道教委・中島俊明教育長インタビュー 新しいかたちの学びに期待 地学協働で学校を魅力化
(道・道教委 2024-08-19付)

中島教育長インタビュー
中島教育長インタビュー

 道教委は北海道教育の一層の充実・発展に向けて各種施策を展開しており、道民もその動向に強い関心を寄せている。本紙では6月に就任した中島俊明教育長に教育諸課題への対応や今後の展望を聞いた。中島教育長は、知事部局での経験をもとに関係部局、産業界、地域と連携による人材育成を進め、ICTを活用した授業改善、学校のDX、教職人材の確保などの施策に取り組んでいくと表明。学習者主体の授業や遠隔授業など新しいかたちの学びに大きな期待を寄せ、地域活性化や学校の魅力化にもつながる地学協働の取組を進めることに意欲を示した。

―就任に当たっての抱負

 これまで知事部局で産業人材の育成・確保、産学官連携、地域づくりなど色々な業務に携わり、教育問題に対する道民の皆さまの高い関心と大きな期待を感じています。教育委員会での勤務は初めてですが、教育課題が山積する中、児童生徒、保護者、道民の期待に応える充実した教育環境をいかにして整備するかに大きな責任を感じています。

 経済部長を2年経験して一番痛感したことは人手不足の課題です。高校・大学の卒業者が道外に就職するケースも多く、産業人材の確保が非常に困難な状況となっています。道外からの人材確保、外国人材の活躍促進、若者の地域定着などの課題と向き合い、道教委を含む様々な部局と連携して取り組んできました。

 教育でも外部人材の活用が進んでいますが「地域の支援を得て課題を解決する」手法はまさに各行政分野で共通の方法と感じます。これまでの経験を生かし、子ども・若者を含む道民の皆さまに充実した教育環境の恩恵を感じてもらえるよう、主体的・精力的に課題の解決に取り組むとともに、道庁関係部局や産業界と連携して人材育成を進め、北海道の教育の充実につながるよう尽力していきたいと考えています。

―児童生徒の学力・体力の向上とその対策

 6年度の全国学力・学習状況調査の結果では、全ての教科で平均正答率が全国平均に達していないものの、中学校の国語は全国平均とほぼ同水準で、小学校の国語および中学校の数学では全国平均との差が縮まるといった改善傾向が見られています。主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善など、これまでの各市町村教育委員会や各学校が一体となった取組による成果が現れてきているものと考えます。

 一方で、小学校の算数では全国平均との差が広がっており、子どもたちの学力や学習状況の分析と成果や課題を検証し、学校での学習指導の充実と学習状況の改善を図る検証改善サイクルのさらなる充実に向けた取組が必要と考えています。

 このため、小中高の12年間を一体的に捉え、児童生徒の学力・学習状況等の分析結果を踏まえたエビデンスに基づく学力向上や1人1台端末の効果的な活用などによって、授業改善、望ましい学習習慣・生活習慣の定着に向けた取組を進めていきたいと思っています。

 体力に関しても小中男女いずれも体力合計点が上昇して全国平均との差も縮まるなど改善の兆しが見られています。一方、授業で「できた、わかった」を実感している子どもの割合は全国と比べて低く、1週間の総運動時間の短さや平日のスクリーンタイムの長さなど基本的な生活習慣に課題があります。

 運動・スポーツに意欲的に取り組む態度を醸成するため、体育・保健体育の授業改善の取組を一層進めるとともに、家庭・地域と連携し、望ましい運動習慣・生活習慣を確立する取組を一層充実させる必要性を感じています。子どもたちが確かな学力、健やかな体、豊かな心を身に付け、自らの良さや可能性を伸ばしていけるよう、学校・家庭・地域・行政が一体となって取組を進めていきたいと考えています。

―教員の確保

 人口減少や少子高齢化の進行で全国的に人手不足が進んでいます。特に本道では様々な事情で教員採用選考検査の受検者数が減少しています。一次選考検査の会場増設、民間企業経験者を対象とした社会人特別選考枠の拡大など改善に取り組んでいますが、さらに多様な人材を確保する方策を検討する必要があります。

 教員が心にゆとりを持ち、子どもたちと向き合うことができる環境整備も重要です。教員志願者にとって学校という職場が魅力ある職場となるよう、市町村教委、学校とも連携し、地域のご意見をいただきながら働き方改革を着実に進めなければなりません。本年度からスタートした第3期北海道アクション・プランで掲げる取組を着実に進め、成果を出していきたいと思います。

 多忙な部分がクローズアップされがちですが、昔も今も変わらない教職の魅力を粘り強く発信する必要があります。高校生を対象とした「教員養成セミナー」や「みらいの教員育成プログラム」、大学生を対象にした「草の根教育実習」など、生徒・学生が子どもや現職の先生と直接関わることができる取組を通して教職の魅力を伝え、質の高い教職人材の確保に努めていきたいと考えています。

―学校DXの今後

 国の調査によると、札幌市以外の道内小・中学校で、授業でICT機器をほぼ毎日活用する学校の割合は全国平均を上回り、端末を使って自分の意見を表明したり、調べ物をしたり、授業でうまく活用する学校が非常に多くなっています。一方、学校間で取組状況に差もあり、全ての学校で日常的・効果的に活用ができるよう、授業改善の取組を進めていく必要があります。

 指導主事の学校訪問による指導助言のほか、ICT活用ポータルサイトによる情報提供、国のリーディングDXスクールの実践事例の普及など、全ての学校の教員がICT活用指導力の向上、授業改善に取り組んでいただけるよう、われわれとしても力を尽くしたい。

 小・中学校における1人1台端末の更新に向け、道内市町村教委と連携した共同調達会議も立ち上げました。自治体と調整して機器の更新を進めていきたいと思います。

 ICT支援員を道立学校に派遣し、授業改善や校務効率化に向けて技術提案・指導助言を行う新規事業も進めています。情報化に関する先進事例の共有も進めており、これらの取組を通じて子どもたちの多様な学びを支える教育環境の充実に取り組んでいきたいと思います。

 先日ある小・中学校を視察したのですが、私や私の子どもが受けていた頃の授業と大きく変化していることに驚きました。ICTを有効に活用することはもちろん、子どもたち自ら課題を調べ、友達同士で話し合い、答えを探し、教員は子どもたちの学びをアシストしていました。筋道を立てて考え、説明する力につながる可能性を感じています。

 T―base(道高校遠隔授業配信センター)では、教員が様々な工夫を講じて生徒の様子を見取り、効果的に授業を行う様子を視察しました。小規模校においても質の高い授業を受ける環境を整備する、まさにICTを活用する最高の事例と思っています。地域に残ってくれる子どもが増え、地域の活性化にもつながる遠隔授業にとても期待しています。

―地域創生の核となる学校づくり

 本年度から地学協働まちづくり推進事業(北海道MA+CHプロジェクト)が始まりましたが、地学協働は非常に重要な取組だと思っています。子どもたちの柔軟な発想や斬新な取組を受け止める包容力を持って地域創生を進め、学校の魅力化、地域の活性化につながるよう期待しています。プロジェクトの指定校が成果を上げることができるよう、事業の円滑な推進に力を尽くし、市町村教育委員会、高校、企業などの関係者と連携して取り組んでいきたいと思います。

―産業人材の育成

 経済部では半導体関係も担当してきましたが、子どもたちが理系に興味を持ってもらえる取組も充実させていきたいと思っています。あらゆる機械に使用され、われわれの生活を支える半導体への理解を深めることは非常に重要です。世界の最先端となる半導体を製造するラピダスプロジェクトが進む北海道に住んでいることに誇りに思い、取り組んでいきたいと思います。

 しかし、本当に大切なことは基礎となる学力や生活習慣です。これらの基礎力があれば、おのずとあらゆる分野に対応できる人材が育つと思っています。

 地域への愛着を育む取組や道内の働き先も必要です。「ぜひ北海道で就職したい」と思ってもらえる北海道にする、あるいは地域に向き合う姿勢を育むこと。道内企業への定着率が上がれば、おのずと産業人材の定着も進むと期待しています。

―北海道教育の将来展望

 北海道は広く、多くの人が各地に住んでいます。全ての子どもたちが、いかなる状況にあっても質の高い教育を受けられるよう「教育の機会均等」と「学びの質の保障」が非常に重要と思っています。

 子どもたちが充実した学びのプロセスを通して社会に出るための力を身に付け、夢や希望を持ち、自らの力で新しい社会を創り出す持続可能な未来の社会の創り手として成長できるよう、各地域の状況にしっかりと目配りしながら、学校の魅力化やDXの推進などの施策を進めていくことが重要です。

 広域分散な北海道では様々な課題を抱えていますが、子どもたちが北海道に対する誇りや愛着を持ち、一人ひとりが自分の良さや可能性を認識し、様々な社会的変化を乗り越える資質・能力を育むことが、われわれ北海道で暮らす大人や教育関係者の責務だと考えています。

 各地域の特色ある暮らし、地域・資源・文化・歴史を生の教材として生かし、子どもたちが生涯にわたって学び続ける意欲を持ち続けられるよう、学校、保護者、市町村はもとより、道民の皆さまのニーズ、社会経済活動の状況なども十分に踏まえながら、本道教育の充実・発展に向けて全力を尽くしていきたいと思っています。

 なかじま・としあき

 平成元年京都大法学部卒。令和元年道経済部次長、2年上川総合振興局長、3年総合政策部次世代社会戦略監、4年経済部長を務め、ことし6月1日付で現職。

 昭和41年生まれ、58歳。小樽市出身。

(道・道教委 2024-08-19付)

その他の記事( 道・道教委)

道教委 民間企業と連携協定 通級指導の調査研究推進 特支免許外教諭指導体制構築へ

 道教委は、特別支援教育に携わる教員向け支援サービスを提供している㈱LITALICOと連携・協力に関する協定を結ぶ。通級による指導の対象生徒が在籍する学校の教員が効果的に指導・支援ができるよ...

(2024-08-21)  全て読む

道教委 町村教委連要望に回答 期限付教員確保の取組充実 代替後正規加配 国に要望

 道教委は、道町村教育委員会連合会(荒谷順一郎会長)による「7年度文教施策に対する要望活動」に対する回答をまとめた。期限付教諭の確保に向けては、教員採用選考検査の見直しなど取組の充実に努めて...

(2024-08-21)  全て読む

道教委 校務DXへ支援サイト 各種ICTツールを公開 管理職など使用者別に収録

トップ校務DX支援①ホームページ  道教委は校務DX支援サイト「Smart&Happy」をオープンした。管理職、教職員、養護教諭、児童生徒の使用者別にICTツールのテンプレートとなる「お役立ちツール」を収納。自由にカスタマイ...

(2024-08-20)  全て読む

道 こども計画に反映へ ヤングケアラーから意見聴取 現状や課題、必要な支援を調査 7年度策定に向け

 道は7年度からスタートする北海道のこども計画の策定に向け、早ければ今月にも道内のヤングケアラーを対象とした意見聴取を開始する。アンケートやヒアリング調査を通して当事者の現状や課題、必要な支...

(2024-08-20)  全て読む

道教委 高大連携留学生派遣校 札幌月寒など19校決定 9月稚内、釧路明輝皮切りに

 道教委は、高大連携「Hokkaido Study Abroad Program」における6年度留学生派遣校として、札幌月寒高校など道立高校・中等教育学校19校を決定した。9月4~6日に実施...

(2024-08-20)  全て読む

釧路局 未来会議プロジェクト 地域の将来を考えよう 小中学生ができること考える

くしろ未来会議プロジェクト  【釧路発】釧路教育局は7月下旬、第1回「くしろ未来づくりプロジェクト」くしろ未来会議プロジェクトを開催した。本年度からスタートした局独自事業には、管内小中学生43人が参加。地域活性化に資す...

(2024-08-16)  全て読む

高校配置計画地域別検討協〈根室〉 魅力発信へ中高連携を 管内各市町村の支援等共有も

第2回高校配置計画地域別検討協議会  【釧路発】道教委は7月下旬、第2回公立高校配置計画地域別検討協議会・根室学区をオンラインで開催した。管内関係者約40人が参加。管内高校に対する各市町教委の支援や高校の魅力発信に関する方法な...

(2024-08-16)  全て読む

高校配置計画地域別検討協〈後志〉 生徒の意思尊重し進路指導を 効果的な情報発信考えて

高校配置計画地域別検討協  【小樽発】道教委は7月下旬、第2回公立高校配置計画地域別検討協議会・後志学区をオンラインで開催した。管内の教育関係者ら約100人が参加。協議では、生徒の意思を尊重した進路指導や、高校の効果...

(2024-08-16)  全て読む

道教委 中島教育長が緊急メッセージ 個人情報 確実に守る 道立高校の流出事案受け

教育長緊急メッセージ  道教委は8日、オンラインで臨時の道立学校長等会議を開き、中島俊明教育長が道立高校長に対し、個人情報の漏えい防止に向けた取組を徹底するよう緊急メッセージを送った。道内公立学校において児童生徒...

(2024-08-16)  全て読む

道北4管内合同で中堅教諭養成研修 主体的な教職員集団に 宗谷局 講話やグループワーク

ミドルリーダー養成研修 【稚内発】宗谷教育局は7月29日、宗谷管内ミドルリーダー養成研修を道北4管内合同で初開催した。学校管理職を志す教員の増加などを目的としたもので、宗谷・留萌・上川・オホーツク管内の教職員64人...

(2024-08-09)  全て読む