【28年新春インタビュー】道教委・柴田達夫教育長に聞く 学力・体力向上へ取組一層 「本道の子は、地域全体で育む」
(道・道教委 2016-01-01付)

柴田教育長インタビュー
【新春インタビュー】柴田教育長

◆学力 全教科で全国平均以上に

 ―二十七年度全国学力・学習状況調査の分析結果からみえてきた課題と、今後の取組の方向性についてお聞かせ下さい。

 二十七年度全国学力・学習状況調査は、毎年実施している国語、算数・数学に、三年ぶりとなる理科を加えた小・中学校十教科で実施されました。

 本道の状況は、全国の平均正答率との差が五教科で縮まり、中学校国語A、中学校理科は全国平均以上となるなど、前年度に引き続き改善の傾向がみられ、教育委員会や学校、家庭、地域の取組が一定の成果として着実に表れてきたものと受け止めています。

 この背景には、道教委が「全国平均以上」という目標を掲げた二十三年度以降、放課後や長期休業中に補充学習に取り組む学校が大きく増えたという状況があるなど、各学校においては、調査結果を活用した検証改善サイクルが機能し始めていると感じています。

 一方で、授業改善や生活習慣にかかわっては、授業の冒頭で目標を示したり、最後に振り返ったりする活動に課題があることや、子どもたちに家庭学習の習慣が十分に身に付いていないことが、より明確になってきました。

 そのため、道教委では、昨年から、課題解決の具体的な方策を示した各種資料を作成し、授業改善については、各管内で開催している「学力向上推進研修会」において、各学校で中心となって学力向上に取り組んでいる教員を対象とし、資料に基づく説明や発表、協議を通して、授業改善の道筋を全道の小・中学校間で共有できるよう取り組んできました。

 また、家庭での学習習慣の定着を図るため、幼児期から高校卒業までを見通し、各段階における保護者の適切なかかわり方を示した普及啓発資料を知事部局、PTAと連携して作成し、全道の小・中学生の保護者に配布するほか、保護者や地域の方々と教員とが一堂に会して学力向上や望ましい生活習慣などについて共通理解を深める「子どもたちの学力について考える会」を開催するなどの取組を進めてきたところです。

 さらには、市町村教委や校長会、保護者の代表を対象にした会議を開催し、課題解決の方策について共通理解を深め、道内の教育関係者や保護者が一丸となって学力向上に向けた取組を一層進めることを確認してきました。

 昨年十一月末には、こうした本道の課題や解決の方策とともに、公表に同意いただいた市町村の状況を掲載した、『全国学力・学習状況調査 北海道版 結果報告書』を公表しました。

 教育の機会均等という義務教育の趣旨を踏まえると、本道に住むすべての子どもたちに社会で自立するために必要な学力を身に付けさせなければなりません。

 道教委としては、二十八年度には、すべての教科で全国平均以上となるよう、今後も、学校、家庭、地域、行政が一体となった「ほっかいどう“学力・体力向上運動”」などを推進してまいりますので、教育関係者や保護者の方々はもとより、広く道民の皆さんのご理解とご支援をよろしくお願いいたします。

◆体力 「1校1実践」の推進を

 ―体力について、全国調査の結果を踏まえた本道の子どもたちの課題と、今後の取組についてお聞かせ下さい。

 体力は健康の維持だけではなく、意欲や気力といった精神面の充実にも大きく関わっており、あらゆる活動の基盤として極めて大切なものです。

 このため、子どもたち一人ひとりが、生涯を通じて健康で活力ある生活を送ることができるよう、義務教育の段階から、運動に親しむ資質や能力の育成、体力の向上に努める必要があります。

 本年度の全国体力・運動能力、運動習慣等調査における本道の状況は、依然として、各種目の得点を合計した体力合計点が小中・男女いずれも全国平均を下回っておりますが、前年度と比較して、体力合計点が小中・男女いずれも上昇し、種目別でも、多くの種目で全国との差が縮まっており、市町村教委や学校における、体力向上に向けた取組の成果が改善の傾向として着実に表れてきたものと受け止めております。

 本道の子どもたちの体力を向上させるためには、子どもたちに、学校や家庭等において、運動や外遊び、スポーツの楽しさを実感させ、運動習慣の定着や生活習慣の改善を図ることが重要であることから、各学校には、引き続き、手軽な運動を通じて体力の向上につなげる「一校一実践」など、各学校における創意工夫を生かした取組や体力にかかわる全国調査の結果に基づく授業改善等に向けた取組を推進していただきたいと考えております。

 また、家庭においては「一日六十分以上」などといった時間の目安を設けて、子どもたちに運動習慣を定着させるための働きかけを行うこと、地域においては、子どもたちが運動に親しむことのできる機会をより多く提供することなど、子どもたちの体力を高めるための教育環境づくりを進めていくことをお願いしているところであります。

 道教委では、二十九年度までに「全国調査における本道の子どもたちの体力合計点が全国平均を上回ること」を目標とし、本年度は、地域の社会教育団体等と連携した各種スポーツ教室の実施や親子でスポーツに親しむ機会の提供などに取り組むとともに、道内四つのプロスポーツクラブや大学などから、それぞれの専門性を生かして開発された子ども向けの運動プログラムの提供を受け、モデル校での実践研究のほか、道内四会場での教員研修の実施など、体育授業の改善や運動機会の拡充に取り組んでおります。

 今後、体力向上に向けた取組が道内の各地域において、より一層推進されるためには、道内すべての地域において、学校、家庭、地域、行政が一体となって子どもたちの体力づくりを進める機運を高めていくことが大切であることから、これまでの取組を着実に推進するとともに、道民挙げての運動として子どもたちの体力づくりに向けた取組が展開されるよう、道独自の強調月間を設定するなど、体力向上に向けた取組を一層充実してまいりたいと考えておりますので、教育関係者や保護者の方々はもとより、広く道民の皆様の、一層のご理解とご協力をいただきますよう、よろしくお願いいたします。

「本道教育のめざす姿」実現へ

 ―本年度新たに開催した総合教育会議を生かしながら、本道の教育行政の推進や諸課題の対応にどのように取り組むのか、また、策定した総合教育大綱への思いについて伺います。

 今までの教育委員会制度については、選挙で選ばれる首長との意思疎通や連携に課題があり、地域住民の意向を十分に反映されていないことなどが指摘されていました。

 このような背景から、地方教育行政の組織および運営に関する法律の一部を改正する法律が成立し、首長が教育行政と連携して責任を果たせるように総合教育会議が設置されたところです。

 総合教育会議は、学力・体力の向上、いじめの解消など、様々な教育課題の解決に向けて、知事と道教委が教育政策の方向性を共有し、一致して、教育行政を進めていくための仕組みであると考えております。

 例えば、地域社会と学校の連携や、地元企業と協力したキャリア教育の充実、複雑な人間関係や心の問題から起こるいじめ問題の解決などのためには、地域振興、経済・産業、保健福祉などの行政を担う知事と道教委が密接に連携することによって、総合的、効果的な取組が可能となります。

 道教委としては、「本道の子どもたちは、道民の手で、地域全体で育んでいく」という姿勢で、本道の将来を担う心身ともに健やかな人材を育成していくことが重要と考えております。

 昨年八月には、知事と道教委が連携して取り組む、生活困窮世帯等の子どもの学習支援事業の推進会議が開催されました。引き続き、こうした会議を通じて、地域の実情や家庭の状況などを含め、幅広く情報を交換するなど、知事と方向性を共有しながら、道民の皆さんとともに、子どもが安心して学べる環境づくりに努めてまいります。

 今後も、知事との連携をさらに深め、総合教育会議において十分に協議しながら、様々な課題に適切に対応できるよう教育行政を推進してまいります。

 教育大綱については、本道の教育、学術および文化の振興に関する総合的な施策について、その目標や施策の根本となる方針を定めたものです。

 教育大綱の策定に当たっては、地域全体での子どもたちの学びへの支援や社会で生きる力の育成などを重点的な取組にしていただくなど、本道教育がこれまで積み重ねてきた取組などを基礎としながら知事に策定いただいたところでございます。

 今後は、個別具体的なプロジェクトの実現を着実に進めるための知事部局と道教委との連携チームの取組などを通して、知事とより一層の連携強化を図り、大綱に定められた「本道教育のめざす姿」の実現に向けてしっかり取り組んでまいります。

◆CS導入加速へ理解深化

 ―コミュニティ・スクール(=CS)の導入に向けて力を入れているようですが、導入の期待と今後の取組を含め、市町村教委へ呼びかけたいことは。

 現在、子どもたちを取り巻く環境の急速な変化に伴い、多様化・複雑化する社会状況を背景とする課題を解決するためには、学校だけが様々な課題や責任を抱え込むのではなく、より一層地域と向き合い、学校と地域の協働体制を構築することが求められております。

 学校は、子どもたちの豊かな学びと成長を保障する場としての役割のみならず、将来の担い手となる人材を育成する役割を果たすことを考えると、学校と地域は互いに理解しつつ、対等な協働関係を築くことが重要であり、それぞれの地域において、相互補完的な連携・協働に基づいた社会総がかりでの教育を実現する必要があると考えております。

 また、それぞれの地域において、学校の教職員の異動や、学校を支える地域の方々の世代替わり等に左右されない組織的・継続的な連携・協働の仕組みを構築し、恒久的にすべての子どもを見守り、支援することが重要であると考えているところです。

 このような中、CSは、地域住民が学校運営に参画し、学校と地域が力を合わせて子どもを支えることによって、「地域とともにある学校づくり」や地域コミュニティづくりを進める上で、地域人材の活用による地域の活性化や、学校と地域の役割を明確にすることによって、地域が教育の当事者意識をもって課題解決を進めること、教員が子どもと向き合う時間を確保できることなどの効果が期待される有効な手立てであると認識しております。

 国においては、今後の学校と地域の関係性を重視し、すべての公立学校において、CSの設置を努力義務とする方向で、本道においても、北海道総合教育大綱の重点的な取組の一つに位置付け、知事部局と教育委員会の連携のもと、次代の北海道を支える人材の育成に努めることを明らかにしたところです。

 道教委としては、子どもたちのために、地域が学校運営に参画する持続可能な仕組みの構築へ、もう一歩踏み出していただきたいと考え、今後とも、文部科学省職員および文科省が委嘱したCS推進員「CSマイスター」による、導入促進のための課題解決を図る協議会を開催するほか、すべての教育局において制度の周知を図る説明会を開催し、教育関係者はもとより、多くの方々にCSについての理解を深めていただくなど、導入の促進に向けた取組を進めてまいります。

 各市町村におきましても、それぞれの地域の実情に応じて、地域の人々と目標やビジョンを共有するなどして、学校と地域が一体となって子どもたちを育む「地域とともにある学校」づくりに向け、ご理解とご協力をお願いいたします。

◆「オール北海道」へ連携密に

 ―北海道教育の将来の展望についてお聞かせ下さい。

 本道においては、全国を上回るスピードで進行する人口減少や少子高齢化、グローバル化の進展の中で、現在と将来を取り巻く環境は極めて厳しいものがあります。

 そうした中、本道が持続的に発展し地方創生を実現していくためには、本道の将来を担う心身ともに健やかな人材の育成が、最も重要な課題です。

 特に、本道の教育においては、子どもたちの学力や体力、いじめや生活習慣の問題など、様々な課題への対応が求められております。

これらの課題解決に向けては、引き続き、課題の内容や背景等をしっかりと分析・検証し、スピード感と緊張感をもって取り組んでいくとともに、市町村教委や学校をはじめ、家庭や地域、様々な関係機関・団体がそれぞれの立場を自覚し、役割を果たしながら、「オール北海道」として、より一層緊密に連携していくことが大切であると考えております。

とりわけ家庭教育は、すべての教育の出発点であり、保護者が子どもの発達段階に応じた子どもとのかかわり方を学び、理解し、実践する力を身に付けることが重要です。

こうしたことから、本年度から、保護者同士が気軽に学びや相談ができる場を確保するため、家庭教育ナビゲーターが中心となり、家庭教育「学びカフェ」推進事業を実施しているところです。

引き続き、地域全体で子どもたちを守り育てる社会の実現に向け、地域住民と保護者、保護者同士が日常の挨拶や会話、様々な活動を通じて交流の輪を広げ、つながりを深めていただくようお願いいたします。

本道教育の将来に向けては、学力・体力の向上はもちろん、人口減少が進行する中、学校の規模や地域にかかわらず、教育の質の維持・向上を図るため、ICTを活用した遠隔授業を進めるなど教育の質の維持・向上と、地域とともにある学校づくりのツールとしてコミュニティ・スクールの導入などが重要な課題になってくるものと認識しております。

今の子どもたちが生きる未来には、厳しい挑戦が待ち受けていることが予想されます。そうした時代にあっても、子どもたちが、しっかりと自立をし、優しい心をもって、ともに支え合うことができ、そしてまた、たくましく生きていける、そのような力を培うことは、大人である我々全員の責務です。

道教委としましては、「北海道の子どもたちは、道民の手で育んでいく」という思いで、道民の皆さんとこれまで以上に連携を図りながら、成果と課題を確認し、本道教育の躍進に向けて、常に工夫と改善を重ね前例踏襲や現状維持に甘んじることなく、本道の子どもたちのために全力で取り組んでまいります。

道民の皆さんのご理解とご協力をお願いいたします。

 ―ありがとうございました。

(道・道教委 2016-01-01付)

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