明氏の対談概要はつぎのとおり。

藤本 ICT端末の活用について、三つのステップを示した。しかし、先生方にとって、新しいことへの不安や、アナログへの安心感、使わなくても困っていないなど、活用に対して特別なイメージを持っているのではないか。ステップも含めて、つぎの段階にステップアップしていくためのポイントや学校体制、変革期における校長の役割について伺いたい。

新保 今の校長先生たちは本当に大変だと思う。いじめや不登校への対応、保護者や地域からの様々な要望に対し、胸が張り裂けそうなのではないか。

 それは先生方も同じ。その中で、さらに自分の今までの良いやり方を捨てて、ICTを使えというのかと。そんなことは無理だという気持ちも理解できる。

 私は校長時代、「今変えるのは確かに苦しいが、半年頑張ろう」という言い方をしていた。よく、ICTを使うとすぐに授業力や学力が上がるとか、働き方改革で楽になるとかと話す校長もいた。しかし、私は言わなかった。それは無理だと途中で気が付いた。最初はむしろ苦しい。だから「半年は大変だ。つぎに来る若い人たちのために頑張ろう」と説いていた。

 特に、教頭と「一緒につぎの管理職を楽にしてやろう」と声をかけ、業務の精選に努めていた。「自分のため」は何となくやりにくい。しかし「後輩のために道をつけよう」という声かけはどうだろうか。

 一見、抵抗しているように見える人たちも寄り添って「みんなで一緒に未来に行こうよ」「一里塚つくろうよ」ということではないか。

藤本 校長がゴールへのビジョンを示すことが重要になってくると思う。

中澤 校長自身が自分の腹に落とし込むことが大切だ。校長がどこまで納得しているかは職員に伝わる。

 ゴールを示した時に大切なことはスモールステップだ。いきなりV字で達成する、そんな素晴らしいものは、私はもう無理だと思う。新保先生が言ったように、校長や先生方も大変なので。ゴールは学校によって異なるが、共有して一つ一つ確認しながらやっていく。校長が丸投げせずにしっかり関わっていくことが非常に大事だと感じている。

 スモールステップも、1回作ったら終わりではなく、随時改善していく、状況に合わせて修正していくことが、校長の立場として大事にしていただきたいことだと思っている。

新保 「道教委や自治体の教育長が言っているからやろう」というのではなく、校長が自分の言葉で語ることが大切で、迫力が違ってくる。上手に言えなくてもいい。自分の本音であることが大事だ。「今はつらいけれど、ひと頑張りしよう。自分もチャットを使ってみるよ」などの思いを伝えることだろう。

中澤 これは私の反省でもある。私も言ったことはいっぱいある。

新保 私もある。

中澤 本音かそうではないか、部下は必ず見抜く。自分に落とし込んで、多少不格好でも、良い言葉ではなくてもいい。校長が本当に熱意を持って伝え続けることが大事だと思っている。

新保 年1回の学校経営方針では、やっぱり伝わっていかないんだと思う。だから雑談やちょっとした時に伝えていくことが必要だ。

中澤 年に1回ではなく、随時、節目節目で伝えていくことが大事だ。例えば、指導主事訪問や授業研究する時など、学校にはいろいろな節目がある。その時をうまく利用する校長はやはりスムーズに学校経営している。特に学校行事など外部の方が来るのは有効ではないか。その時に認めてもらうことが先生方の自信や意欲につながるのではないかと思っている。

新保 (達成に向けた過程を示す)一里塚について、私はちょっと前進したことを示していた。例えば、チャットで2、3回しゃべってみたとか、会議の時間が短くなったとか、ちょっとした前進を記録し「1学期はこんなに前進したね」と共有していた。

中澤 一緒に先生方の実態に合わせて取り組むことは非常に大切だ。

 特に、抵抗する先生方は不安がある。自信もないのもあるので。新保先生のように一緒に走っていくのもいい。一緒にゴールを目指して歩いていくことも大事だと思う。

新保 私はあえて雑談をしていた。会議は変に本気モードになってしまって進まないなと思っていた。とにかく毎日職員室を出て、ちょっとした話題をきっかけに、雑談で校長のビジョンを伝えるようなことをしていた。チャットや、先ほど話したちょっと前進したことなども、速やかに伝えるという意味だとICTもいいと思う。

 (対談中の)今、旭川市がチャットをしている。小学校や教育委員会の方が画面を見ながら意見交換している。指導主事が出張先の様子をチャットでリアルタイムに伝えている。だから、戻ってきて報告書を書いて、それから会議という流れではなく、その場でどんどん進んでいく。これは話が早いし、面白い。今までと全く違うやり方があるんだなと実感する。

 今までの職員会議のやり方をただデジタルにするのではなく、チャットを使う。今、リアルに行われているということだ。

中澤 私もIT機器が不得手だが、発想として非常に腹落ちしたことが「新しい空間を手に入れた」という感覚だ。私たちは職員会議世代。みんなで職員室に集まって、その場、その空間で話すことにずっと慣れてきた。でも今はクラウドという新たな空間を手に入れた。そこで好きな時間に入って、交流できる優れものだ。これを体感すると、結構ストンと落ちた。

 子どももそうだろう。教室という空間のほかに、もう一つクラウド上で集まれる空間がある。それが仕事を効率化する一つのヒントかなと思っている。

藤本 クラウドというキーワードが出てきた。クラウドをうまく使っていくこともポイントになってくる。

新保 共同編集も良い。例えば、指導案が好例だ。ベテランの先生と若い先生が一つのファイルを見ながら「こうやってつくるんだぞ」とやりとりすると、面白いのではないか。まず、やってみると分かる。

新保 (どのようなチャットを使っているかという質問に対して)ICTの活用に当たって、どのようなアプリを使えば良いか、どのOSが良いか、という質問は非常に多い。

 答えは極めて簡単で、文科省が示している標準的なOSに無償でついてくるアプリで十分だと言える。

 ICTの好きな方は「このアプリはいい」「あのアプリがいいぞ」と言う。限られた予算の中で、決められた範囲で取り組むしかない。また、最新型を求めていくと、新しいものを次々と覚えていかなくてはならなくなり、むしろつらくなる。

 (対談中に行われているチャットに触れ)リアルタイムにやりとりできる。これが教室の中でもできるということ。職員室の中でもできると、会話量が増えていくことにつながる。

藤本 無償のアプリを使うのは、持続可能性にもつながるのでは。

新保 そのとおり。無償で十分だ。持続可能性が高まる。職員朝会を行っていない学校もあると聞いている。(朝会に代わってチャットを活用することで)子どもと教室でいる時間が長くなる、いじめが起きにくい、トラブルが減るなど、こんなに便利なことはない。

司会 活用していくにも、学校としての土台が必要になる。

新保 正式に始めるのではなく、まずは試しみること。「何かやってみたい人いませんか」と。その時に校長が入ると良い。校長が「私、苦手だから教えてね」と入っていくと進みやすい。実験しているうちにだんだん慣れていく方法はどうだろうか。

藤本 ICTは若い人に任せてしまう傾向があるのでは。

新保 校長はICTが苦手な人が多い。われわれも同じ。そうするとICTの得意な若い人に委ねてしまう。「任せたぞ。責任は私が取る」と言う。これはうまくいかないと思う。そうではなく、校長の汗をかく姿をみんなに見てもらうことが大切。校長が知らないということは一番良くない。

中澤 若い人はICT世代。私たちは得意な人に任せればいいという発想になってしまう。しかし、今は全員が使うことが原則なので、経営者である校長が一番最初にやらなければならない。そういう位置付けだと校長が理解することが必要。校長自身が頑張っている姿を見せて、覚えていくことが大前提だと。私も汗をかいている姿を院生に見せて、頑張っているところだ。

(道・道教委 2024-07-05付)

その他の記事( 道・道教委)

文科省委託 函館盲児童対象に 波や潮の香りを体感 渡島局など サップ体験会

渡島教育局サップ体験  【函館発】道教委が文部科学省から委託を受け実施する「障がい者の生涯学習支援体制構築モデル事業」の一環で、渡島教育局と管内の自治体、社会教育団体は2日、北斗市内の七重浜海水浴場で函館盲学校(...

(2024-07-08)  全て読む

道教委 新しい学び授業力向上全道研 ICTの有効性確認 端末活用 動画もとに協議

新しいかたちの授業力向上全道研  道教委は6月27日、オンラインで新しいかたちの学びの授業力向上推進事業第1回全道研修会を開催した。事前に視聴した1人1台端末の活用に関する動画をもとに協議を実施。参加者からは、ICTの活用...

(2024-07-08)  全て読む

道研6年度プロジェクト研究 5テーマで調査研究推進 プログラミング教材開発など

 道立教育研究所は、本年度プロジェクト研究について「中学校技術・家庭(技術分野)「D 情報の技術」におけるプログラミングの研修(授業)教材の開発」や「北海道の地域特性を生かした系統的な教育カ...

(2024-07-08)  全て読む

石狩局 第1回EBE協議会 誰一人取り残さない指導 石狩紅南小など3校実践発表

6年度第1回EBE協議会  石狩教育局は6月28日、オンラインで第1回EBE協議会を開催した。エビデンスに基づく子どもたちの資質・能力の育成に向けた取組などについて説明したほか、石狩市立紅南小学校など3校が実践発表。...

(2024-07-05)  全て読む

道教委 学校力向上へ第1回全道協 ICTにチーム学校を ほっかいどう学・新保氏ら講話 

道教委学校力向上全道協議会  道教委は2日、道庁別館を主会場に第1回学校力向上に関する総合実践事業全道協議会をオンラインで開催した。認定NPO法人ほっかいどう学推進フォーラムの新保元康理事長と、道教育大学教職大学院旭川...

(2024-07-05)  全て読む

道教委 ほっこりふれあいPJ 特支活動を広く道民へ マッサージ施術 製品販売など

ほっこりふれあいプロジェクト  道教委は12日、道庁本庁舎1階で本年度新規事業「道立特別支援学校の教育活動発表会“ほっこりふれあいプロジェクト”」を初開催する。道立特別支援学校4校が参加し、マッサージ施術や窓清掃の実演を...

(2024-07-05)  全て読む

子どもの意見 道政に反映 協力校42校を決定 7月以降、対面で意見交換

 道は、道内児童生徒から道政への意見を聴取する「こどもの意見反映推進事業」の協力校を決定した。地域バランスを考慮し、各管内から小中高の3校、計42校を選定。身近で関心の高いテーマを設定して児...

(2024-07-04)  全て読む

胆振局独自 交流会やリーダー研 ふるさと担う人材育成 地域PR動画制作やガイド活動

 【室蘭発】胆振教育局は6年度、局独自のプロジェクト「ふるさと(胆振)を担う人材の育成」を展開する。小中高の児童生徒による「ふるさと学習交流会」や中高生が地域の魅力を考える「ふるさとリーダー...

(2024-07-04)  全て読む

募集停止案発表で南茅部高 地域の教育資源継承を 未来支える人材育成へ議論が急務

南茅部高校教育継承に向け  【函館発】世界遺産の縄文遺跡や日本三大昆布の一つがある函館市の南茅部地区。地域唯一の高校、南茅部高校の募集停止案を受け「地域資源を活用した教育資源をどのように引き継ぐか」を模索する必要性に...

(2024-07-03)  全て読む

特別支援学校サポート企業MAP 6年度版 HPに掲載 道教委 現場実習等活用を

 道教委は、6年度版「特別支援学校サポート企業MAP」を作成し、道立特別支援教育センターのホームページに掲載した。これまで登録した道内のサポート企業の一覧を道内の圏域に分けて掲載。特別支援学...

(2024-07-03)  全て読む